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出立

 


 カインが征魔賊伐将軍に任命されてから数日後、彼の下に集められた討伐隊のメンバーたちが次々と城に集結していた。目的は、魔王軍の残党である魔物の討伐。かつての魔王が倒された後も、その手先であった魔物たちは各地に散らばり、未だに人々に脅威をもたらしていた。討伐隊の編成は、急務でありながらも慎重に進められたが、その雰囲気は重苦しかった。



 広間に集まったメンバーたちは、カインの姿を一瞥しつつも、彼との距離を意識的に保っている。覚醒者としての力を持つ彼を、誰もが恐れているのは明らかだった。しかし、彼が征魔賊伐将軍という肩書を持つ今、表立って批判する者は一人もいない。カインの周囲には、見えない壁が存在しているように感じられた。



 そんな中、一人だけがカインに近づく。それは、彼の幼馴染であり、かつての仲間であるリリスだった。彼女は魔王討伐の戦いの中で、カインと共に数々の試練を乗り越えた魔法使いだ。かつて覚醒者としての力を持っていた彼女も、今ではその力を失っている。しかし、魔法のスペシャリストであるリリスにとって、それは致命的な問題ではなかった。覚醒者の力を失ってなお、彼女の魔法の才能は衰えることなく、討伐隊においても不可欠な存在だった。



「カイン、式典の日ぶりね」



 リリスは微笑みながら近づき、その青い瞳で彼を見つめた。彼女は、変わらぬ優雅さを保ちながらも、その言葉にはどこか張り詰めた緊張感が感じられた。討伐隊のメンバーたちが彼を避ける中で、唯一、彼に対して普通に接してくれる存在がリリスだった。



「リリス……君が来てくれて、本当に助かる」



 カインは少し安堵した表情を浮かべた。幼馴染であり、何度も命を共にしてきた彼女の存在が、今の状況で彼にとってどれほど心強いか。覚醒者としての力を失ったことが周囲からの距離を生む中、リリスは変わらず彼の側に立ってくれている。それがカインにとっては救いだった。



「私の魔法がまだ役に立つなら、いくらでも手を貸すわ。覚醒者じゃなくなっても、私は私だから」



 リリスの言葉には、強い自信と決意が滲んでいた。覚醒者であることを誇る者もいたが、リリスはそれを特別視していなかった。彼女にとって、魔法こそが自分の存在意義であり、覚醒者であるか否かは重要ではなかったのだ。



「それにしても、あなたが将軍になるなんて、少し驚いたわ」



 リリスは軽く肩をすくめながら、カインに微笑みかけた。



「俺だって、こんな役職に就くとは思っていなかったよ」



 カインは苦笑いを浮かべ、リリスに答えた。彼が征魔賊伐将軍に任命された理由、誰が何の目的で彼をこの役職に据えたのか。今でも完全には理解できていない。しかし、いずれにせよ、今のカインにはその命令に従って討伐隊を率いるしか選択肢は残されていなかった。



 リリスはカインの肩に軽く手を置き、真剣な表情で彼に言葉をかけた。



「私がいるわ、カイン。どんな困難が待ち受けていようと、私たちはまた一緒に戦える」



 その言葉に、カインはわずかに頷いた。リリスが側にいる限り、彼は一人ではない。幼馴染であり、かつての仲間として、リリスは常に彼の力となってくれるだろう。



 討伐隊の準備は着々と進んでいたが、その雰囲気は依然としてぎこちなかった。他のメンバーたちは、カインが隊長であることに対して表立って文句を言うことはなかったが、その視線や態度からは不安と恐れが見え隠れしていた。覚醒者の力を持つカインが、他の人間とは異なる存在であることを、彼らは肌で感じているのだ。



 しかし、カインはその恐れに対して、どう対応すればいいのかをまだ見出せずにいた。リリスがいることで心の支えを得ているが、他のメンバーたちとの間には依然として埋めがたい溝があった。



「隊の連中……俺のことをどう思っているんだろうな」



 カインは小声で呟いた。リリスはその言葉に小さくため息をつき、彼の顔を見つめた。



「恐れているのよ、カイン。覚醒者としての力は、魔王との戦いでみんな目に焼き付いているから。でも、あなたがどんな人間かを知れば、そのうちわかってくれるわ」



 リリスの言葉には、優しさと希望が込められていた。しかし、カインはそれが簡単には解決しない問題であることを理解していた。彼の力が圧倒的であればあるほど、彼らの恐れもまた増していくのだろう。それでも、カインにはやるべきことがある。



「とにかく、行くしかないな」



 カインは気持ちを切り替え、討伐隊を率いて遠征に出る覚悟を決めた。どんな不安があろうとも、今はそれを乗り越えるしかなかった。



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