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ピンチなお兄様 2

「…………よし」


洗顔でメイクを落とし、髪を後ろで縛る。鏡に写る僕は、完璧に男!


「……はぁ」


こんな事で喜んでいる自分に少し呆れてしまう


「さてと」


そろそろ目的の場所へ向かおう


ワンピースと麦藁帽子を紙袋にしまい、デパートの一階にある貸しロッカーへ入れ、そのままデパートを出る


「ん〜」


伸びをし、見上げた空は太陽が昇りきっていて、そろそろお昼が食べたくなる。まだ時間もあるし、ラーメンでも食べようかな


なんて事を思いながら歩いていると、ラーメン屋の横を通り掛かった。何かの導きかもね


美味しい店だったら良いな。そんな気持ちを込め、僕はラーメン屋の扉を開けた


「らっしゃい!」


カウンターから三十代の男性が威勢良く僕を出迎える


「食券お願いしま〜す」


「はい、分かりました」


食券販売機でオススメと書かれたチャーシュー麺を買い、カウンター席に座る


「チャーシュー麺、ありがとうございま〜す。麺の固さはどうしますか?」


「固めでお願いします」


水を出してくれた女性店員さんに券を渡し、さっと店内に目を配る


店内にはお客さんが三人。店員さんが二人


テーブルは三つ、カウンターの椅子が七つの中型店だ


奥はトイレと裏口に続いており、油で黒くなった天井には天井裏があるのか一カ所取ってがある


襲撃者が来るとしたら、裏口を塞ぎ、正面口からの銃の乱射が一番成功率が高いだろう


なら姿を隠くせ、ある程度は丈夫であろうカウンターに飛び込み、そこにあるナイフ等の刃物で反撃を……


「はい、チャーシュー麺お待ちどうさまで〜す」


「あ、ありがとうございます」


良い匂いだ


せっかくのご飯時につまらない事を考えている自分に苦笑い


「…………」


そんな僕を、じっと見つめる店員さん


「どうかしましたか?」


「あ、か、勘違いだったらすみません。モデルか何かの方ですか?」


「え? いいえ。ただの学生ですよ」


よどみなく、答える


「ご、ごめんなさい! 見たことが無いぐらい綺麗な方だったので!!」


「き、綺麗……」


今日これで二度目。やっぱり傷付いてしまう


「ご、ごめんなさい」


僕が嫌な顔をしてしまったので、店員さんはペコペコと頭を下げてしまった


「ありがとう。嬉しいですよ」


女装で鍛えた(不本意だけどねっ!)微笑みで、怒ってないよと店員さんに伝える


「あ……はい……」


「味噌出来たぞ! 三番テーブルに持ってけ美空!!」


「はぁい」


店主さんの怒声にボーッとしたまま店員さんは応え、フラフラと味噌ラーメンを受け取り運ぶ


……大丈夫かな?


「お待たせで〜す」


大丈夫だったみたい


ホッとした所で、ラーメンを一口


「あ、美味し」


今度夕凪を誘ってみようかな。……夕凪の許可が下りたらだけど


キキー!


「ん?」


夕凪の事をかんかラーメンをズルズル食べていると、車のブレーキ音が店外で発生した。続いて人が数人、慌てて下りる音がする


「…………」


今現在、護衛対象者はいないし気にする必要は無いけど、SPの心得として警戒だけはしておく


ガタ!


「っ!? ……?」


ラーメン店の引き戸が乱暴に開かれたと思ったら、短く揃えた銀色の髪が美しい初老の紳士が現れた


「…………んん?」


なんだろう?


器を持って投げ付ける準備をしていた僕は、紳士の表情に敵意が無い事を確認し、器を下ろす


「お騒がせして申し訳ございません。ただ今よりこのお店は貸し切りにしたく思っております。まだ食べていらっしゃる方も、待っていらっしゃる方々も速やかに退店をお願いします」


「…………」


お願いなのか命令なのか微妙な言い方に戸惑い、僕らはア然とする


「…………な、何勝手な事を言ってやがる!!」


店主さんが我に返って紳士に文句を言うと、紳士はパンっと手を叩く。

 すると黒いスーツを着た背の高い男性がジュラルミンで出来たアタッシュケースを持って店内に入って来た


紳士はスーツの男性を目で動かし、男性はカウンターへアタッシュケースを置き、開けた


「一千万あります。貸し切り三十分毎に百万。食事中の方々には十万づつと言う事で如何でしょうか」


「い、如何って……お、俺ぁ客が第一優先でぃ! 金なんざ幾ら詰まれても……ねぇ?」


店主さんの目が凄い勢いで泳いでる。お客さん達も凄い勢いで頷いているし、これはもう決まりだね


「僕は構いません」


僕がそう言うと、みんなも一斉に頷いた


「そ、そう? ……了解だ、こんちくしょう!」


「ありがとうございます。ではお客様方には十万円を」


「僕はいりません」


スーツ姿の男性が差し出すお金を受け取らず、僕は立ち上がる


「ご、ごめんな、兄ちゃん。今度無料にするから」


「ありがとうございます。今度友人とお邪魔しますね」


軽く微笑んでお店を出ると、直ぐ前の小道に黒いロールスロイスが止まっていた


「…………」


高そ。


僕は車を横切り、食べ損なったお昼をおにぎりで済まそうと、コンビニへ向かう


「もしかして……美里さん?」


「え?」


後ろから呼ばれ、僕は思わず振り返る。するとそこに居たのは


「あ……」


昨年のリュミエール、法条 綾菜さん。その人だった


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