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夢のゲームは現実か

作者: 伊豆の踊子

「「お初にお目にかかります。私、■■と申します。此度皆様には新たなステージへの招待が成されました。」」


気が付くと声をかけられていた。何処から声を出しているかわからない程に変わった声だった。SFの読みすぎだと思われるかもしれないが事実なのだからしょうがない。妙に現実感があって、なのにこれは絶対に夢だとわかる不思議な夢だった。


「「皆様はこの世界で好きなことができます。空も飛べますし、望めば世界が皆様を未知に誘うでしょう。」」


そんな心躍る文句を言って消えていく案内人は最後にひと言残していった。


「「ただし、楽しむだけでは新たなステージには至れませんがね。」」


なるほど、我々は招待されたけれどもまだ彼の言う新たなステージとやらにはたどり着いていないらしい。とはいえ、今私にできることは無いのだから楽しむことに注力しようではないか。


この世界は一瞥しただけでは現実としか思えないほどリアルだった。空があり、風が吹き、太陽が私を照らしている。しかし絶対に現実ではないと言いきれる。何か自分の体の位置が少しだけズレているような、そんな感覚がずっとあった。まず初めに空を飛びたい、そう強く願うと地面から足が離れ体が宙に浮いた。


「これはすごい!信じられないほど自由に飛べる。」


舞い上がった私はそのまま観光と洒落こんだ。天空都市と呼ばれるマチュピチュを更に上から見るのは乙なものだ。ある程度飛び回ってわかったことは、この世界は球状であり現実と大差ないが、人は私しかいないようだということである。


それでは、私を誘ってくれるという未知はどの世界で起きるのだろうか。現実では今現在未知と呼べる物はないだろう。調べれば大抵の事はできるし、AIに聞けば更に多くの情報を得ることができる。それこそ銀河系を飛び出すでもしなければ未知など無いのではないだろうか。


「私を未知へと誘ってくれ。」


興奮のせいか少し声が震えてしまったが、期待を込めてそう言うと視界がブレた。と、同時に吐き気を催した。先程まで感じていた違和感が更に強くなり、自分の体が自分のものでないような気がする。しかし、見た目は変わっていないようだ。見渡しても先程自分がいた場所から動いていない。これのどこが未知なのだろうか?感じる違和感は未知と言えるかもしれないが、これが正解とは言えないだろう。気を取り直してもう一度未知を願うと先程と同じように視界がブレた。しかし催した吐き気は先程と比にならないものだった。これは到底人が耐えられるものでは無い。思わず戻しそうになるが口からは何も出なかった。しかし、やはりというか世界の見た目は変わっていないようだ。


沈んだ気分をどうにかしようともう一度空を飛び始めた。しばらく飛んでいると、先程まではいなかったはずの人が視界に入った。驚くべきことだ、見逃してしまっていたのだろうか。声をかけようと彼の近くに降り立つが、こちらに気付いた様子はない。


「あのー、すいません。」


恐る恐る声をかけるがやはり聞こえていないようだ。悲しく思いつつも空の旅を再開した。その結果更に数人発見したが、全員がこちらを認識していないようだった。また、彼らは日常を過ごしているらしい。働き、食事をし、夜になれば寝る。そのサイクルを繰り返しているようだった。未知を願うと人が増える、ということだろうか?


そんな考え事をしている中ふと魔が差した私は、丁度目の前にいたサラリーマンの勤務先を消えてしまえと願った。すると、電話がかかってきたのだろうか、話し始めたサラリーマンは血相を変えて走っていった。なるほど、この世界なら好きなことができるというのはあながち間違いではないらしい。いわゆる箱庭ゲームであろうか、ここまでリアル準拠の箱庭ゲームは見たことがない。しかし、このままでは圧倒的に人口が足りない。先程までの事を考えるに、未知を願うと人口が増えると考えて良いと思う。この違和感にも慣れてきたことだし試してみよう。


もう一度未知を。そう願うと再度視界がブレた。より違和感が強くなったが、連続で違和感が強くなるよりはマシだろう。世界を見渡すと予想通り世界には人が増えていた。


「これは、違和感に慣れてきたら随時人を増やしていくべきだな。」


そう言った私の声は間違いなく震えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


どれくらい時が経っただろうか。私の世界は現実と同じように人がごった返す世界、ではなく人を減らし自然溢れる世界になっていた。やはり自然溢れる世界はいいものだ。しかしここまで完成してしまうと新しい世界が欲しくなる。どうにかもう1つの世界を手に入れられないものか。


「おや、あたらしい世界をお求めですか?」


突如背後に現れた案内人は記憶の声よりも随分と聞き取りやすい声をしていた。


「はい、この世界ではもうできることがないので。」


そういうと彼は私にあたらしい世界を手に入れる方法を教えてくれた。


「簡単ですよ。私がやったように、自分の世界の人間をこちらのステージに招待すれば良いのです。さすればあなたも新しい世界を手に入れることができるでしょう。」


なるほど、彼が行った招待は我々ではなく彼自身にもメリットのあるものだったらしい。そうなれば話がはやい。私も招待をしに行くとしよう。


「お初にお目にかかります。私、■■と申します。此度皆様には新たなステージへの招待が成されました。」

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