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04. 復讐を決意する


 ダイニングルームには、すでに私以外の家族がそろっていた。


 赤い髪に赤い瞳、顔立ちまでそっくりなお父様とお兄様。

 やわらかな金髪に緑色の瞳の美しいお母様。

 ……私の家族に、また会えた。それがこんなにうれしいなんて。

 食事になかなか手をつけない私に、お母様が心配そうな表情を浮かべる。


「ローゼリア、どうしたの? 食欲がない? なんだか涙ぐんでいるように見えるわ。何か悲しいことでもあったの?」


「え? あ、違うんです。これはその……怖い夢を見てしまって」


「なんだ、お前はまだまだ子供だなあ」


 そう笑うアイザックお兄様の目は優しい。

 精霊術も勉強もすべてが落ちこぼれだった私は、優秀な精霊術士であるお兄様に嫉妬して冷たい態度を取ってきたのに。

 お兄様はそんな私にいつも困ったように笑うだけで、怒ったりしなかった。


「あー……あれだ。もし何かつらいことがあるのなら、学校を休んでいいんだぞ。ゆっくりしたらいい」


 お父様が少し気まずそうに言う。

 家族の耳にも、私が学校で嫌われているという噂くらいは届いているのかもしれない。

 そう、過去に戻る前も、お父様はそう言っていた。

 口元に笑みが浮かぶ。


「何もつらいことなんてありません」


 以前も、私はこう答えた。

 でもそのときは意地になってそう言っただけだった。

 心から心配してくれる家族に対して、あんな態度をとってしまうなんて。

 学園に入学するまでは家族仲も悪くなかったはずなのに、私はなぜあんなにも意地になって反発していたんだろう。

 馬鹿だった、本当に。

 もう間違えない。

 私は、家族を大事にしていく。

 明るい日差しが差し込むダイニングルームで、家族とのささやかで幸せな時間を噛みしめる。

 この日の朝食は、今までで一番美味しく感じた。



 部屋に戻って、鏡台の前に座る。

 コニーが「いつもの髪形とお化粧にいたしますか?」と訊ねてきた。


「いつもの……? ちょっと待って」


 まず髪型。

 眉の上でぱっつりと切った前髪が、私のややきつめの顔立ちに似合っていない。豪華に波うつ赤い髪を無理にストレートにしようと伸ばして、微妙なウェーブの中途半端なくせ毛になっているのも。

 なぜそうしたのかといえば、サラサラストレートなアンジェラの髪型に近づけようとしたから。

 たれ目がちで甘く優しい顔立ちの彼女には、たしかにそういう髪型はとても似合っている。でも私には似合っていない。

 彼女は「こうしたら姉妹みたいでしょう? お揃いでうれしい!」なんて言っていたけど。


「ふっ……」


 この時点ですでにいいようにやられていた。

 化粧も、彼女のアドバイスどおり、眉は濃い目に、アイラインもしっかり、口紅は濃く……。

 もともと顔立ちがはっきりしていて、自分で言うのもなんだけどわりと美人だから、そんな化粧は必要ない。むしろ、顔が派手になりすぎておかしい。

 そんな顔で、かわいらしさを強調した髪型って。

 ちぐはぐで変だし、それに気づかなかった私って馬鹿なだけじゃなくアホだったんじゃないかしら。


「コニー、髪形を変えたいわ。前髪はとりあえず左右に分けてピンで止めて。(ひたい)を出したいの。それから、無理にストレートにするつもりもないから、少し巻いてちょうだい。化粧も今日からはしないわ」


「お、お嬢様……! よかった……!」


 ブラシを持ったコニーが涙ぐむ。

 その顔。ずっと私のセンスがおかしいと思っていたのね。


「で、では、あの冗談みたいなスカート(たけ)も今日からは……!?」


「……。ええ、そうね。王立学園で膝上スカートはないわね。既定の膝下の長さに戻すわ。予備のを出してちょうだい」


「そう言ってくださる日を待っていました……!」


 侍女の立場では強く反対できなかったんでしょうけど、冗談みたいなって。

 なかなか言うわねこの子。

 でも家を出る際、お兄様に「ようやくあの冗談みたいな化粧とスカートをやめたのか! いくら言ってもやめなかったからどうしようかと思ってたけど、そっちのほうがずっといいぞ!」と言われたので、やっぱり私は冗談みたいな存在だったのだろう。

 素直でアホすぎた私を道化師(ピエロ)にしたアンジェラ。嫌われるよう仕向けたアンジェラ。


 決めたわ。――復讐してやる。


「ふふ、ふふふ……うふふふふ……」


 不気味な笑いを漏らしながら馬車に乗り込む私を、お兄様とコニーが恐ろしいものでも見るような目で見ていた。


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