危険な月曜日 4
ちゃぽん
「ふ〜」
白い湯気に包まれた浴室。広いとは言えないが、狭くはない浴槽でノンビリと湯舟に浸かる
「疲れ取れるなぁ」
リラックスしながら夕凪に聞いた話を整理する
益川 信也。夕凪の話が正しければ彼は要人専用の警備会社、魔女の鉄槌の社員だ
魔女の鉄槌は僕らが所属する日本桃太郎警備保証、略して桃侍……略してないよね? 一応正式名称なのだけど……こほん。桃侍と違い、彼等はアンダーグラウンド、即ち余り真っ当な事をしていない人達も隔てなく警護する会社。
そして、目的を警護する為なら他を犠牲にする事を厭わない非人道的で、自分勝手な会社だと言う
そんな事から魔女の鉄槌に関する評判は僕らの間で極めて悪く、しかも会えば大体敵対関係だから、酷い時には殺し合いにまで発展する時もある
だから桃侍は、どんな要人からの依頼があっても魔女の鉄槌と合同で警護をする事だけは拒否をする。
だけど、警護成功率99パーセントを誇る魔女の鉄槌を利用する要人は多く、様々な場所で彼らと鉢合わせしてしまうのだ
「……魔女の鉄槌……か」
例え何であれ、僕は千鶴さんを守る。それだけだ
「うん、頑張ろう!」
勢いよく湯舟から出て、びちゃびちゃと床を濡らしながら洗面所へ。鏡の前に立ち、タオルで乱暴に頭をゴシゴシ拭く
適当に拭き終わった後、腰にタオルを巻いて洗面所の直ぐ横にあるキッチンへと行く。
キッチンの小さな冷蔵庫を開けると、入っているのはよく冷えたコーヒー牛乳だ
「これこれ」
腰に片手を当て、コーヒー牛乳を一気に飲み干す!
「ぷはぁ。おいし」
グイッと男らしく口元に付いたコーヒー牛乳を拭う
ふふ、男らしいな僕
「さて……よいしょ」
洗面所のドア前に用意していた籠からトランクスと寝巻きを取り出し、ぱっぱと着替える
後はいつ誰が部屋へ来ても大丈夫なように、就寝時間までパット入りのブラジャーをするのだけど……
「……ハァ」
ほんと、つかの間の休息って感じ
ため息を漏らしながら、僕は部屋へと続くドアのノブへ手を伸ばした
「…………っ!?」
ノブに触れた瞬間、危機感と言う名の電撃が僕の体を走り抜けた
部屋に誰かが……いや、何かが居る!
この隠そうともしない殺気は、飢えた獣に近い必殺の気だ。
普通の人間が出す質の物ではない
キッチンの戸棚に隠してある銃を? ……いやこれは挑発だ
挑発には惚けを
僕は何も気づかない振りをして、ドアのノブを回した
「ふう、さっぱり……キャ!?」
ドアを開けると、部屋には予想通り銀色の髪を持つ男の人……は居なく、肩まであるおさげの女の子がいた。
六月だと言うのに、体がスッポリ隠れる程大きなコートを着ていて、余程目が悪いのかすごく分厚い眼鏡をしている為、表情も伺えない
「誰?」
本当に誰だろう
「お手紙読んで頂きましたか?」
尋ねてはいるが、読んでいて当たり前だという響きが声に含まれていた
「お手紙? ……ああ、今朝のですね。まだ読んでいませんが、今日中に」
「何で読んでいてくれないんですか!!」
急に大声を出す女の子。びっくり
「ごめんなさいね。僕も今帰って来たばかりで……」
「ボクが……」
「え?」
「ボクがこんなにも思っているのに!!」
そう言って、バッとコートを開く女の子。その身には何も着けてなく、小ぶりな胸とまだ薄い毛が目に付いた
「ち、ちょっと! 何をしているのさ!?」
「抱いて下さいお姉さま! ボクをお姉さまの物にして下さい!!」
女の子はじりじりと迫ってくる
「だ、駄目だよ落ち着いて! あっ!」
女の子から逃げるように後退していた僕は、壁際へ追いやらわれてしまう
「夕凪さまの次で良いんです。夕凪さまの次に愛して下されば……」
「な、何で夕凪が出てくるの?」
「判っています。夕凪さまとお姉さまは愛し合っているって……一年の間では噂になっています」
「ええ!? 何でそんな噂が……」
さっぱり判らない
「いいんです、二人はお似合いですし邪魔をするつもりはありません……でも!」
「ち、ちょっと待って。僕と夕凪はそんな関係じゃないし、大体僕は……」
…………い、言わなければいけないのかな?
「……?」
「ぼ、僕は男の方が好きだからー」