「アイコン」「無差別」「モデル」
アイコンというのは、簡単な自己表現だ。
つまりSNSでのアイコンというのは、一番シンプルな自己アピールの場なのだ。
犬なら犬好き、猫なら猫好き、アニメのキャラならアニオタ、この前遊びに行った時の写真なら仲良しアピール、恋人の写真なら幸せアピール。
そういったように、皆アイコンのモデルを決め、見る人達に己をアピールしているのだ。
ただ、こいつのアイコンは一体なにをアピールしているのだろうか?
最近友達になった大学の友人で、連絡先を交換したのだが、彼のアイコンは何もないただの駅のホームの写真なのだ。
電車好きという訳でもなさそうで、そもそも、電車が好きなら駅のホームだけの写真ではなく、電車が写っている写真をアイコンにするはずである。
何もないただの駅のホーム。
これで彼は何を表現しているのだろうか?
「なあ、何でお前のアイコンって何もない駅の写真なんだ?」
「ん? あーこれ? 以外と話のネタになるんだよ」
「そうなのか?」
こんな何もない写真が話のネタになるのか?
「このアイコンを見て気になったでしょ? 何もない場所を写したら、皆それが何の写真か、何の意味があるのか気になって僕に聞いてくるんだよ」
「なるほど」
「シンプルな趣味のアイコンなんかよりも、気にする人が結構いるからね」
まあ、確かに。謎めいたアイコンは、答えがハッキリしているアイコンよりも気になるかもしれない。
「興味がないアイコンなら、話はそこまでだけど、謎を置いておけば無差別だからね。謎が気になれば誰だって話のネタになる」
自分のアピールをするだけと思っていたが、意味を持たせない事で逆に話の種にする使い方は斬新である。
「それで、君のアイコンの――」
なるほど、ここまでがテンプレね。
「って話があったんだよ」
「へぇ、面白いね」
この前の話を聞いてから自分も何でもない景色の写真を自分のアイコンにしてみると、女友達が食いついて来たので、これ見よがしに話のネタにしてみた。
「その人のアイコンってどんなの?」
「ん? これこれ」
携帯を操作して、例の彼のアイコンを見せる。
「え」
「え?」
何か予想していた反応と違う。
「どうかした?」
「あ、いや、ちょっと知ってる場所だったからビックリして」
「まあ、この辺の場所らしいからな」
「……ねえ、よかったらこの人の連絡先教えてくれない? さっきの話で気になって」
「え、まあ、聞いてみるけど」
「うん、お願い」
やはり先駆者である人の方が興味出るのだろうか。……次からは自分が最初だと言おうかな。
そして、しばらく別の話をしていると
『いいよー』
と、簡単な返事が返ってきた。
「あ、いいって」
「さっきの人?」
「そっ、送っとく」
「ありがと」
しばらくして、彼女のアイコンも例の彼のアイコンに変わっていた。
話を聞いて、俺と同じように彼女も試したのだろうが、なぜか同じ写真だ。
景色の写真ならなんでもいいはずだが、何でわざわざ同じ?
「あーそれね……」
その事を例の彼に聞いてみた。
もしかしたら、この写真である意味があったんじゃないかと思ったからだ。
「んーまあ、そうだね……」
歯切れが悪い。やっぱり何か秘密はあるようだ。
「彼女には教えたんだろ? 何で俺には教えてくれないんだよ」
「それは……うーん」
そんなに固く閉ざされると逆に気になってしまう。
「まあ、いいか。君は気にしなさそうだし」
「気にしない?」
「この前、君がアイコンについて聞いてきた時、僕は無差別で人を選ばずに興味を持って貰えるから、意味のない駅のホームをモデルにしたって説明したけど、実はそれ――建前なんだ」
「建前?」
じゃあ、あれは嘘だったのか? その嘘を鵜呑みにして実践した俺は……。
「そう、あの写真は全然無差別じゃなく、ある特定の人に向けてアピールしたアイコンなんだよ。例えば、君から紹介された彼女のような人に向けて」
「あいつのような?」
何の関係が?
「あのアイコンのモデルは駅のホームじゃない。この写真の真ん中にいる彼女なんだ」
「彼女?」
人なんて写っていただろうか? しかも、そんな真ん中に。
「君には見えないよ」
「は?」
見えないって。
「心霊写真なんだこれ、その駅で飛び降り自殺した女の子の幽霊が写った写真」
「それって――」
「うん、僕はこのアイコンで霊感がある事を同じ霊感がある人にアピールしているんだ」
そう言われて急いで見たが、自分の目には何もない駅のホームしか見えなかった。