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01. 親友だと思っていた彼女は


 どうしてこうなってしまったんだろう。


 体中が痛い。痛い。息が苦しい。

 まさか学園から飛び出したあと、馬車にはねられてしまうなんて。

 医者も首を振っていた。もう助からない。

 病室のベッドの上、両親と兄のすすり泣く声を聞きながら命が終わりに近づくのを実感する。


 扉が開いて、誰かがベッドに駆け寄ってくる。

 かすむ目に映るのは、柔らかなピンクブロンドの髪。

 ああ、アンジェラ。

 来てくれたのね。

 家族が気を遣って席を外す。


「ローズ……。こんな風になってしまうなんて……」


 ごめんね、アンジェラ。

 嫌われ者の私を気にかけてくれた、たった一人の親友。

 三年生の卒業記念パーティーで断罪された私を、あなたは必死でかばってくれたわね。

 私はあなたをいじめていない。あなたをバルコニーから突き落としたりしていない。それを信じてくれたのは、皮肉にもあなただけ。


「かわいそうに、喉が潰れてもう声も出ないのね」


 ええ。でもこれで良かったのかもしれないわ。私はもう疲れてしまったんだもの。

 最後にあなたに会えてよかった。


「死んでしまうなんて、後味が悪いったらないわ。表舞台から消えて修道院にでも行ってくれればそれで良かったの。まさか自殺じゃないわよね? 馬車に轢かれたんだし、さすがにそれはないわよね」


 ――え?

 アンジェラが……笑ってる?


「ごめんね、ローズ。私、ずっとあなたが嫌いだったのよ。何もかもを持って生まれて、何も努力しないあなたが。死んでほしかったわけじゃないの。不幸になっていなくなってほしかっただけ」


 何を、言っているの?


「だから恨まないでね。私が殺したわけじゃないんだから。あなたが死んだと聞けば、あなたが大好きだった第二王子殿下も少しは心を痛めてくれると思うわ。あなたの婚約者候補のリアムは私がもらうから心配しないでね」


 彼女が何を言っているのか、理解できない。

 言葉の意味はわかっていても、頭が理解することを拒否している。

 私たち、親友じゃなかったの?


「ああ、親友だったはずなのに、って? そう思っていたのはあなただけ。あなたがみんなに嫌われるよう、私が仕向けたの。もちろん、あなたが断罪されたのも私が仕組んだことよ。あなたは単純で操りやすかったわ。さようならローズ」


 彼女がわざとらしく泣き顔を作ってから、部屋から出ていく。

 呼び止めようと声を出そうとすると、激しく咳込んで喉から血があふれた。

 家族が慌てて駆け寄ってくる。


「ローゼリア、わたくしのかわいい娘、しっかりしてちょうだい! わたくしたちを置いていかないで……!」


 お母様が泣いている。お兄様も。

 お父様は片手で目元を覆っていた。


 ――ごめんなさい。


 馬車が迫ってきたとき、私は一瞬、考えてしまったの。

 このまま死んでもいいかなって。

 その考えのせいで避けるのが遅れてしまった。

 馬鹿だったわ。

 こんなにも愛してくれる家族がいたのに。大切なものは、すぐ傍にあったのに……。


 瞼が重くなっていく。痛みも感じなくなってきた。

 扉が乱暴に開く音がして、足音が聞こえる。

 私を呼ぶ男性の声。誰だろう……?


 家族にごめんなさい、悲しまないでくださいと伝えたかったけれど、声を出すこともできなくて。

 私の意識は、闇に沈んだ。


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