お姉様達のお食事会 2
ざわざわ、ざわざわ
「な、何があるのかしら?」
「最上級生方の中でも、最も高貴な方々が集まるAクラスの皆様が食堂に……ああ! 私、メイク直してこなくちゃ!!」
第二寮食堂。通常三十人が楽に入る事が出来るこの食堂は今や、きらびやかな衣装を纏う麗人達で埋め尽くされていた
「立食パーティなんて久しぶりですわ。いかがかしら、このブラックドレス。春のお休みにお父様とイギリスへ行きました時、デザイナーに作ってもらいましたの」
「膝丈が大胆ね。でも、よくお似合いよ華怜」
「ありがとう、悠紀さんのドレスも素敵ですわ。……それにしても、らーめん。どのような食べ物なのかしら」
「私、お料理に詳しい友人に聞きましたの。何でも中国に棲む、竜の髭を……」
想像と期待に胸を膨らます女の子達。それを僕らはポカンと見ていた
「……夕凪」
「……なによ」
「僕らもドレス着てくれば良かったかな……」
僕は、サマーセーターにジーンズ。夕凪にいたっては何の柄もない普通のジャージだ
「……あたし、この学校ヤダ」
「…………」
否定できない
「ち、千鶴様よ!!」
「ああ、美しい……」
「……私、もう駄目」
食堂の入り口付近で、食堂内を覗き込んでいた下級生達が急に歓声をあげた。
そして下級生達は左右に素早く分かれ、道を作る
「ありがとう、皆さん」
優しく響く声。だけれど、その声の主は優雅に、美しく、威厳に満ちていて……
「……あれはもう女王ね」
「……ラーメンだよね、食べるの」
白のシルク・ジョーゼットのロングドレスに身を包み、右の耳上で髪を一つにまとめて、前に下ろしている千鶴さん。
細いウェストに、胸の形が判ってしまう程開いた、大胆な胸元が僕の視線を困らせる
その千鶴さんは、ぽかんとしている僕らの前へ来て微笑んだ
「本日はお食事会へのお誘い、ありがとうございます」
「はぁ。ど、いたしまして」
夕凪は未だにぽかんとしている
「あの、それで恥ずかしいのですが、私、らーめんと言う食べ物の事を知らなくて……。
お食事中、無作法になってしまいますが、食べ方やマナーを教えて下さいね、夕凪、美里」
ニコッと楽しそうに笑う千鶴さんに、僕は何だか嬉しくなった
……なったけれど!
「ゆ、夕凪、ど、どうしよう!」
千鶴さんの期待が大き過ぎて、今更只のカップラーメンを、はいどうぞなんて出せる雰囲気では無くなっている
「あ、あたしに聞かないでくれる? 元はと言えばあんたが!」
「どうかしましたか? 二人とも」
ひそひそ話をする僕らに千鶴さんは首を傾げ、不思議そうに尋ねた
「い、いえ、何でも! ほ、ほら夕凪! ラーメンの準備を!!」
「じ、準備ったってポットを持って来るだけで……」
「千鶴さん!」
「は、はい!」
「れ、レストランから色々な食事や飲み物を頼みましたから、取り敢えず皆さんでそれを食べていて下さい!」
「で、ですが、らーめ」
「ラーメンはその貴重さから今は少量しか手元に無いのです! お一人一口あるか無いかなので、とても足りません! ですから!!」
「は、はい、判りました。では軽く食事をしておきます」
僕の必死の説得が通じ、千鶴さんはコクンと頷く
「……目、血走ってたわよ美里。恐ろしい子っ!」
そう言って夕凪が目を白くしたの同時に、レストランから食事や飲み物が幾つも運ばれて来た
「皆さん! メインデッシュであるラーメンの到着が遅れています! 今急いで準備していますので、まずはこの学院が誇る三ツ星レストラン、ジュエンダの料理をお楽しみ下さい!!」
「み、美里ちゃん?」
「行くよ夕凪!」
僕の顔を目を丸くして見ている夕凪へ、噛み付く様に言う
「へ? ど、何処に?」
「君の部屋に!」
「あら大胆」
「早く!」
「り、了解!!」
夕凪は慌てて食堂を飛び出し、自分の部屋へと向かった。僕も行かないと
「それでは千鶴さん、すみませんが後を宜しくお願いします」
「は、はい。……あ、あの私も何かお手伝いを」
「ありがとう千鶴さん。でも今はお食事を楽しんで下さいね~」
そう言いながら、僕もまた夕凪を追って賑やかな食堂を出たのだった