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【7/10発売】回帰令嬢ローゼリアの楽しい復讐計画 ~嫌われ者の公爵令嬢は運命を覆す!~  作者: 星名こころ@8/21ポジティブ漫画④発売
本編

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41. 旅立つ日


 アンジェラが北へと旅立つ日。

 最後に話がしたいとの伝言を受け、少し迷ったけれど、私は彼女に会いに行くことにした。

 アンジェラが入る修道院は、一定以上の教育を受けていて、なおかつ問題を起こした女性が行き着く場所。

 それなりに裕福な育ちの人間が多いため寄付金も多く、生活の質はさほど悪くないらしい。

 ただ、監視が厳しく自由はない。逃亡すれば厳罰に処される。


 精霊省の裏門に停まっている粗末な馬車の前に、彼女は立っていた。

 後ろ手に縛られ、簡素な服を着ている。

 その表情には、何も浮かんでいなかった。怒りも悲しみも恨みも。晴れやかにすら見える。

 まさに、憑き物が落ちたという言葉がふさわしい。

 闇の残滓を他人に押しつけていたとはいえ、やっぱり彼女本人にもずっと悪影響は出ていたのかもしれない。


「私に話って何かしら、アンジェラ」


「……弟のことだけはお礼を言っておきたくて」


「それはお父様の判断よ。私にお礼を言う必要はないわ」


 アンジェラが、しばし黙り込む。


「私はすべてを失ったわ。闇の星獣が離れたときに魔力もすべて持っていかれたから、もう精霊術も使えない。貴族の身分も失って、学園の生徒たちもいずれ私を忘れていくわ」


「そうね。きっとそうなるでしょうね」


「……っ、やっぱりあなたなんて嫌いよ。なぜ私がすべて失って、あなたは何もかもを手にしているのよ」


 話があちこち散らかっている。

 気持ちの整理がついていないんだな、と思った。

 修道院に行くことが嫌だというよりも、私に対する感情を処理しきれていない。

 それに付き合う義理もないのだけど、この際だからはっきりしておいたほうがいいわね。


「なぜって、あなたがその道を選んだからよ。あなたは私が恵まれている、なんでも手に入れていると言う。家族や精霊術についてはそれは否定できないわ。でもあなたは私より優れたものもたくさん持っていた。私なら、たとえ闇の卵の力があったとしても、あなたのように人気者にはなれなかったわ」


 アンジェラがうつむいて唇をかむ。


「あなたには幸せになれる道があったし、その能力もあった。それを捨てたのはあなたよ」


 そう言うと、アンジェラが見事なぐぬぬ顔を見せた。

 いっそこの顔が愛おしくなってきたわ。


「私が……修道院に行ってみじめに暮らすなんて思わないで。幸せになれる道を捨てた? そんなの勝手に決めつけないでよ」


「強がっちゃって」


「うるさいわね! 私はどこでだってうまくやっていけるし、どこでだって輝ける!」


「ふふ、そうでしょうね。それでこそあなたよ」


 ぐぬぬ顔のまま、彼女がぼろぼろと涙を流す。

 子供のように。


「……っ、あなたなんて大嫌い!」


「奇遇ね、私も大嫌いよ。大嫌いな私に助けられた命なんだから、残りの人生は大切に生きなさいよね」


「ふざけないでよ、偉そうに! もうあなたとなんて話していたくないわ! さよなら!」


「ええ、元気でアンジェラ」


 彼女が背を向けて馬車に近づくと、精霊省所属の騎士が扉を開けた。

 乗り込もうとする足が止まる。


「……っ、……。ごめん……なさい……」


 蚊の鳴くような小さな声でそう言って、彼女は馬車に乗り込んだ。

 扉が閉められ、馬車がゆっくりと走り出す。

 それが道の向こうに完全に消えるまで、私はずっと見ていた。


 もしかして、謝罪するために私を呼び出したの? その割には憎まれ口ばかり叩いていたけれど。

 最後に謝るだなんて、ずるいったらないわ。

 いっそ最後まで憎らしいだけの人でいてくれたらよかったのに。


「復讐完了だな」


 背後からそう声を掛けられ、振り向く。

 いつの間にか、リアムがそこに立っていた。


「そうね。そう言っていいのか自信はないけれど」


 復讐が終わったというよりは、ひとつの決着がついたという気分。


「すっきりしたか?」


 そう言われて、少し考え込む。


「すっきりはしないわね。重いものを背負った気分よ」


「じゃあ後悔してる?」


「いいえ、少しも。何もせずにいたら、また死んだり私が修道院に行ったりする羽目になったかもしれないもの」


「そうだな。罰はこれでよかったのか? 君の証言次第で、厳罰も望めたと思うが」


「そうね。でも彼女が私にそう望んだように、彼女には表舞台から消えてもらった。彼女の悪事も明らかになった。当初の予定通りよ」


「そうか。なら俺もこれ以上は何も言わない」


 彼はあえて色々質問してくれたのだと思う。 

 私がそれに答えることで、自分の中の考えを整理することができるように。

 やっぱり優しい人だな、と思った。


「あ、そういえば。決着がついたら、願いを聞いてほしいと言っていたわね」


「決着がついてさっそく聞かれるとは思わなかった」


 リアムが笑いを含んだ声で言う。


「そうね。それで、どんなことなの?」


「一緒に出かけてほしいと言おうと思っていた」


 私は首をかしげた。


「別に決着がついてからじゃなくても、言ってくれればいつでも一緒に行ったのに」


「何も心配事がない状態でローゼリアと出かけて、普段とは違うことをしてみたかったんだ。君は何がしたい? 街でも遠乗りでもピクニックでも、ローゼリアが好きなことを一緒にしたい」


「うーんそうねぇ……じゃあ遠乗りとピクニック!」


 乗馬は好きだし、いい気晴らしになりそう。

 リアムが優しい微笑を浮かべた。


「じゃあ、週末に行こう」


「そうね。楽しみにしているわ」


「ああ。俺も楽しみだよ。じゃあ、また学園で」


「ええ」


 リアムとはそこで別れて、馬車に乗り込む。

 馬車が動き出してから、首をかしげた。

 幼い頃の感じで何も考えずに承諾したけれど。

 もしかしてこれは……デート?


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― 新着の感想 ―
この決着は十分にアンジェラの期待以上の結果にはなってそうだとは思いました。そしてさすが主人公。最後までぐぬぬさせて素直に感謝も謝罪もさせないんですね。 それとは別に。アンジェラは本当はあんなに主人公…
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