クリスマスなお姉様
12月24日の朝は、会社からの連絡で始まった
ピピピピピピ
「ぅ~、ぅ~」
継続的に鳴る機械音。その無慈悲な音は、気持ち良く寝ていた僕の耳と脳を刺激する
「ぅ~。分かったよ~」
渋々ベッドから出ると、まだ部屋は薄暗く、急に身体が冷えはじめた。
僕は、ぬくぬくの布団に後ろ髪を引かれつつ、テーブルの上に置いた携帯電話を手に取る
「はい、もしもし」
「メリークリスマス! サンタさんだよ~」
「……何かご用ですか、佐久間さん」
電話の相手は佐久間さんだった
「つれないな~新城君は今日はクリスマスだよ? 一年で一番ラブホテルが儲かる日だよ」
「そうですか。それでは良いお年を」
来年まで佐久間さんの番号は着信拒否にしておこう
「ま、待ちたまえ! 今のは毎日命を掛けて職務に励んでくれている部下への愛情表現だ」
「はぁ、ありがとうございます」
「本題に入ろう」
佐久間さんの声に真剣な音色が混ざる
「……はい」
僕は姿勢を正し、佐久間さんの言葉を待った
「横浜駅の西口付近に大きなホテルがあるのは知っているね」
「はい」
「そこの703号室。スイートルームだ」
「はい」
「今晩、私と食事でもど」
ツー、ツー
電話を切って、素早く着信拒否
「ん~」
伸びをしながら時計を見ると、午前五時だ
少し早く起きてしまったけれど、せっかくのクリスマス。早起きも悪くない
僕は、朝の空気を吸おうと部屋のカーテンを開けた
「……うわぁ」
外は一面真っ白の世界
ほわほわと降り続く雪は柔らかく、ありえない事だけど温もりを感じた
マンションのベランダから見下ろす屋根達も、いつもの赤や青と言ったカラフルな色は無く、白に統一されている
今日はホワイトクリスマス
雪が降った。ただそれだけで、幸せになれる日
後でケーキでも買ってみようかな
ピンポーン
インターホンが突然鳴った。
こんな時間に?
訝しく思いながら、インターホンの受話器を上げモニターを見ると……
「やっほーいサンタちゃんでーす」
サンタの衣装を着た夕凪の、ドアップだった
「…………」
「入れて~寒いよ~」
「…………はぁ」
ため息をついて、ロックを外す
そして待つ事三分間
ピンポーン
「……はぁ」
玄関に行き、鍵を外してドアを……
グイッ!
「うわっ!?」
「は~い、ミニスカサンタで~す! ご指名あっりがと~って、どったの美里?」
つんのめって転んでしまった僕を見下ろし、夕凪が本当に不思議そうに尋ねた
「君がいきなりドアを開けるから!」
「だらし無いわね~。あたしが刺客だったらお前はもう死んでいる。なんちゃって」
「……き、君、もしかして酔って? って夕凪! 君、何て格好を!?」
上は確かにサンタの衣装を着ているけど、スカートは履いていなく、ガータ付きの黒い下着がもろに見えた
「ん? ありゃ? こりゃ失敬。昨日、忘年会があってさ~、その時吐いちゃって、汚れたから脱いで来たんだった」
「き、君ねぇ!」
と言うか、その格好で此処まで!?
「失敗、失敗。はい、ケーキ」
「え?」
「一緒に食べましょ?」
夕凪は優しく微笑みながら、僕にケーキを手渡す
「…………ありがとう」
わざわざケーキを届けに来てくれたんだ……
「よーし、じゃあベット借りるわよ~」
「え?」
夕凪はドカドカと部屋に入り込み、僕のベットに潜り込んだ
「ひとはちまるまる迄寝るから出前にお寿司よろしく~」
「…………え?」
「お・や・す・み。チュっ」
そして、お酒臭い投げキッスをして夕凪はスヤスヤと、夢の中に入っていった……
「…………ゆ、夕凪の馬鹿~!!」