01:32.59
巡は目を覚ます。
見知らぬ天井か。
いや、よく見知っているものだった。
ちょうど2週間前に時間を巻き戻したかのようだった。
始めてここに連れられてきたときと同じように巡はベッドで体を横にしていた。
「2週間で帰ってくるとは重度のホームシックか?」
ハッと顔を上げて動かすと、少し離れたところに星宮がいた。
「ここは……?」
ものすごい疲労感がある。
体の上に何かが乗っているかと思うほどずっしりと重い。
「君は昨日の訓練後、宿泊棟に向かう途中に突然倒れて意識を失った。一緒にいた在業がそれを職員に知らせ、君はここに運び込まれたわけだ」
(そうだ……)
思い出した。断片的な記憶だが、あの絶望は忘れられない。
動きたくても動けない。
何者かに体を引っ張られ、押さえつけられているかのような絶望だった。
巡が次の言葉を発する前に星宮は喋っていた。
「私は大きな間違いをしていた」
思いがけない言葉に巡の思考回路は一度停止する。
「え? どういうことですか?」
かろうじて出てきた言葉を紡ぐ。
「君が倒れたのは異能を酷使した疲労などからくるものだろう。これ自体は珍しい話ではない」
巡は黙って話を聞いていた。
「だが、君のは単なるそれではないだろう。今、この時間に君が目を覚ましたことから私は確信した」
星宮は時計の方を見ながら言った。時刻は10時を少し過ぎたくらいだった。
「単刀直入に言おう。私は君の異能を履き違えていたのだ。私がそれを見誤ったばかりにこのような事態になってしまった。申し訳ない」
そう言うと、巡に向かって星宮は頭を下げた。
「待ってください」
巡はあまり働いていない頭を必死に使いながら整理する。
「僕の異能は時間に関わるものであることには違いありませんし、僕が倒れたのは、僕の力不足によるものであって、星宮さんのせいではないですよ」
慌てて、巡は否定する。
「いや、私は盾の異能管轄部長であり、何より君の訓練担当だ。その根本となる教え子の異能の分析を誤っているようでは無能と同じだ。事実、今の私は無能であり、過ちを犯した。それについて認め、今後このようなことがないようにしなければならない。無知であることは少なくとも私にとっては罪なのだから」
星宮は一向に頭を上げようとしない。その表情はよく見えない。
目上の人間にこれほどまでにしっかりと謝られてことがないのと普段とは少し様子の違う星宮に巡は困ってしまう。
「そ、それでは、僕の本当の異能というのは何なのでしょうか?」
どう対応すればいいか分からなくて巡はもっと気になっていた話題に変えた。
「その前に確認したいことがある」
ようやく星宮は顔を上げ、巡に問いかける。いつもの調子に戻ったようだ。
「訓練の晩にどうしようもない眠気や疲労感に襲われているな?」
「はい」
質問の意図が分からず、困惑しながら巡は答える。
「そして、目が覚めるのは決まって10時を少し過ぎたくらいだな?」
「はい。どう頑張っても起きられなくて……」
やはりというような顔を星宮はした。
「では、今一度君の異能を分析しよう」
いつものように手元の機械で何かを弄る。
しばらくした後、その画面を見て、星宮は頷いた。
「君の異能は“時間の前借”だ」
「時間の前借?」
頭の中に疑問符が大量に発生する。
「あの時、私はこう言った。“本来は1秒しかないはずの時間を5秒の長さに拡張する。10分の長さを21時間に拡張する”。覚えているか?」
正直に言うとあまり覚えていないが話を進めるために巡は頷く。
「が、正しくは、5秒の長さを1秒に圧縮し、21時間の長さを10分に圧縮する、だ。この違いが分かるか?」
「いえ、あまり……」
ここで嘘をつくと一生取り残される気がしたから、今度は正直に言った。
「対比のために圧縮という言葉を使ったが、君の異能をより正しく表す言葉は前借だろう」
「後で貰えるはずの時間を先に貰うことができるということですか?」
「その通りだ。君が使うことのできる時間が我々と同じ24時間であることには変わりない。その中から任意の時間を前借して、現在という時間の中に圧縮できるというのが君の異能だ」
「違いというのは……?」
「できること自体は拡張論の時とあまり変わらない。だが、厄介なことに制限があるようだ。その24時間を使い切ってしまうと、君は活動不能状態に陥る。これが決定的な違いだ」
「なるほど……」
なんとなく理解できた気がする。
身を削るような思いを感じていたのはそれが原因だったのか。
「しかし、素晴らしい異能であることには違いない。私が期待していたような万能なものではなかったが、何、少しばかり制限がかけられていた方がロマンがあるだろ?」
そう言って星宮は笑ってみせた。
久しぶりの投稿となってしまいましたが、失踪しておりません。まだ元気です。
作家の性だと思うのですが、こういう長期のお休み期間を思いがけずしてしまいます。
本人はそこまでお休みしているという自覚はないというのもまた厄介なものです。
何はともあれ、作者の執筆できる状況が整ってきましたので、引き続き、『過ぎ去るものたちへ』をよろしくお願いします。




