王都への帰還
カインは討伐隊を後方拠点に待機させ、リリスをその指揮官として残した。魔物の出現に関する異常を報告するため、彼は王都へと向かうことにする。討伐隊の隊員たちにとって、前線での監視は不安を募らせる任務であったが、カインの冷静な判断は信頼してくれたようだ。リリスもまた、その信頼に応えようと気を引き締め、彼の留守を預かることを引き受けた。
「気をつけてね、カイン。私たちはここで万が一の事態に備えておくわ」
リリスはカインを見送りながら、その瞳に一瞬の不安を宿したが、すぐに強い意志で打ち消した。カインは微笑んで頷く。
「任せた、リリス。できるだけ早く戻る。異常の原因を突き止めない限り、油断はできないからな」
そう言い残すと、カインは馬に跨がり、一人で王都へ向けて出発した。広大な荒野を駆け抜けるカインの腕には、覚醒者の紋様が静かに輝いていた。
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数日後、カインは無事に王都へ帰還した。彼の到着を告げる使者が宮殿に届けられると、すぐに軍務卿であるレイナが彼を迎える準備を整えた。レイナの執務室で待つ間、カインは思いを巡らせていた。あの異常な魔物の行動、その原因が何なのか。ナニカに襲われて逃げていたという仮説を立てはしたが、確証を得るにはまだ材料が不足していた。
レイナが部屋に現れると、カインは簡潔に挨拶をし、討伐の経過と異常な魔物の行動について報告した。彼女は冷静に話を聞きながら、時折質問を挟んで詳細を確認した。
「なるほど、魔物が予想以上に手前で出現し、さらに自然の現象であるとは考えにくいような異常な損傷のある死骸を見つけたと。」
レイナの眉が微かに動いた。彼女も異常事態を認識していたが、その原因が掴めないことに苛立ちを感じていた。
「これ以上の調査が必要です。可能であれば、すぐに前線に戻り、さらなる異常の有無を確認したいと考えています」
カインはそう提案したが、レイナは少し表情を曇らせた。
「それについては、少し待ってほしい。今、王都の中枢では別の動きがある。君を王都に待機させておくように指示が来ている」
「別の動き?」
カインは眉をひそめた。
「前線の異常が明らかになっているのに、ここに留まる理由があるのでしょうか?」
レイナは静かに首を振った。彼女の表情からは、何か複雑な事情が隠されていることがうかがえた。
「詳しい理由はまだわからないが、上層部は君を王都に留めておくつもりのようだ。彼らの意図が何であれ、君の力を何かに利用しようといる気配を感じる」
カインは言葉を飲み込んだ。自分が覚醒者として唯一の存在であり、その力が他者にとってどれだけの脅威であり、また価値を持っているかは理解していた。だが、前線の異常が放置される状況を受け入れることはできなかった。
「レイナ、私は一刻も早く前線に戻りたい。このまま放っておけば、討伐隊が危険に晒されるかもしれない」
その言葉には切実な思いが込められていた。リリスや他の隊員たちのことが頭をよぎる。カインにとって、彼らは共に戦った仲間であり、命を預かる存在でもあった。
レイナは一瞬、黙ったままカインの目を見つめた。その後、深い息をついてから再び口を開いた。
「私も同感だ。君が一刻も早く魔物の調査及び討伐へ赴けるよう最大限の力を尽くす。だが、この件に関して私の力が及ぶ範囲は未だ大きくない。軍務卿という大層な地位を与えられたというのにな……」
彼女の言葉は冷静でありながらも、どこか痛切なものがあった。カインは普段凛としたレイナが見せるその表情に心配を覚えつつも、葛藤を抱えたまま執務室を後にすることになった。
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その夜、カインは王都の自宅に帰宅し、独りで思いを巡らせていた。討伐隊に残したリリスたちのことが気になって仕方がないが、王都に留まれという命令を無視することもできない。自分の力が恐れられているのは事実だが、それ以上に何か隠された意図があることは明白だった。
「いったい、何が起きているんだ……」
カインは一人、窓の外を見つめながら、次なる行動を模索していた。




