お兄様の暗躍 2
「それじゃ3日後、学院の方へ送れば良いんだな?」
「はい、宜しくお願いします。学院は荷物のチェックが厳しく、大変かと思うのですが」
「誰にものを言ってる。足なんかつかねぇよ」
「……ですね」
光洋さんは僕なんかよりも、ずっと判っている人だ
「ではそろそろ帰ります」
取り引きが終わり、光洋さんに頭を下げた僕は、おいとましようと玄関の方へ振り返る
「一緒に飯でも食わないか? もう2日食ってねぇ」
「先約がありますので、また今度お誘い下さい」
外出許可をもらう際には保護者の許可が必要。ここで言う保護者とは佐久間さんの事なのだけれど、今回外出するに至っては、佐久間さんと食事面談をするという名目で了承してもらったのだ
「つれねぇな。ま、それもいい女の条件か」
「怒りますよ」
本気だって気持ちを込めキッと睨むと、光洋さんは苦笑いをしながら手をヒラヒラさせた
「悪い、悪い。じゃ仕事に掛かるからとっとと帰りな」
「食事、きちんと採っ下さいね」
「ああ」
パソコンに向かい、キーボードを打ち込み始めた光洋にもう一度頭を下げて、僕は部屋を出た
「……さて、と」
佐久間さんとの待ち合わせの時間は午後6時。今は3時少し前なので、結構ギリギリだ。素早く行動しなくては
マンションを出て、来た時と同じ方法で駅前に向かう。途中買い物をしていきたいけど、間に合うかな?
※
駅前の待ち合わせ場所。腕時計の針は午後6時10分を指していた
両手には大きめの買い物袋が二つ。中には学院のみんなへのお土産が入っている
「…………」
遅い。夕凪ならともかく、約束の時間に一秒でも佐久間さんが遅れるのは珍しい
何かあったのかな? セクハラで訴えられたとか
そんな事を考えていたら、見知った車が近くで止まった。その車からは、スーツを来た男性が花束を持って降りてくる
「待たせてしまったね、美里。君に合う花が中々なく……ハァァ」
スーツの男性、佐久間は僕の顔を見て露骨にガッカリし、深い溜め息をつく
「お疲れ様です、佐久間さん」
「……君は」
「はい?」
「君はなぜ男の姿なのだね!」
「…………」
帰ろうかな、もう
「私は今日、私の天使とプライベートで会う為に此処へ来た。だから君の休暇を許可した、なのに……。詐欺だぞこれは! 君は今すぐ着替えてくる義務がある!!」
わ〜気持ち悪い
「スカートだ、短いスカートを要求する! だが下品になってはいけない、あくまでも清楚で愛らしく――」
「佐久間さん。報告書はこちらにまとめています。警護内容に問題点がありましたら、後日ご連絡下さい」
佐久間さんへUSBメモリを渡し、優しく微笑む。話すべき事はあったのだけれど、佐久間さんはプライベートで来たと言った。ならボロが出ない内に引き上げよう
「う、うむ。確かに預かった。ではスカートに着替えて食事に」
「本日は休暇を与えて下さって、本当にありがとうございました。美味しい食事に買い物、それに町の探索。これでもうリフレッシュは完璧です。これ以上佐久間さんの手を煩わせる訳にもいきませんので、そろそろ失礼しますね」
「ちょ、ちょっと待ちなさい美里! 話はまだ」
「夕凪がカバーしているとは言え、これ以上護衛対象から離れているのは良くありません。ただちに勤務に戻り、護衛を再開します」
本心からそう言うと、佐久間さんも真面目な顔になり、次の休暇は暫く下りないだろうが気を引き閉め頑張ってくれたまえ。と、激励してくれた
「ありがとうございます。では……あ、そのスーツ凄く似合っていますよ。お花は奥さんにプレゼントしてあげて下さい」
もうすぐ結婚、10年目だっけ?
「う……む」
ばつが悪そうに頷き、佐久間さんはトボトボと車へ戻って行った
「…………くす」
奥さんも大変だなぁ
「ん」
それじゃ、ロッカーに預けた服を取りに行こう