祭りの中、ひとり
穏やかな陽光が降り注ぐ中、王都の広場では魔王討伐の英雄たちが集まり、王国の再建を祝う祭典が執り行われていた。カインもその場に立ち、かつての仲間たちと共に民衆の歓声を受けていた。しかし、その心は晴れやかではなかった。体内に渦巻く覚醒者としての力が未だに消え去らないことへの不安が、彼の胸中をかき乱していた。
覚醒者たちは、魔王討伐の際にそれぞれ「覚醒の紋様」を体に刻まれていた。この紋様は、覚醒者の力が強まるにつれ輝きを増し、魔王を倒した今、その役割を終えて徐々に消えゆく運命にあった。仲間たちの体からも、次第にその紋様は色褪せ、完全に消え去るのが確認できた。
だが、カインの紋様だけは違った。むしろその輝きは、以前にも増して強烈になっている。彼はそれを隠そうと、常に長袖の服でその腕を覆っていたが、そんな日々にも限界が近づいていた。
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祭典が終わり、広場から解散した後、カインは密かに宮殿を抜け出し、城の裏手にある人気のない庭園へと足を運んだ。そこは彼が一人で物思いにふけるのに最適な場所だった。風が静かに木々を揺らし、鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。その自然の静けさに、カインは一瞬だけ心を休めることができた。
そうしてカインが休んでいると、後ろから足音が聞こえた。
「カイン」
声の主は、幼馴染の魔法使い、リリスだった。彼女は柔らかい表情でカインを見つめていたが、その瞳には何かを見透かしているような鋭さがあった。
「リリスか…どうしたんだ?」
カインは平静を装って問いかけたが、リリスは微笑みながら彼に近づいた。彼女の青い瞳は、何かを確信しているかのように彼の腕をじっと見ていた。
「あなた、まだ隠しているのね」
「…何を言っている?」
カインは冷静に答えようとしたが、リリスは彼の袖にそっと手を伸ばした。カインが反応する前に、彼女は袖を軽く引っ張り、その下に隠された「覚醒の紋様」が露わになった。
「これは…」
カインの腕には、鮮やかに輝く覚醒の紋様がしっかりと刻まれていた。他の覚醒者たちが失っていくはずのその証が、カインだけには消えず、なおも力強く輝いていたのだ。
「やっぱり…まだ覚醒者の力が残っているのね」
リリスの声には驚きと共に、どこか悲しげな響きがあった。彼女はその場に静かに立ち尽くし、カインに何かを問うように見つめていた。だが、カインは言葉を失っていた。自分が隠し続けてきた秘密が、今まさに明らかになろうとしていたのだ。
「俺は…まだこの力を失っていない。いや、むしろ以前よりも強くなっているんだ。」
カインはついに、口を開いた。彼の声には、自身も理解できない謎と恐怖が滲んでいた。
「なぜそんなことが…。カイン心当たりは?」
リリスは更に一歩踏み込んだ。彼女の魔法に対する知識は深い。しかしそんな彼女でも神々を力の源とする覚醒者の力についてはわからないことも多かった。はっきりとしているのは、カインの中に眠る力が、ただの覚醒者のものではないということだけだ。
「わからない。ただ、夢の中で古代の神々が俺に囁いてくる。彼らは俺を"選ばれし者"と呼び、力を解放しろと言ってくるんだ。」
リリスの表情が曇った。彼女は古代の神々の話を聞くと、明らかに困惑していたが、同時にその危険性を感じ取っていた。
「古代の神々…それは覚醒者に力を与えた神々とは別の、封印されたはずの存在。そんな存在がどうして…」
カインは首を横に振った。答えはなかった。ただ、彼は感じていた。自分がこれから直面する戦いが、魔王とのものよりもはるかに壮絶なものなのかもしれないと。
リリスはしばらくの沈黙の後、優しく彼の腕に手を置いた。
「一人で背負い込む必要はないわ。私たちは仲間でしょう?何が起きても、私はあなたを助ける」
カインはその言葉に安堵を覚えた。だが同時に、彼女の助けがあっても、どうしようもない現状に打つ手がないこともわかっていた。
この覚醒者としての力が再び世界に何をもたらすのか、その答えはまだ見えないままであった。




