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過ぎ去るものたちへ  作者: 有瀬快
巡始動編
11/27

00:12.19

揺れる機体の中で、巡は目を覚ました。


「ここは……」


前にも似た感覚をしたことがある。あれはいつのことだっただろう。

思い出した。あれは9か月前、家を出て、過徒の収容施設に向かっているときのことだった。


いつも通りの変わらないことを9ヶ月続けてきたのだ。

だが、今日は違う。ただ一つだけ、大いに違うことがあった。

本日、1月12日は、市之瀬巡の誕生日の1日前だ。


誕生日の一日前から、過徒の訓練生は収容施設から本部へ移されることになる。

矛の過徒ならば、そのままそこで経過観察。盾の過徒ならば、適性試験を受ける。

今まさに、巡はその本部へと向かう機体の中にいる。真っ暗闇の中、巡はここまでのことを思い出す。


今日の朝は5時に目が覚めた。こんなに早く起きる必要はない。この施設を出発するのは14時頃なのだから。だが、そうは言っても熟睡などできるわけもなく、巡はベッドから起き上がった。


年が明けてから、はや二週間が過ぎようとしている。

だが、ここの中ではそんなことは関係ない。12月31日も1月1日もただのカレンダーの中にある一日に過ぎない。


喜びと不安があった。

ようやく、ここから出ることができるという喜び。

これから人生の岐路に立たされるという不安。

ぐちゃぐちゃな思いのまま、洗面所に向かった。


身支度を済ませ、事前に書き終えておいた体調チェックや様々な同意書の記入などを封筒に入れ、鞄にしまった。それからは意味もなく、参考書やらプリントをだらだらと眺めていった。


無限にも感じられた時の流れの中、時計が12時簡を指した。机から離れ、いつも正午丁度に昼食が届けられる箱の前に行く。嫌というほど見た弁当箱が今日も届けられているのを見て少し安心した。

ただその隣に置いてある白い服が、今日はいつもと違うのだと釘を刺してきた。


荷物も片付ける。といっても、ほとんど持ち込めていないからあっという間に終わる。9ヶ月に家から送った荷物は本部の方で、持ち主のことを待っているはずだ。


今度は届けられた服に着替える。

丁寧に服を広げ、最新の注意を払って、腕や足を通す。


(なかなかかっこいいな……)


過徒制服。

清潔な白を基調とし、ところどころに黒いラインが入っている。ボタンは銀色に光り、胸の辺りは一本のベルトで覆われている。ズボンはただ黒の一色のみ。左右に二つポケットがあるくらいで余計なものは一切つけられていない。

洗練された見た目も良いが、やはり動きやすさが売りだ。

それでいて、ナイフ程度の刃を受け付けない頑丈さもある万能戦闘服である。

どの過徒もこの制服を着て活動する。これをベースにそれぞれの異能に合ったオプションが随時追加されていくのだが、戦闘活動のための動きやすさは必要不可欠だ。


鏡の前に立つ。

自分の顔がどうしても目に入る。

朝は気にならなかった。だが、少々疲れている顔に見えた。

髪も自分で切っており、セットなんてする必要もないからボサボサだ。


だが、これも今日で終わりだ。


荷物も全て片付け終え、細々としたものを収納するため、ずっとフックにぶら下げておいた鞄を9ヶ月ぶりに手に取る。

それもあの箱の中に入れ、どこかに送られていったのを確認したら、あとは14時になるのを待つだけだ。


14時になった途端、ここ9ヶ月で初めての音を聞いた。


「1301号室のロックを開錠します」


機械的な女性の声だ。

巡は14時になるまでベッドに寝転がり考え事をしていたが、慌てて飛び起きた。

玄関の方を見ると、今まで開かずの扉だったものが開いていた。

急いで服のしわを伸ばし、靴を履いて外に出る。


来た時は全てを拒んでいるように思えたこの廊下もまるで久しぶりに再会した旧友のようだ。


(ついに出られた!)


逸る気持ちを抑えて、巡はエレベーターホールへと歩き出す。


だが、最後に一度、振り向いた。

もうその扉は閉まっていた。

でも、そんなものがあってもその中身を巡はありありと思い浮かべることができた。


「俺は盾の過徒になる」


改めてその思いを胸に抱き、巡は前を向いた。

その背中に別れを告げるかのように、「1301」という数字がチカチカと点滅していたのだった。

次話は1/28 23:00に更新されます。

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