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異形の氾濫



 カインが目を覚ました時、彼は自分がどこにいるのか一瞬理解できなかった。荒れた戦場から解放され、静かな場所に横たわっていたのだ。ぼんやりとした視界の中、天井を見つめ、頭を動かそうとすると、身体中に広がる鈍い痛みに顔をしかめた。体を動かすのも億劫なほどの疲労がまだ残っている。



「……目が覚めたのね」



 穏やかな女性の声がカインの耳に届いた。目を凝らしてみると、リリスがそばに座っていた。彼女はカインの顔をじっと見つめ、安堵の表情を浮かべている。



「リリス……今、俺は……」



 カインはまだ半分夢の中にいるかのような感覚で問いかけた。頭がぼんやりして、現状が把握できない。しかし、リリスの顔を見ると、ほんの少しだけ安心感が広がった。



「気を失っていたのよ。あれだけの力を使ったんだから、当然よね」



 リリスが説明すると、カインはその言葉を反芻しながら体を起こそうとした。だが、身体がいうことを聞かず、再びベッドに沈み込んでしまう。彼が疲れ切っていたことは明白だったが、同時に何か不穏な気配を感じ取った。



「……状況はどうなっている?」



 カインの問いに、リリスの表情が一瞬暗くなる。そして、ため息をついてから彼に答えた。



「状況は一変したわ。異形の怪物が各地で出現して、王国中が混乱に陥っているの。あの戦いの後、あちこちで同じような怪物が現れているらしいわ」



 その言葉にカインは驚愕を隠せなかった。あれほどの戦いを終えたばかりだというのに、今度は王国全体が危機にさらされているというのか。彼は自分が力を使いすぎて倒れている間に、さらに大きな混乱が広がっていることに気づいた。



「王都は無事なのか?」



 カインの緊迫した声に、リリスは首を横に振った。



「王都も例外じゃない。混乱の最中よ。正直、王都に戻るのは危険だと思うわ」



 カインは眉をひそめた。王国の中心である王都が混乱しているとなると、これからの行動をどうすべきかが難しい。そんな中、ふと扉が開き、もう一人の女性が現れた。



「ようやくお目覚めのようだね?」



 軽い調子のその声は、冷たい知性を帯びたアイシスだった。彼女はいつものように落ち着いた様子で部屋に入ってきた。



「アイシス……どうしてここに?」



 カインが問うと、彼女は肩をすくめた。



「王都は今危険な状態よ。だから、私もここに避難してきたの」



「避難……?」



「ええ、あなたがいる場所こそが最も安全だと思ったのよ。覚醒者としての力を持つあなたの近くにいる方が、何が起きても対処できるでしょ?」



 アイシスはそう言いながら、当然のように椅子に腰掛けた。彼女のその冷静さにカインは少し苛立ちを覚えたが、それも一瞬のことだった。アイシスの言葉には一理ある。今の状況で彼が再び力を発揮することができれば、少なくとも自分たちを守る力はあるはずだ。



「……リリスとは?」



 カインが二人の間に少し気まずい雰囲気を感じ、尋ねた。リリスとアイシスは、意外にも既に互いを紹介し合ったようだ。リリスが苦笑しながら頷いた。



「ええ、カインが気を失っている間に挨拶はすませたわ。最初は驚いたけど……彼女の知識は凄いわね」



「そうでないと困るがな。私は今までずっと古代の神々や覚醒者の力について研究してきたわけだからね」



 アイシスは当然のように言い放ち、カインは軽くため息をついた。彼女と合流できたことは安心だが、それはそれとしてカインは今すぐにでも動き出さなければならない状況を理解していた。王都にいるレイナの状況も心配だ。



 だが、今の自分にどれだけの力が残っているのか。カインはその疑問を胸に抱えながら、次の一手を考える必要があった。






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