「Web」「ゲーム」「ネックレス」
これはゲームだ。
そう、ただのゲーム。
首元に垂れ下げたネックレスを握る。このゲームの一番のキーアイテム、命と同等の価値を持たされたネックレスを、握る。
それを、守りきった。盗られずに済んだ。
いや、違うか……。
僕が、殺しきって、僕が、盗るんだ。
頭から血を流し、首があらぬ方向に曲がった名前も知らない女性の首に掛かったネックレスの先に装飾された銀製の輪を取る。
取って自分のネックレスに付け直す。
最初はWeb上のフリマで見つけた、ただの自分好みのネックレスだったのに。
「うっ」
吐き気が込み上げてくる。
人を殺してしまった。殺した。自分の手で。殺意を持って。殺そうとして殺した。
恨みもない、自分にとって何でもない相手を殺した。
「……これは、ゲームだ」
ゲーム。クリアを目指さなければいけない。そのためには目の前に現れた敵を倒すのは仕方がない。それがゲームなんだ。
スライムもクリボーもコボルトもゴブリンもクリアのためなら殺す。殺すんだ。
でないと僕が殺されるんだから。
死にたくないなら。自分が主人公でありたいなら、殺す。敵を全員殺す。
同じようにネックレスを見つけた百人全員を殺すんだ。
「やれやれ、そんな考えじゃ死ぬぜ坊主」
「っ!?」
しまっ――
「はい、ストップ」
首元に刃物が突き立てられる。
「あーあ、あんな綺麗な子を殺しちゃって……」
もう片方の手で髭を撫でながら、三十前後の風貌をした男は顔をしかめて言う。
「ま、今回は正当防衛って事で坊主の罪はチャラでいいかな」
チャラって?
「……アナタもこのゲームのプレイヤーなんですか?」
質問をすると、男は鼻で笑いながら
「違うね。俺はゲームのプレイヤーじゃあない」
「いや、でも――」
男の首から確かに自分と同じネックレスが垂れている。
「だから、そんな考えだと死ぬって言ってんだ――分かる?」
「ぐっ」
ほんの少しだけ首元に突きつけられた刃先に圧が加わった。
「ゲームなんかじゃねえんだよ坊主。そんな、ルールがあって、きっちり組まれたシステムの中で戦うような生易しい世界じゃねえ――戦争なんだよ、これは」
「戦争?」
「そう戦争だ。ゲームとは比べ物にならない程の戦略性や政治性が存在した世界なんだよ俺達が今おかれている状況は」
「……それで、アナタは僕に何が言いたいんですか?」
もう僕を殺せる体勢が整っているのに、そんなご高説をたれて何を伝えたい?
「察しの悪い奴だな。協力しろって言ってるんだよ。この戦争に勝つために。勝つ可能性を上げるために」
「協力ですか? 勝者が一人だけなのに?」
「だからだ。1対1の勝負になるように仕組まれているからこそ、協力して戦えば有利に戦いを進められる。そう思わないか?」
1対1よりも1対2、1対2よりも1対3。しかし、あれだけ戦争だ、戦略的で政治的だと言った割に、なんと分かりやすい方式だろうか。
「まあ、確かに、そうですね」
「だろ? それで坊主、俺に協力するのか、しないのか」
ただの脅迫じゃねえか。
「分かりました」
「おっけ、分かってくれてよかったよ」
それで、男はナイフを放して、自由が戻ってくる。
「あの、仲間になっていきなりなんですけど、他に仲間っているんですか?」
「お前と同じくらいの歳の女の子が一人。まだ仲間探しはするつもりだ」
「そうですか……」
他に女の子が一人か。
「じゃあ、とりあえずついて来い坊主」
「あ、はい」
女性を撲殺して血のついた金属バッドを回収する。
「そういえば、名前を――」
そして、それを男の顔に向けてフルスイングした。
「ぐぁ!?」
衝撃で吹き飛び、横になった男の顔に何度もバッドを振り下ろす。
動かなくなるまで。死ぬまで。殺しきるまで。
「ごめん、おじさん。基本ソロプレイなんです」
グシャグシャになったおじさんを見下ろしながら言う。
「それと、やっぱりこれはゲームですよ。だって――」
男のネックレスからリングをとる。
「アナタを殺すのに罪悪感がないんですから」
これはゲームだから。
ゲームだから殺せるのだ。
アナタがこのゲームのキーアイテムのネックレスを持っているのであれば敵だ。
殺すべき敵だ。
スライムで、クリボーで、コボルトで、ゴブリンだ。
それらを倒すのに罪悪感なんて沸かない。
これはゲームだ。
そう、ただのゲーム。
首元に垂れ下げたネックレスを握る。リングが三つに増え、その質量に見合わない重みを持たされたネックレスを強く、握る。