クラスメート
三階にある僕らの教室
教室には20席しか無く、一般的な高校のクラスよりは少ない
机や椅子は普通の学校に有りそうな物を使っているけど、カーテンにオーダーカーテンを使っていたり、クーラーが二台もついていたりと、さりげなくお金持ちをアピール
クラスメートは、もちろん全員女の子。なんと言うか男は絶対に入れない甘い雰囲気に包まれていて、僕はとっても居心地が悪い
「それでは休み時間に」
千鶴さんと夕凪は廊下側の席へと着席する。僕は逆の窓側だ
クラスメート達に挨拶しつつ、自分の席へ……
「おーっほっほっほ、宜しくってよ」
この本当にいたんだってこんな人って笑い方をする女の子は、前の席の豪苑寺 華怜さん
三条院には及ばないけど、豪苑寺もまた日本で有数の大金持ちだ
「おはようございます、華怜さん、悠紀さん、麗子さん」
席に座り、談笑している華怜さん達に声を掛ける
「おはよう、美里さん。あらリボンが少し曲がっていてよ」
華怜さんは鎖骨辺り迄あるブラウン色の巻き髪を軽くかきあげながら僕の前へ来て、リボンを直してくれた
「ありがとう、華怜さん」
「淑女たるもの、いついかなる時でも油断は禁物ですわよ美里さん」
口調は変わっているけど、華怜さんは面倒見が良くってしっかり者の、とっても可愛い女の子だ
僕が転校生と言う形でこのクラスへ来た時、1番最初に声を掛けてくれた人でもある
「どうかして?」
じっと見つめていたら、華怜さんは不思議そうに小首を傾げ、大きな眼で僕を見つめ返した
「ううん。あ、華怜さん。今日のヘアバンドはきらびやかだね?」
ヘアバンドで前髪を上げている華怜さん
いつもはシンプルなデザインなのだけど、今日は装飾にダイヤをあしらっている豪華なヘアバンドだ
「お父様がロシアのお土産だからと学院に贈ってくださったの。
私は余り派手な物を好まないのだけれど、お父様のお気持ちが篭ったこのカチューシャだけは気に入りましたわ」
嬉しそうに話す華怜さん
「よく似合ってますよ、華怜さん」
本当にそう思う
「ありがとう美里さん。貴女も綺麗な髪をしていらっしゃるのですから、たまには飾ってみては?」
「う、うん……そのうち」
辛うじて苦笑いに見えない程度の微笑みを華怜さんに返していると、教室のドアがすーっと開いた
「おはようございます、皆さん」
軽くウェーブがかかった長い黒髪を揺らして教室へ入って来たのは担任の鮎川 サリア先生
サリア先生はロシアと日本人のハーフで、日本人離れした端正な顔立ちと、長い足。そしてブルーの瞳が特徴的
2年前まで、東京の大学で院生だったサリア先生は、優秀さを買われ、このブッチャー学院に引き抜かれて来たらしい
事実優秀で、授業は分かりやすいし性格は穏やか。それでいて頼りになると、非の打ち所が無い
教師の中でも1、2の人気を誇る人だ
「……はい。それでは今日のホームルームを始めますよ」
生徒が全員席に着き、姿勢を正したところで朝のホームルームが始まった
サリア先生の声以外、全く音が無い教室内。
この学院は挨拶が無く、静寂こそが先生に対する礼儀としているのだ
「今日の予定ですが……」
朝の緩やかな陽射しが、穏やかに話すサリア先生を優しく照らす
容姿や声もだけれど、なにより立ち振る舞いが凄く綺麗な人だと思う。ブッチャー学院のマリア様ってあだ名はダテじゃないね
「……以上で朝のホームルームを終了します。何かご質問はありますか?」
「はい」
サリア先生の問いに、手を上げた千鶴さん。珍しいな
「はい、千鶴さん」
先生が促すと、千鶴さんはスっと立ち上がり、透き通る声で先生へ質問をした
「本日より新しい事務員が学院へ入るとの事ですが、それは男の方ですね?」
苛立ちを含んだ声だ。どうやら確信しているみたい
「はい、男性です。男性の方が校舎内にて常勤する事は大変珍しい事ですが、とても優秀で紳士的な方だと伺っておりますので、ご心配なさらず普段通りにお過し下さい」
男と言う単語を聞いて、微かにざわめいたクラスメート達。そのクラスメートみんなへ、サリア先生は諭す様に言った
「…………分かりました。ありがとうございます」
千鶴さんは音も立てず椅子へ座り、ピンと背筋を延ばす
「……千鶴さん」
表情には出ていないけど、怒っている。何となくそんな気がした
ホームルームが終わり、次の授業が始まるまでの十五分。
その間に、様子がおかしかった千鶴さんと少し話そうと、僕は千鶴さんの席へ近付く
「千鶴さん」
「はい」
声をかけた僕に、微笑みながら応える千鶴さん。その表情からは怒りは感じない
「……男の方が学院内にいらっしゃるんだってね」
不安げに言ってみる
「はい。住み込みでとの事ですが、この学院が創立以来初めての事ですね」
「男の方……少し恐いです」
「大丈夫ですよ。サリア先生もおっしゃった様に、紳士的な方だそうですから」
一瞬。ほんの一瞬だけれど千鶴さんの言葉に刺があった
「……そうですね。男の方がいらっしゃるとの事で、僕も少し動揺してしまいました。ありがとう、千鶴さん」
突然現れた事務員。調べる必要がありそうだね