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佐久間さん

学院に来て以来、特に目立った動きを見せない事務員。

 その静寂が逆に不気味だと昨夜夕食時に、こっそり夕凪へ相談をした


夕凪は彼女にしては珍しく真面目な顔をし、酢豚からパイナップルを取り除きながら


『明日の朝、あたしの部屋に』


と、一言だけ言った


そして今日。壁時計が十時を指した頃、普段着に着替え、夕凪達の部屋へ向かった


コンコン……コン


二回のノック後、ちょっと溜めたノックをする


「はいよ〜」


相変わらずやる気がなさそうな声


「入りますよ、夕凪」


ドアのノブを廻して、部屋の中に…………


「………………」


「どったの美里?」


「な、な、な、な」


「なんて可愛い夕凪ちゃん」


「何で佐久間さんが此処に居るんですか!?」


夕凪の部屋には、ジャージ姿でベットにねっころがる夕凪と、床で神経衰弱をしているスーツ姿の一見紳士、中身変態の佐久間さんの姿があった


「…………バレちゃったね、佐久間部長」


夕凪が哀しみを含んだ声で言う


「ああ、いつかはこんな日が来るとは思っていたよ。でも信じてくれ! 私は美里を一番に愛している!!」


悲壮。そう言ってもおかしくない魂の叫び


「酷いっ! あたしの事は遊びだったのね!? さめざめ……」


「違う! 違うんだ! 私は二人を愛し」


「何で此処に貴方が居るんですか!!」


三文芝居を無視し、僕は佐久間さんに詰め寄った


「愛故に、愛の為に、愛のままに」


「……なんで、ここに、あなたが、いるのですか?」


三度は聞きませんよ? そんな意志を込め、尋ねる


「そ、そんなに怖い顔をしなくてもいいでは無いか……可愛い顔が台なしだぞっ!」


「怒りますよ? 本気で」


「うむ。実はな、本社から通達があったのだよ」


佐久間さんは急に真面目な表情になり、立ち上がる。夕凪もそうだけど、この変わり身は僕には真似出来そうに無い


「……本社から通達ですか?」


「うむ。これから何が起きようとも、魔女の鉄槌に関わるな。……これが本社の意向だ」


「なっ!? 何ですかそれ!! それって例え向こうが千鶴さんに何かをしたとしても、関わるなって事ですか!?」


「彼等はまだ何もしていないだろ? ま、そう言う事ではあるがね」


「納得出来ません!」


「新城君! 納得も何も君はあくまでも組織の一部品に過ぎない!! 部品である君が組織の指示に疑問を抱くのであればこの任務、外れてもらうぞ!」


そう言って佐久間さんは鋭く冷たい目で僕を見下ろした


「…………判りました」


頷くしかない


「ですが、千鶴さんの命に関わるような危害を加える様なら、僕は僕の意志で彼女を守ります」


「うむ。流石にそのような事態になった場合、全力で守りたまえ。そんな事にはならないと思うがね」


「……はい」


命に関わるような事。それは僕の基準で決める


「ところで美里君」


「はい?」


「水玉パンティを回収したいのだが良いかな?」


「…………はい?」


「いや、別に私個人で楽しむ訳では無いぞ! あのパンティは我が社の科学班が様々な知恵を凝らして作った物でな。通気性や丈夫さ、ゴムの伸縮性に清潔性と様々なテストをパスし、十年履きつづけても大丈夫と言うコンセプトの元、作られた素晴らしいパンティであって」


「捨てましたよ。なんだか気持ち悪いから」


「……す……てた?」


「……何だか面倒な事になりそうだね」


固まってしまった佐久間さんを無視し、夕凪へ話し掛ける


「そうね。でもま、やることは同じでしょ?」


「うん」


千鶴さんを守る。それだけだ


「さてと、そろそろ千鶴も散歩から帰って来るだろうし、ソレ持って帰ってくれない?」


夕凪はベットの上で伸びをし、佐久間さんを指差す


「僕のじゃ無いよ、コレ……と、言うかどうやって入って来たの?」


他者がこの学院の敷地内に入る事すら難しいのに寮の中まで入って来るなんて


「三条院家に頼み込んだそうよ。この寮には食堂に食材を運ぶ業者に化けて入ったみたい。わざわざIDカードまで偽造してね」


流石の夕凪も、肩を落としてため息をついた


「電話で済む話しなのにねぇ……」


「…………粗大ごみに出そうか?」


「生ゴミじゃない? 燃えそうに無いけど」


「…………はぁ」



その後、固まり続ける佐久間さんに夕凪が業を煮やし、僕がお風呂に入ると言った芝居を打ったところ、直ぐに復活し覗きに来た佐久間さん


その佐久間さんを寮から追い出し、僕と夕凪はちょっと遅めの朝食を摂った


「ただいま。……あら美里、来ていたのですね」


「はい。おはようございます、千鶴さん。お邪魔しています」


「ええ、おはよう美里」


ニコッと千鶴さんが笑う


その笑顔を見て、僕も自然と頬が緩む


僕が守るべき物は、この笑顔だ



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