危険な月曜日
ブッチャー女学院はお嬢様達が学ぶ学校
その授業内容は一般的な物から始まり、社交ダンスや華道、礼儀作法に護身術と言った風変わりな物もある
その中で僕が最も嫌だと思う授業。それが月曜日の三時間、ようするに次の授業
それは料理? 華道? それともメイク術?
違うよ、そんな事なら僕だって軽く出来る。むしろ得意
じゃあ何? ……それはね
「おんやー? 美里ちゃんは、まーだ着替えないのかな〜」
どうやら着替え終わったらしい夕凪が、机に伏せっている僕にからかいを含んだ声で話しかけてきた
「……みんなもう着替えたかな?」
夕凪にしか聞こえないであろう小声で尋ねる
「着替えたよん」
「…………嘘だ」
「酷い! 酷いわ! 貴女私を信じないのね!?」
「三回裏切られたから」
夕凪の言う事を迂闊に信じると、着替え途中の女の子を見てしまう可能性が高い
「ちぇ、カマトトぶっちゃって。エロスと言う名の欲望に身を任せ、まだ青い果実達を舐めるように、ねぶるように眺めて含み笑いするのが男ってもんでしょうに」
「君の男性像は狂ってる」
それに小声とは言え、あんまり男だと言わないで欲しい
「つまらない奴。……ほ〜千鶴は相変わらず良い胸をしてますな〜」
「……君ねぇ」
「むむ。これはちょっとチェックの必要があるますぜ旦那」
そう言って僕から離れる夕凪。何をチェックするのか知らないけど、離れてくれてホッとする
「……きゃ!? あ、あの夕凪? ど、どうして私の胸を触るのですか?」
「ぶっ!」
ホッとしたのもつかの間、夕凪は何かとんでもない事をしているようだ
「夕凪ちゃんチェックよ。フムフム。これは……なかなか……ん? あたしよりある? う〜ん柔らかいしスベスベだし……よし、良い乳だ! 合格!!」
「も、もう! 怒りますよ夕凪!!」
「だって〜美里が千鶴のおっぱい触りたいって言うから代わりに〜」
「ゆ、夕凪! いい加減にし……」
流石に我慢出来ず、顔を起こして夕凪の方を見る。すると
「…………て」
上半身が下着姿の千鶴さんと、その横に立つニヤニヤ顔の夕凪
千鶴さんは、その大きい胸にちょっと不釣り合いな、かわいらしいフリルのレースブラジャーをしている
「…………はっ! ご、ごめんなさい!!」
顔を逸らすと、前の席では華怜さんがショートパンツを足から履いている所だった
彼女の下着に描かれたクマさんと目があってしまう
「あ……う……」
「ん? どうかしまして、美里さん?」
呻き声を上げた僕を、華怜さんはちらっと振り返り、心配そうに尋ねた
「あら、お顔が真っ赤ですわよ? お風邪でもお引きになられたのかしら?」
「だ、大丈夫です! ごめんなさい!!」
「はい?」
ゴツン!
