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三話 そこじゃない

「あのよ、さっきから聞いててちょっと思ったんだがよ」

 なんともいたたまれない様子の男が割って入ってきた。


「はい?な、なんでしょう?」


「うん。さっきからお前たち"ステータス"のこと初めて知ったみたいなことばっかし言ってるからよ」


「うん……それがどうしたのよ?」


「あぁ、この世界に住んでるもんなら誰でも、それこそ手足を動かすのと変わんねえくらいに当たり前の事をまったく知らねぇようなのが、どうにも嘘臭く聞こえてなぁ」


「だ・か・ら!そのステータスってなんなのよ?さっきからあなた、なぜか私達の事をアレコレと分かっちゃってるみたいで、本っ当気味が悪いったらありゃしないわ!」


 ゴーグル越しに睨まれた若い男は、まるで狐につままれたような顔でピンクアローを見返したが、急に思い立ったような表情になり、またもや指の二本で自らのコメカミ辺りに触れるという、あの奇妙な所作を見せる。


「ん、なんだか、かつがれてるよーな気持ちだが、ここはひとつ赤ん坊に教えるようなつもりでやってみるか」


「はぁ?かつぐ?赤ん坊?」

 なんとなくつられてピンクのヘルメットに指をあててしまうヒロイン。


「そーそー。そうやって目に意識を集中させて、じーっと他人の事を見てみなよ。コイツ一体なにもんだ?って」


「は?なに言ってんの?かつがれてるのは私の方よ!まったく、こんな事して一体何が見えるって……い、う──」

 ピンクアローはそこまで言って、プッツリと言葉を切ってしまった。


「な……なによ、コレ──」


「あの、ピンクさん?ど、どうしたんですか?」

 秋葉は言いようのない不安感に襲われ、立ち尽くすピンクアローを凝視した。


「な、なによコレ!?い、一体なんなのよコレ!?」

 じゃじゃ馬ヒロインの声は確かに震えていた。


「ど、どうしたんですか!?あの、えと大丈夫ですか?」

 秋葉は不安げな顔で、思わず天敵へと歩みよる。


「なによ!?この──種族:人狼(ワーウルフ)……職業:村の自警団……レベル13……な、なんでこんな文字列が見えるの!?やだっ!ま、まばたきしても全然消えないじゃない!!」


「あん?なーに言ってんだ?そうして見えてるのがステータスだろが?変なことで怖がるヤツだなー」

 男は自分の顔の右脇を指で丸く囲い、ここら辺に文字列が出てるだろ?とばかりに示してみせる。


「はあっ!?べべ、別に怖がってなんかないわよ!!あ、消えた!」


「当たり前だろ。そうして怒ったり、なにか他の事考えたりして、おまけに頭から指を離したら消えるに決まってるだろ……うん、お前本当に知らなかったって感じだな」


 ピンクアローはヘルメットの頭を振り、その中でまばたきを繰り返した。


「うわー気持ち悪かったー。うん……なるほど、ね」


「えっ!?な、なにが"なるほど"なんですか?」


「あ、うん。理屈はさっぱり分からないけど、さっきみたいにやれば、正面にいる他人のデータが見られるみたいね。うんうんOKOK、なーんてことないわ。私ったら"夢"を見てるのね」

 ピンクアローは掌で自身のヘルメットの横を叩いた。


「……え?こうして、えと、じっくりと人を見るとー、ひゃあっ!!」

 何となく真似をして試した秋葉は、突如視界に現れた文字列に驚き、思わず腰を抜かして、ストンっと真下に尻餅をついた。


 それから──若い男によるたどたどしい解説が施され、幾らか落ち着きを取り戻した二人の女は、この不可思議なステータスというものを互いに見合いこし、やがてそれを楽しむ余裕さえ見せ始めた。


「ふぅん。なんだか不思議な現象ですけど、慣れればとっても面白いですね。ちょっとだけ意味不明なところもあるにはありますが……」


「うん。この年齢や職業とか筋力、知性とか信仰心、あと素早さとかまでは解るわ。まぁギリギリね。でも──この種族とかlevel、魔法耐性とかはさっぱりね」


「あ、はい。あと一番下の方の"技表(わざひょう)"とかも何の事を指しているのか、いまひとつですよねぇ。ピンクさんのコレとか、ウフッ……ファ、ファイアーフェニックスて!」


「えっ!?そこは解るでしょ!読んだまま私の必殺技よ!て、ちょっと待ちなさいよ!そこは別に笑うとこじゃないでしょ!?」

 ヒロインはなんだか小馬鹿にされたように感じ、ヘルメットの中で目を吊り上げた。


「だ、だって……サ、サイクロンフィストだとか、バーニングキック改だとか、ウフフ……あの、こ、コレって全部自分で名前を付けたんですか?ウフフ……こんなネーミングセンスして、に、人間族カッコ突然変異体の29歳て、ウフフ……」


「うるっさいわね!!どれもこれも正義のヒロインらしていいじゃない!!あなたこそこの"秘奥義BLコミック違法ダウンロード"ってなんなのよ!?フン!違法行為が必殺技だなんて、やっぱりあなた根っからの悪の研究員だわ!」


「えっ!?そそそ、そんなことまで見えちゃってるんですかー!?あひゃあっ!!そんな他人のヒミツを声を大にして読まないでくださいよー!!」


「他にも、"ドキドキ手作りチョコレート"とか"ワクワクつや出しテンパリング"って……こんなのカワイイーとでも思ってんの?バッカみたい!ってー!私達ったらなーに敵同士で和んでんのよっ!」


「ん?べ、別に和んでるって事もないと思いますけど……。ウーンそれにしても……変ですねぇ」


「え?なにがどう変なのよ?」


「あ、はい。いや、この夢って中々覚めないなぁーって」


「だからよー、なに一つ夢じゃねえっての……」

 23歳の人狼が呆れたように言った。

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