お嬢様の休日 6
「………………ふぅ」
文庫本の最終ページを、ゆっくり時間を掛けて読み、静かに本と目を閉じる。この瞬間が一番好き
《次は~清秋、終点、清秋~》
「ん~~」
身体を軽く伸ばして、立ち上がる
ちょうど良いタイミングで、目的地に着いた。
先ずは衣類ショップへ行って、男物に着替えよう!
電車から降りて清秋駅のホームへと出る
清秋駅は、よく清掃された二階建ての綺麗で小さな駅。
この辺の駅では唯一売店があって、僕も下見に来た時に利用した
「……はぁ」
売店で飴を買おうか悩んでいると、後ろから溜息が聞こえた。
振り返ると、さっきのおばあさん。大きくて重そうなリュックサックを背負ったおばあさんは、足を軽く引きずっている
「おばあさん。もし宜しければ一緒に階段を上がりませんか?」
この駅は二階に改札口があるのだけど、エスカレーターやエレベーターが無く、その割には結構階段が長い
「あらぁ、ありがとう、お嬢さん。お言葉に甘えてしまいましょうか」
「はい!」
「それじゃ本当にありがとね、お嬢さん」
「いいえ。お気をつけて」
おばあさんと一緒に駅を出て、バス停の前へと行く。
おばあさんにリュックサックを手渡し、別れの挨拶
「あ、ちょっと待ってもらっても良いかしら?」
「ええ」
僕が頷くと、おばあさんはリュックサックに手を入れ、何かを探し始めた
「こんなのしか無いのだけれど……。良かったら食べて」
「わぁ」
美味しそうなミカンだ、それも三つ
「ありがとう、おばあさん」
「うふふ。こちらこそ優しい気持ちと良い笑顔をありがとう」
おばあさんと別れ、僕は真っ先に駅と連結しているデパートへと入る
このデパートは五階建てで、東京などにあるお店と比べると規模も品揃えも敵わない。
だけれどまだ真新しいこの建物には、毎日人が入れ代わり立ち代わりする都会のデパートとは違い、清潔感と開放感がある……お客さんが少ないって事なんだけどね
僕はエレベーターの横にある案内板を見て、三階へと上がる
三階はメンズ服売り場。フロアには三店舗入っており、僕はカジュアル系の服が置いてあるショップへと入った
「いらっしゃいませ~」
ショップへ入った僕を迎えてくれたのは、栗色のショートカットが良く似合う素敵な笑顔の店員さん
店員さんに微笑みを返して、僕はジーンズが置いてある場所へ行く
「…………う~ん」
僕のウエストサイズは58センチ。ジーンズでは26インチぐらいがちょうど良いのだけれど、置いてあるお店は中々無い
「何かお探しですか?」
「はい。サイズが26インチのジーンズを探しています」
「細っ!? あ、し、失礼しました。申し訳ございませんが、うちではそのサイズの物は……四階にありますショップでしたら置いてあるかもしれません」
「四階ですか……」
四階は女性物のフロアだった気が……
「男物の服が欲しいのです。ジーンズではなくても構いませんので、何かありませんか?」
「そうですね~。彼氏にプレゼントですか?」
「か、彼氏……家族みたいな人です」
間違えてはいないと思う
「家族……判りました、ではこれなどどうでしょう」
そう言って出してくれたのは……
「ジャージ……」
「楽ですよ~寝巻にもなりますし」
「ご、ごめんなさい。余り堅苦しくする必要は無いのですが、外で人と会う事にもなりますので、なるべく失礼にならない物が……」
「なるほど、なるほど。でしたら先月一着だけ入荷した紋付き袴を!」
「あ、ありがとう。でも今日はこちらのTシャツと、このお店にあります一番細いジーンズを下さい」
袴は流石に無理だよ……