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不名誉な二つ名

自分の部屋に戻った僕は、鏡の前でナチュラルメイクを施す


別にしたい訳じゃない。しないと不自然に思われるからしているだけ


そう自分に言い訳するものの、僅か数分で化粧を終わらす事が出来る自分に少しへこんでしまう


化粧を終え、鏡に写る姿は僕が見ても女の子


後はこの嫌そうな顔を微笑みに変えれば、いつもの自然体な僕だ


……にこっ


…………いや違うよ! こっちが不自然なんだよ!!


まだ潜入して一月しか経っていないのに、馴染みつつある僕に頭を抱えて嘆いていると、校舎の鐘が鳴った


「……そろそろいかなくちゃ」


吹き抜けの広いホールと階段


階段の両端にある赤いベンチ。その右側に腕を組んで座っている夕凪の姿があった


「お待たせ夕凪」


「今来た所だよ」


よっと掛け声をかけて立ち上がり、僕の前に来る夕凪


女性にしては高いその身長は、こうして並ぶと僕と殆ど変わらない。いや辛うじて僕の方が高い! 多分、きっと……


「千鶴さんは?」


「お花つみでございます」


「そ、そう」


顔を少し赤くしてしまう僕を、ウリウリと指で突く夕凪


そんな僕達を、登校前の下級生達が遠巻きに眺め、溜息を漏らした


「はぁ……撫子様と紅薔薇の君。……お似合い過ぎますわ」


「私も紅薔薇の君に虐められたい……」


もちろん小声で言う言葉だが、訓練されている僕らにはバッチリ聞こえてしまう


「…………っぷ! あんた下級生から撫子様なんて呼ばれてたんだ!!」


「……君こそ紅薔薇の君だって? 似合ってるね攻撃的な所とかトゲだらけの所とか」


僕達はしばし睨み合う


「どうしたのです? 二人とも」


そんな僕らへ階段の上から声が掛かった


見上げると、淡い朝日を背に階段を降りて来る千鶴さん


「あぁ千鶴様!」


「白百合の君までいらっしゃるなんて……この光景、どのような名画家でも描ききれません」


そんな下級生達の声を聞いていたのか、千鶴さんは皆に軽く微笑む


キャーとロビーに沸き上がる歓声。その中で、何事も無かったかの様に僕らの前へ来た千鶴さん


「それではお二人とも、参りましょう」


そして唖然とする僕らへ、優雅にそう言った


「……はは、やっぱ役者が違うね」


若干呆れぎみの声


「ふふ、そうだね」


自覚はないのだろうけど


「……? どうかしましたか?」


「あ、いえ何でもないですさ、行きましょう!」



寮を出ると、校舎の近くまで続く並木道がある


きちんと手入れされている木々は、強い日差しを優しい木漏れ日に変え、時折風に揺れて香る葉の匂いが心を落ち着かせてくれる


後は鳥の声が聞こえれば最高なんだけど、衛生上動物は寄せ付けない様にしているらしく、鳥どころか虫の姿も余り見掛けない。そっちの方が衛生に悪い気がするんだけどな……



石で出来た白い道を10分程歩き、並木道を抜けると大きな広場に出る


その広場を北側へ行くと、真っ白な校舎があり、南へ行くと校門方へ出る


因みに東は寮、西は校庭や様々なショップ等へと続く


「美里は今日のお昼も食堂ですか?」


「ううん。今日はお弁当を作ってきました」


僕は手持ちのバックをちょっと持ち上げる


「あ、でしたら今日は中庭で食べませんか? 実は育てていたカーネーションが咲いたのです」


「良いですね、是非。夕凪もお弁当なの?」


「あたしは購買。弁当なんてあたしのガラじゃないって」


そうだね、と言いそうになるのを堪えて曖昧に微笑んでみる。この微笑みは女の子の武器だね



それから途中、何人かの生徒に声を掛けられつつ、校舎へと入る


一流のデザイナーがデザインしたと言う、使いづらく開けにくい下駄箱を開けると、パサパサと手紙が舞い落ちてきた


「うわっと」


右隣の夕凪も同じ様な目にあってるみたい


「今日も多いなぁ」


うんざりした様子で夕凪は手紙をかき集め、バックに入れる


「夕凪はモテるからね」


僕は夕凪の五分の一ぐらい


「あたしにラブレター入れて来るのは軽い子多いし、ノリみたいな感じだけど、あんたのは一枚一枚重いでしょ? 思い詰めた女は怖いわよ〜」


「お、脅かさないでよ」


「お二人とも、まだ鍵を使わないのですか?」


下駄箱の鍵を開けて上履きを取り出した千鶴さんが、不思議そうに聞く


「めんどくさい」


「僕は……」


鍵を掛けてしまうと、殆ど密封状態になり、手紙一つ入れる事が出来なくなってしまう


学園内で下級生の子達が、僕ら最上級生に声を掛けたり物を渡したりする事は難しい。特に内気な子にとっては、絶望的だと思う


こうして下駄箱に入れる事だって、きっと最大限の勇気を振り絞っているのだと思うと、鍵をする気には中々ならない


「僕も面倒なんです」


キョトンとする千鶴さんに教室へ行こうと告げ、そして僕らは階段へと向かった

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