呼び出し
カインは王国の会議室に向かっていた。古代の神々が今回の魔物の件に関与している可能性を王国に報告した後、アイシスの研究室で古代の神々や神話などについて教えてもらっていると、数日してようやく上層部から連絡があり、カインは会議に呼び出されたのだ。
重厚な扉を押し開け、会議室に足を踏み入れると、すでに王国の上層部の面々が揃っていた。見るからに高価そうな椅子に座る軍務卿や大臣たちが、なにやら言い争っていたが、カインの入室で一度場が落ち着いたようだ。それを見て、カインは一礼してから、ゆっくりと口を開いた。
「呼び出しに応じ参上しました。報告の通り古代の神々が、今回の魔物出現に関与している可能性が高く、アイシス殿の研究によれば、魔物の死骸には普通では見られない神々の痕跡が確認されました。このままでは、王国全体が……」
話が終わる前に、会議室の一角に座る外務卿が手を挙げて遮った。
「今回はその件に関してではない。それについては、すでに検討している。だが、いま最優先すべきは別のことだ」
カインは一瞬言葉を失った。
「これよりも優先すべきこと……? 最優先なのは、リリスたちが待つ前線の討伐隊の支援ではないのですか?」
官僚たちは無言で互いに目を交わす。その一瞬の静寂が、王国の内部事情の複雑さを物語っていた。
「他国で魔物の残党が暴れているとの報告が入っている。すぐにその討伐に向かってもらいたい。」
「他国の魔物の討伐……?」
カインの眉が険しくなった。
「前線では、すでに魔物の異常が発生しています。リリスたちも待機しており、そこを優先するべきだと考えますが。」
そのカインの言葉に応じて先ほどの言い争いの渦中にいた軍務卿であるレイナに再び熱が入る。
「カインの言う通りです!政治を優先して最大限の脅威を無視するなど本末転倒です!」
外務卿は表情を崩さず、冷ややかに言い放った。
「前線は安定している。だが、他国からの依頼は断れない。王国の利益がかかっている。お前は征魔賊伐将軍として、国益に資する行動を取るべきだ」
カインは言葉を飲み込んだ。明らかに政治的な思惑が絡んでいることを感じたが、それを口に出すわけにはいかなかった。目の前にいる権力者たちは、カインの力を利用しようとしているのだろう。彼が持つ覚醒者の力は恐れられつつも、都合良く扱われている。
「しかし……」
カインが再度抗議しようとした時、別の大臣が冷たく言い放った。
「命令は命令だ。王国の決定に逆らうつもりか?」
カインは悔しさを押し殺し、拳を握りしめた。
「……了解しました」
会議室から退出すると、カインの胸中には重い思いが広がっていた。リリスや他の討伐隊員たちは今も異常の発生地で待機している。だが、彼は王国の命令に従わざるを得ない状況に追い込まれていた。
「カイン!」
カインが退出するとその後を早足でレイナが追いかけてくる。
「カイン、力になれずすまない。私以外の者は全員他国への派遣に賛成してしまっていた」
レイナとは過酷な戦いを共にした経験があるが、カインは彼女のここまで辛そうな表情は初めて見た。厳しい表情の中にも常に強い意志が伺える、それが今まで見てきた彼女の顔だったからだ。
「やはり私に政治の能力はないようだな……」
そんな彼女にかける言葉を迷ったカインだったが、少しでも気を紛らわせようと慣れない軽口を試みた。
「戦いならあいつらなんか一瞬でぶちのめせるのにな」
それを聞いてレイナは一瞬驚いた顔をした後、くすりと笑った。
「そうだな。いざとなったらそれも視野にいれないとな」
「……冗談だよな」
まさかのクーデター宣言に慄いているカインを見てレイナは、今度は堪えきれないかのようにくつくつと声を漏らした。
「もちろん冗談だ……気を遣わせてすまないな。もう大丈夫だ。私は私なりにできることをやっていくとするよ」
そうして、少し吹っ切れたような彼女の表情に安心したカインは、城を後にするのだった。
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自宅に戻ると、アイシスが待っていた。彼女は気だるそうに椅子に座り、巻物を広げて何やら調べている。その格好は相変わらず無防備で、いいかげん何とかしてもらいたいカインだった。
「どうだった? 会議は上手くいった?」
カインは苦笑いを浮かべ、首を振った。彼女とはだいぶ打ち解けて、彼女も砕けた口調で話してくるようになっていた。
「他国の魔物討伐に向かうよう命令された。討伐隊の前線を優先しようと進言したが、それは聞き入れられなかった」
アイシスは眉をひそめ、巻物をくるくると巻き戻す。
「ふん、政治の世界はいつも私を苛つかせるね。彼らは自分たちの利益ばかりを考える。神話級の脅威が迫っているというのに……」
カインも重いため息をつき、窓の外を見つめた。王国の命令に振り回される中で、自分はどこまで動けるのか。自分が果たすべき役割は何なのか。その答えを見つけることは、まだ遠い未来のように思えた。




