暴かれた力
日が沈み、王都の街が夕闇に包まれる頃、カインは広場に設置された巨大な噴水の縁に腰掛けていた。人々は魔王討伐後の平和な日常を享受し、広場を行き交う市民たちの顔には明るい笑みが浮かんでいた。だが、カインはその喧騒の中で、一人孤独を感じていた。
リリスに自分の秘密が露呈したその日から、カインは一層注意深く行動するようになっていた。リリスは彼の秘密を守ると約束してくれたが、彼女だけではなく、他の仲間たちにもいずれ知られてしまうのではないかという不安が消えなかった。覚醒者としての力を失わないままの自分――その異質さが周囲にどう受け取られるかは予想できない。
ふと、カインは背後から近づく不快な気配に気づいた。振り返ると、そこには一人の男が立っていた。茶色のマントを羽織り、黒い眼差しがカインを見つめている。男の名はザイルス。王国に仕える高位の魔導士であり、その名は広く知られていたが、カインとはほとんど接点がない人物だった。
「君が、あの魔王を倒した英雄か…」
ザイルスは不自然な笑みを浮かべながら、カインに歩み寄った。彼の声にはどこか冷たさが感じられた。
「そうだが、何か用か?」
カインは警戒心を抑えつつ答えた。ザイルスとは顔見知り程度の関係だが、彼が何かを企んでいることはすぐに察知できた。
「用というほどのものではないさ。ただ、少し気になることがあってね…」
ザイルスはカインの腕に目を向けた。まるで何かを探るような目つきだった。カインはとっさに袖を押さえ、覚醒の紋様を隠そうとしたが、その動きがかえって不自然だった。
「その腕、まるで何か隠しているようじゃないか?」
「…何のことだ?」
カインは動揺を隠し、平静を装って返答した。しかし、ザイルスはじっと彼を見つめ続けた。まるで、カインがどんなに隠しても彼には見透かされているかのようだった。
「君が持っている力、他の覚醒者たちは皆、力を失ったはずだ。それなのに…君だけがその力を保ち続けているという噂を聞いたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、カインの心臓が跳ね上がった。噂が広まっている?誰がそんなことを言っているのか。まさかリリスが?いやそんなまさか――頭の中で考えが駆け巡る。
「俺の力は…」
カインが言い返そうとしたその時、ザイルスは素早い動きでカインの腕をつかみ、袖を引き下ろした。それはリリスが秘密を漏らしたのではという疑念に動揺していたカインの心の隙間をついた行動だった。
瞬間、彼の腕に輝く覚醒の紋様が露わになった。光が街の薄暗い灯りに反射し、鮮やかに浮かび上がる。
「やはりな…君はまだ覚醒者の力を持っている」
ザイルスの目には、欲望と好奇心が混ざり合った冷たい光が宿っていた。カインは腕を引き戻そうとしたが、その瞬間にはもう遅かった。周囲の人々が異変に気づき、ザイルスの声に注目し始めたのだ。
「おい、見ろ!あいつ、覚醒者の力をまだ持っている!」
広場のざわめきが一瞬にして変わった。人々の視線がカインに集中し、彼を指差す声が次々に飛び交う。驚き、恐怖、好奇の視線が彼に向けられ、その場が騒然となった。
「どうしてお前だけがその力を保っているんだ!?」
「危険なんじゃないのか?他の覚醒者は皆その力を失ったのに…」
「何か裏があるに違いない!」
恐怖に駆られた人々は次々と口々に疑問と非難の声を上げ始めた。カインはその場に立ち尽くし、冷たい視線にさらされていた。それはつい先日まで英雄として賞賛されていたはずの彼が向けられていい視線ではなかった。
「待て…俺は――」
言い訳の言葉を探そうとしたカインの声は、群衆の喧騒にかき消されていく。ザイルスはそんな状況を楽しむかのように微笑みながら、カインにささやいた。
「覚醒者であり続けることは、君にとっても重荷だろう?その力、我々と協力すれば、もっと有効に使えるかもしれない。考えてみるといい…」
ザイルスが言葉を続けようとした時だった。
「これは一体何の騒ぎだ?」
よく通る、凛とした声が広場に響き渡った。




