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お姉様の帰還 2

「お帰りなさい」


寮に入ると、ロビーでそう声を掛けられた。朝、寮の掃除をしてくれていた子だ


「ただいま新井さん。おっしゃっていた本、買って来ましたので、明日お渡ししますね」


「あ、ありがとうございます! マンガはポイント高いのにすみません」


「僕も読みたかったので気にしないで下さい。読み終わりましたら貸してもらえますか?」


「はい!」


「ありがとう」


買って来たお土産は、後で軽くチェックされる。そこで品物にあった分の買い物ポイントを引かれるのだけれど、マンガは参考書三冊程度のポイントがかかる


「ところで新井さんは、こちらで何を?」


右手に持っているのは雑巾かな?


「あ、はい。朝掃除をしていたら、玄関周りの汚れが気になってしまって。少し拭いて終わりにしようと思っていたのに結局……あ、あはは」


「こんな時間まで、ずっとお掃除を?」


「い、いえ〜。所々でサボってます」


照れ臭そうに笑うけれど、ちょっと赤くなっている手が頑張ってくれた事を証明していた


「ありがとうございます、新井さん。寮が見違えました」


新井さんに近寄り、その手をキュッと握る。夏だと言うのに冷たい手


「っ!? だ、駄目です、お姉様の手が汚れてしまいますから!」


「少し荒れてしまっていますね。もし良かったら、後で僕の部屋に寄りませんか? よく効くハンドクリームがあるので一瓶お譲りします」


軍人も使う強力なハンドクリーム。水に強く、滑り止めにもなるので、銃を扱う時は良く利用している。まぁ女の子の手に使う類いの物では無いのだけれど


「お、お姉様のお部屋にですか?」


「散らかっていると思ってます?」


いたずらっぽく微笑むと、新井さんは慌てて首を振って


「お邪魔します!」

と、力強く頷いてくれた


「はい。それでは掃除用具を片付けてしまいましょう」


「はい!」


掃除用具を片付け、僕達は二階へと上がる。部屋に行く途中ですれ違った何人かの子達が、お帰りなさいと言ってくれた


お帰りなさい。今までの僕には縁の無い言葉だったけれど、ここでは自然に言ってもらえる言葉となってしまった


馴れ合いは怖い。このまま馴れ合い、この学院を愛しいと、別れが寂しいと思ってしまった時、僕はSPとして最善の行動をする事が出来るだろうか?


「どうぞ」


部屋の前に着いた僕は、ドアを開けて先に入るよう促す。新井さんは少し戸惑った後、おっかなびっくりと言った感じで部屋へ入った


「これがお姉様のお部屋……」


「何もないでしょ? 実は片付ける必要が無いんです」


最初から備え付けられていた家具や電気製品以外、殆ど買い足ししていない。唯一、ワンドアの小さな冷蔵庫だけは購入した。夕凪のリクエストだけどね


「今、飲み物出しますので、座って待っていて下さい。冷たい紅茶、コーヒー、緑茶とありますが、どれかお好きな物はありますか?」


「あ、で、では緑茶をお願いします!」


「はい」


僕の腕を披露したい所だけど、生憎お茶はペットボトルの物しかない。キッチンでコップに移し変えて、新井さんの所へ持って行く


「どうぞ」


「あ、ありがとうございます!」


新井さんはコップを両手で持ち、恐る恐る口へ運んだ


「足、痛いでしょ。嫌じゃなければそこにあるクッションでも使って――」


「だ、大丈夫です! 慣れてますですから!!」


「そ、そう?」


「はい!」


「それならいいけど……」


どうも新井さんは緊張しているようだ。やっぱり下級生にとって、上級生の部屋というのは居づらい場所なのかも


「それで……、こちらが僕の使っているハンドクリームです。良かったら試してみて下さい」


「はい!」


「う、うん。そういえば、来週文化祭ですね。新井さんのクラスは何をするのです?」


「宝石店です。30から100ポイントの間で販売する予定です」


「そ、そうなんだ」


漫画本と同じ値段。ちなみに文化祭で貯めたポイントは、クラス全体のポイントとして利用出来る。僕らの所は、最後のサプライズに使う予定だ


「いっぱい売れたらそのポイントで、カップラーメンを買います」


目をキラキラさせて言うけれど、


「ら、ラーメンをですか?」


「はい〜。お姉様のクラス、下級生の間で凄く注目されていているんですよ。だから凄く競争率が高いと思いますけど、絶対にクラス全員の分、確保します!」


目が燃えている。新井さんは本気だ


「判りました、お待ちしています。2日目になりますか?」


「はい、朝一番に」


「そうですか」


2日目の朝は、予定より少し多めに用意してもらおう


それから暫く色々と話していたら、下の階から鳩時計の音が聞こえた。10時40分、消灯20分前だ


「あ、もうこんな時間……。お姉様、ハンドクリームありがとうございました。今日からさっそく、使わせて頂きます!」


「はい、どういたしまして。お話がとっても楽しくて、あっという間でした。宜しければまた遊びに来てください」


「は、はい!」


玄関まで新井さんを見送った後、携帯をポケットから取り出す。どこからも連絡はない


「……さて」


遅くなってしまったけれど、夕凪に報告をしに行こう




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