お姉様達のお食事会 4
「……美味しい!」
ラーメンの鍋を食堂へ持って行き、皆に少しづつ配った後、死刑宣告を待つ囚人の様にうなだれていた僕の耳にそんな一言が入った
「本当……なんだか不思議な味ですわ」
「脂が凄くてちょっと躊躇したけど、さっぱりしてるね〜。生姜かな?」
「この麺不思議……パスタでも無いし、お蕎麦でも無いし……」
意外にも、本当に意外なのだけど、評判は悪く無かった
「これがらーめんなのですわね。私、感動しましたわ! お父様にも教えて差し上げなくては」
華怜さんが興奮した様にそう言うと、クラスメートの皆も一様に誰々に教えてあげようと言い始めてしまった
「…………ゆ、夕凪?」
「…………あたし、しーらない」
そう言って夕凪は、まだ残っているレストランの料理を食べる為、僕の元から離れて行く
「ず、ずるいよ〜」
このままじゃいけない。何とか誤解を解かなくちゃ……
「……美里」
試行錯誤している僕に、ちょっと疲れ顔の千鶴さんが声を掛けてきた
「は、はい?」
騙された事を怒ってる?
「ありがとう美里」
「え?」
「らーめん、とても美味しかったです。……きっと、らーめんを用意する為に大変な苦労をしたのですね。私が食べたいと言ったばかりに……ごめんなさい」
そう言って千鶴さんは頭を下げた
「そ、そんな……違います、違うんです、千鶴さん。本当に謝らないといけないのは僕の方なのです」
僕はあれがラーメンでは無い事、そしてラーメンはどこにでも売っているごく普通の食べ物だと言う事を説明した
「ですから千鶴さん。謝るのは僕で……」
くすっ
千鶴さんから視線を逸らしていた僕の耳に、微かな笑い声が届く
「千鶴さん?」
「ありがとう美里」
そして満面の笑み
「あんなに美味しかったのは、私を気遣う美里の暖かい気持ちが入っていたからなのですね」
「千鶴さん……」
「今度一緒にらーめんを食べましょう?」
「…………はい!」
その後、僕は皆にラーメンの説明をする。
怒られるのを覚悟したけれど、皆笑って許してくれた
そして三日後――
「…………」
「…………」
お昼休み。僕と夕凪は、学院の敷地内にあるショッピングモールの奥に出来た新たな建物を、口を開けて見上げていた
「………………美里」
「…………何?」
「あたしこの学校、嫌」
「…………そうだね」
流石に僕も少しそう思ってしまう
「美里、夕凪、お待たせしました!」
此処に来る途中、下級生達に捕まってしまった千鶴さんが、先に来た僕らの元へ追い付いた
「楽しみです!」
いつになく弾んでいる千鶴さんに、僕らも嬉しくなるのだけど……
「まさか作るとはねぇ」
夕凪はラーメンと書かれた二階建ての立派な建物を見て、ため息をつく
「…………凄いよね、お嬢様って」
「ほら、早く入りましょう、美里、夕凪!」
「……ふふ。はい! 千鶴さん」
色々気になる所はあるけれど、取り敢えず今は嬉しそうにお店へ入る千鶴さんを追う事が先決だね
「行こう、夕凪!」
「はいよっと。……こうしてブッチャー学院の歴史の中にラーメンの文字が刻まれたのでした、っと。あ〜あたしビールと餃子〜」