「あう!?」
慌てて机に顔を伏せたら、額を強く打ってしまった
「ぷ! あはははは!! 何やってるのよ美里ー」
「う〜〜〜」
夕凪の爆笑が腹立たしい
「い、今、凄い音がしましたわね……大丈夫? 美里さん」
「は、はい。お騒がせしてすみません」
「大丈夫なのでしたら良いけれど……皆さん着替えましたわよ? 美里さんもそろそろ着替えないと次の体育、間に合わなくなりますわ」
「はい」
華怜さんの言葉を受け、顔を上げると、確かにみんなショートパンツとTシャツに着替え終わっていた
「ふぅ」
ため息混じりに立ち上がって、リボンを解き、ブレザーの制服を脱いでゆく
最後に半袖のYシャツを脱ぐと、花柄の下着と中サイズのバストが現れる
それは、僕の為(余計な事を!)だけに作られた特製のシリコンパットの胸。
色、形、サイズと僕の体に合う様に作られていて、本物と同様の手触りと、弾力を持つ
「むっふふ〜。美里ちゃんも良い乳してまんな〜」
「うるさいよ夕凪」
素早くシャツを頭から被り次にスカートを脱ぐ
スカートを脱ぐと、ブラジャーと対になっている花柄の下着。……情けなくて泣きたくなるよ
「きゃ! 小振りで可愛いお尻。いいぞー姉ちゃん」
「……怒るよ?」
素早くショートパンツを履いて夕凪を睨む
「う……じ、冗談、冗談。てか、そんな怖い顔しなくても良いじゃない……。拗ねちゃうぞ」
夕凪は膝を抱えてしゃがみ込み、床にののじを書き始めた
「……君ねぇ」
「美里、夕凪。早く行きましょう? 皆さんもう行ってしまいましたよ」
「え? あ、はい」
千鶴さんの言葉で辺りを見回すと、いつの間にか教室内は僕ら三人だけとなっていた
「ほら夕凪、いつまでも拗ねてないで行くよ」
「……メロンパンとヤキソバパン」
上目使いで僕を見上げ、グスっとわざとらしく鼻をならす夕凪
「分かった。奢るから」
「……ビールも」
「そろそろ行きましょう、千鶴さん」
「は、はい」
これ以上構ってられないや
「ち、ちょ!? ま、待ってよ〜!」
慌てる夕凪を置いて、僕らは教室を出た
運動靴に履き変え、出た校舎。
校舎入口から南西へ道に沿って歩くと、校庭。
校庭は校舎が建つ土地に比べて多少低い位置にある為、階段を数段下りないといけない
因みに、この学院には二つ校庭があって、こっちは第一校庭
第一校庭はトラック一周で約1200メートル程もある巨大な芝生の校庭だ
周りにはスタンドが設備されていて、何かイベントがあれば観戦出来る様になっているけど、此処で何かする事は殆どない。
と、言うのもスタンドと用具室、それと周りを囲む木々とフェンス以外何もないからだ
サッカーゴールや野球のベース等も無く、ただ広々としているだけ。校庭と言うより雰囲気としては空き地に近いと思う
「はい、皆さん集まって下さい」
この学院で唯一の体育教師である内山先生が、階段の下でみんなを集める
その声を聞き、きびきびと動くクラスメート達。ちょっとした軍隊みたい
「はい、今日はマラソンになります。準備体操の後、最低四キロを授業中に走り終えて下さい」
今日は、と言うより今日もマラソン。
週に一回体力作りの為行われる訳だけど、たまには他の事もやりたい
「はい、一、二。一、二」
ラジオ体操と言う名の準備体操を黙々とやり、最後に深呼吸
「……はい、体はほぐれましたね。それでは走って下さい」
走れの合図で僕らは一斉に走る。最上級生であるクラスメート達は、慣れているからか中々早い
その中でも特に早いのは千鶴さん
彼女のSPである僕らは、不自然にならない程度の間隔で千鶴さんの傍を走るんだけど、他の人より圧倒的に早いので、自然と僕らも目立ってしまう
「美里〜」
授業が始まってから三十分弱。トラック五周目に入った時、夕凪は僕の傍に近寄り、情けない声を出した
「なに?」
「も〜疲れたぁ」
「……嘘付き」
夕凪は僕らの会社の中でもかなり優秀なSPだ。今ぐらいのペースなら四キロどころか四十キロでも楽に走れる
「胸がね、重いの……」
両腕を組み、下から胸を支える夕凪。タプンと音がしそうなぐらい揺れた
「し、知らないよ!」
それにそんな事を言うなら千鶴さんだって大変そうだ
「あ、今比べたわね?」
「…………ごめんなさい」
軽口をたたき合いながらも僕らは常に周りを警戒している
流石に銃撃や狙撃を警戒している訳ではないけれど、何が起こるか判らないのがSPと言う仕事。仕事中は気を休めてはいけないのだ
「あ〜暑いし、眠いし、怠いよ〜ビール飲みた〜い」
け、警戒してるよね?