謎の訪問者
数日が過ぎた。カインは王都の自宅で待機する日々を過ごしていた。前線に戻る許可が下りないまま、彼は焦りと苛立ちを抱えていた。討伐隊のメンバーやリリスのことが気になって仕方がない。しかし、上層部の命令を無視するわけにはいかない。
何もできないまま、時間だけが過ぎていく。
カインは椅子に座り、重苦しい気持ちで窓の外を眺めていた。前線の異常について考え続けるものの、手掛かりは少なく、これ以上の情報を得る術がなかった。自分が役立てるはずの力が、今は無駄にされているように感じていた。
そんなある日、カインのもとに突然、訪問者が現れた。玄関の方から軽快な呼び鈴の音が響いてくる。
「誰だ?」
カインは椅子から立ち上がり、警戒しながらドアを開けた。そこには、長い黒髪を持つ一人の女性が立っていた。彼女は無表情ながらもどこか冷たい知性を漂わせており、その独特な雰囲気にカインは一瞬息を呑んだ。
「初めまして、カイン。私はアイシス。あなたに話があって来た」
女性は静かに言葉を発し、カインをじっと見つめた。その瞳には何か鋭いものが宿っている。
カインは玄関で立ち話させるのも礼儀としてどうかと考え、警戒しつつも彼女を客間に通した。
「あなたは誰だ?それにどうして俺に会いに?」
カインは戸惑いを隠せないまま、女性に問いかけた。彼女は微笑むことすらなく、冷静に答えた。
「私は、魔王や覚醒者の力、そして神々に関する研究をしている者です。そして、最近輸送されてきた魔物の死骸を調べていたのですが…そこに不穏な痕跡を感じ取ったのです。カインさん、古代の神々についてはご存知ですか?」
その言葉に、カインの鼓動は一気にはねあがった。古代の神々。魔王を倒した後からカインに語りかけてくる存在だ。カインはそれらが自身の覚醒者の力に何か関係しているのではないかと考えていた。
「よく聞く神話で語られている程度のことなら知っている。それを尋ねるということは、古代の神々が…今回の魔物の件に関わっているというのか?」
カインは真剣な表情で彼女を見つめた。彼の疑念は一気に現実味を帯び、状況の深刻さが浮き彫りになっていく。
「そうです。魔物の死骸に残された痕跡は、ただの自然なものではありませんでした。古代の力が影響を及ぼしている可能性が考えられます。そして、カイン。貴方は魔王を倒した後も覚醒者の力を保持したままだと聞きました。私は、貴方のその力の原因も古代の神々に関連しているのではないかと考えています。なのでまずは貴方に話を聞こうとここを訪ねました」
彼女の言葉は、カインの心に重くのしかかった。自分の力と今回の件が関わっている可能性があるのなら、今まで以上に自分が何をすべきかが明確になってくる。彼女の話を聞いたカインは、拳を握りしめた。
「分かった。だが、俺は古代の神々に詳しくないぞ?」
その返答に、アイシスは微かに口元を動かし、冷静に答えた。
「どんな情報でも構いません。魔王との戦争中や討伐後に他の覚醒者と比べて何か変わったことはありませんでしたか?」
その問いにカインは口をつぐむ。この女性を信用していいのか。あの声についてはリリス以外に話していない。
しばしの間逡巡したカインだったが、彼は自分の直観を信じることにした。
「実は…古代の神々を名乗る存在の声を聞いた。魔王を倒した後のことだ。彼らは俺を選ばれし者と呼び、力を解放せよ、と囁やいてきた」
「古代の神々の声を聞いたのですか?!」
アイシスは目を見開き、起伏の少ない表情の中にも驚きと興奮を滲ませて聞き返した。
「ああ。だがそれが何を指しているのかはわからない」
それを聞き、彼女はしばらく黙りこんで考えを巡らせた後に口を開いた。
「あなたには、さらなる調査が必要です。そして、その調査は王都の許可なしでは進められません。まずは上層部にこの情報を伝え、行動の許可を得る必要があります」
その提言にカインは顔をしかめる。上層部は正直信用していいかわからない。このことを素直に伝えていいものか、と。カインがそう言うと彼女はいたって平静に答えた。
「確かに今までなぜ黙っていたのかとかも聞かれそうですし正直に言うのはよくありませんか……では、魔物の死骸の調査に立ち会っている時に聞こえたことにしましょう。まずは私の研究室に行きましょうか」
そう言うと彼女は立ち上がり、くるりと振り返って玄関に向かった。それを見てカインは急いで出かける準備をし始めるのだった。




