1.はじまりの
第三者視点で書いていきます。
1985年。突如として世界中でアニメや漫画に出てくるような異能力を開花させる者が出てきた。それは子どもから老人まで規則性がなくランダムに。原因は未知のウイルスだとか、宇宙人からの攻撃、人類の進化など様々な憶測が飛び交っているが2018年となった今でも分かっていない。
国際連合は『異能力者保護法』を発令し順調に世界の急な変化に対応していると思えたが、ほとんどの異能力者が申告をしていない。日本も現在一万人ほど異能力者がいると言われているが、保護できているのはたったの10%ほど。そして20%は穏やかな普通の人間と変わらない日常のため隠している者。
「この辺で火を出す異能力者がまた放火事件を起こしたらしい…」
「他にも雷の異能力者に襲われた人が感電死したんだって」
そして残りの70%は残念なことに異能力者を犯罪に利用している。これは世界的な問題となっており数々の悲惨な事件が起きてしまっている。異能力による犯罪は証拠として利用するのが技術的に難しい。そして異能力者は普通の人間より身体能力優れている。人間の完全なる上位互換な生物。
「早く捕まえてくれるといいわね」
「でも大丈夫よ。どうやら『異能力者殺し』が捜査してくれているらしいわ」
「え、本当に!?」
「娘が学校の帰りに事情聴取されたらしいのよ」
「じゃあもう一安心ね」
日本政府は『異能力犯罪対策組織(AA)』を設立した。そして三年前に突如として現れ、何人もの異能力による犯罪を解決してきた者がいた。ついた二つ名は『異能力者殺し』
◇
「すー…はー…」
『異能力犯罪対策組織(AA)』の東京にある本部の一室。その扉の前で心を落ち着かせようと深呼吸をする女性が一人。どこか緊張している彼女の様子は初々しさを感じる。
「失礼します!」
元気な挨拶と共に彼女は部屋の扉を開けた。会社とあまり変わりない風景。机と椅子が並べられ、書類作成に励むものや、同僚と雑談を楽しむ者もいる。しかし、彼ら全員の手は止まり、視線は彼女の方へとむけられる。
「もしかして今日来るって言ってた新人の子かい?」
彼女のもとに一人の男が近づいてくる。クマと見間違えるほどの大きな巨体。その威圧感に彼女は恐怖を感じたが、その鍛え抜かれた体格とは裏腹に表情は優しく、彼女は「ほっ」と安心した。
「はい。井上 梓です。本日からよろしくお願いします!」
「良い挨拶だね。じゃあ持ってきてる書類を確認しようか」
「はい!」
男に案内され梓は部屋の奥へと入っていき、応接用に置かれたソファーに対面するように腰掛ける。そして梓がカバンから取り出した書類を男は受け取って確認する。
「井上 梓 20歳。先月にAA育成学校を先月に卒業。学年三番目の成績で卒業とは凄いじゃないか!」
「もっと上を目指していましたが、敵いませんでした…へへっ」
AA育成学校とはその名の通り『異能力犯罪対策組織(AA)』を目指すものたちが訓練を受ける国が運営する場所だ。毎年試験に勝ちぬいた200人以上が入学するが、その半分が訓練の厳しさに逃げ出す。身体能力、頭脳の二つに置いて総合的に評価される中、訓練にも耐え三位で卒業することは名誉あるものだ。しかし彼女は絶対に勝つことができなかった二人の人物を思い浮かべ残念そうにしていた。
「そういえばその…」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。第一位捜査官の佐伯 克典だ。よろしく頼むぞ第六位捜査官 井上 梓」
「第一位捜査官」という単語が梓の耳に入った瞬間、驚きの表情を隠せていない。『異能力犯罪対策組織(AA)』に所属する捜査官は7つの階級に分けられる。上から特位捜査官、第一位捜査官、第二位捜査官、第三位捜査官、第四位捜査官、第五位捜査官、第六位捜査官。捜査官は全国に1万人以上いる中で10人ほどしかいない。克典の体格を見て納得する梓。そして自分が第六位捜査官と呼ばれたことに気づいた。つまり「うちのグループに受け入れる」と言う意味だ。
「はい!誠心誠意努めて参ります!」
「おう」
そうやって梓と克典は敬礼を交わした。部屋の中では仕事をしていたものたちも全員が拍手で梓の仲間入りを祝っている。
「早速今日から働いてもらうが教育係兼バディは誰にしようか」
「それなら希望を言ってもよろしいでしょうか!」
「見当はつくが言ってみろ」
「『異能力者殺し』さんです!」
梓の言葉に克典を含めさきほど拍手で祝っていたの者たちも困ったように唸る。何を隠そう数ある中で梓がこの部隊を志願した理由は『異能力者殺し』が所属しているからだ。
「だろうな。理由は?」
「『異能力者殺し』さんに憧れて私は捜査官を夢見てきました。だから私の願いを考慮していただけるのであれば『異能力者殺し』さんの下で働きたいです!」
「それを隊長の俺の前でいうのか」
「あ」
まるで梓の発言は克典の下で働くのは不服だとも読み取れるような言い方であった。自分の失言に思わず両手で口を覆う梓。その様子を見て「面白い奴が入ってきた!」と大笑いする克典。
「お前だったらあいつに付いていけるかもな。だが覚悟はしないといけないぞ」
「覚悟はしているつもりです。しかし、理由を教えていただけますか?」
「死ぬぞ」
先ほどまでの優しい表情とは打って変わり、克典の表情は冷酷なものへと変化した。声の雰囲気も別人の唸るよな低い声に梓は肩を震わせた。克典が図体に似合う雰囲気となる。梓はやっぱり第一位捜査官なんだと再認識する。
「生涯にバディを変更する回数は五回と言われている。大人の事情、不仲、隊の移動、引退など変更する理由は様々だが最悪なのは死別だ」
異能力の犯罪が蔓延するこの世界。異能力によって多くの死者も出ている。その死者の中にはもちろん多くの捜査官の命が加算されている。死と隣な職場には違いない。
「だがやつは捜査官になって1年目で10人以上とバディを入れ替わっている。そして半分は死別だ」
「それでも私は『異能力者殺し』さんの下で働きたいです。死ぬ覚悟はできています」
克典の威圧に屈することなく梓はそう答えた。克典の瞳に映る梓の姿はとても凛々しいもので、本気の人間にしかできない目をしていた。そして納得したように克典はソファの背もたれに体重を任せ、元の優しい雰囲気となる。
「そうか。あいつはそれから2年目以降1人で行動しているが丁度よかった。そろそろあいつもバディを組んでもらおうと考えていたところだ」
「ありがとうございます!」
梓は克典に深々と頭を下げた。そして小さくガッツポーズをした。梓はバレないようにしていたが克典にはお見通しのようで、その様子を見て穏やかに笑った。
「それで『異能力者殺し』さんはどちらに――――」
「俺を呼んだか?」
「!?」
背後から聞こえた声に梓の全身に鳥肌が立ち冷汗が流れる。AA育成学校の評価項目の一つに「気配などを察知する能力」がある。それに関して梓は優秀であり自信があった。しかしすぐ背後に立たれていたのに、声がするまで全く気付くことができなかった。克典から感じた冷酷な威圧とは違うタイプのものを嫌と言うほど感じる。克典が目の前に現れた野生の大型猛獣だとしたら、背後から感じるのは世界のすべてを恨んだ死神だ。
「紹介しよう。『異能力者殺し』外道 叶だ」
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