リュミエール
僕の名は新城 美里
思わず両親を殴ってしまいたくなる名前だが、立派な男である
だけど、その名前が恥ずかしくないぐらい僕は女顔でもある
成長はこれから伸びるんでしょ? てな事言われつつ途中で止まってしまい、声変わりもしたのかしてないのか
自慢じゃないけど化粧等をしてちょっと可愛い服を着て町を歩けば、一日一回はナンパされる自信があるよ
自慢すんなって? ……自慢に聞こえる? 代われるものなら代わってあげたいよ、いや本当
「おはようございます、お姉様」
「はい、おはよう」
……え? 今の会話? ああ気にしないで。どうせすぐに分かるから
まぁとにかくそんな感じの僕なんだけど、こう見えても成人だったりする
そして、実は国家に認定された特殊SPだったりもするんだ。
任務中は銃の携帯も許されているんだよ? 今持っているのはベレッタPx4って銃なんだけど、どうでもいいか
とにかくそんな感じの僕だけど、少しは理解して貰っただろうか?
理解して貰ったと勝手に判断して、言わせて貰らいます
これは趣味じゃない、仕事です!
「今年のリュミエールも綾菜様で決まりね」
「あ、でも美里お姉様も下級生を中心に凄い人気よ」
「それに夕凪様! あの方の凛々しさは他のお姉様方を圧倒しています」
聖ブッチャー女学院の第二寮
食堂で女性徒達が話しているのは今年の文化祭で選ばれるミスブッチャー学院の事だ
毎年全学年から一人だけ選ばれるミスは、女生徒達の憧れのであり、光である
故に選ばれた者はリュミエールと呼ばれ、目指すべき模範生として皆に尊敬されるのだ
「あ〜迷います! オプスキュリテはあの方一択なのですが……」
オプスキュリテは光の逆
意地悪な生徒や嫌われ者に与えられる不名誉な称号だ
「あの方ねぇ……妊娠されたって本当なのかしら?」
「お腹の子を殺したって聞いたけど……酷いわよね」
「………………コホン」
食堂の扉前、僕はコホンとわざとらしい咳をする
「あ! み、美里様!?」
「え!? お、お姉様!」
僕の姿を見て驚く三人の下級生達
僕は食後のお茶を飲んでいたその三人に、ゆっくり近付き笑顔を見せる
「おはよう、皆さん」
「お、おはようございます!」
椅子から立ち上がろうとする下級生達を首を振って抑え、今度はちょっと厳しい顔をした
「貴女達のお話、少し耳に入ってしまったのですけれど……駄目ですよ、憶測や噂話で人を悪く言うのは」
「ご、ごめんなさい」
「わ、私……あ、あの」
「あ、わ、私が初めに言いました。で、ですから罰は私が……」
「そうですね、それなら」
僕は脅えてしまった女の子のおでこに軽くデコピンをする
「はい、終わりです。もう悪口は駄目ですよ?」
「は、はい!」
十分反省したと思う下級生達とお茶を楽しみ、朝のチャイムが鳴る前に別れる
教室へ行く前に、僕が守らなくてはならないあの子の様子を見に行こう
食堂を出て、ホールの階段を上がる
僕の部屋は二階の左側、1番奥。あの子の部屋は隣
僕はあの子の部屋の前に行き、コンコンとノックする
「はいよ、美里だろ? 入って来なよ!」
多分この学院で一番がらの悪い人の大声
「そう? じゃあ失礼するね」
ドアを開けると、八畳程ある部屋の真ん中で裸にバスタオルを巻いた夕凪の姿
「ゆ、夕凪!? なんて格好をしてるの!!」
「風呂上がりだから仕方ないんでない? あ、千鶴は今居ないわよ」
「居ないって……君ねぇ」
夕凪は僕と同じSP
女子高生の振りなんてしているけど、本当は僕より年上
「大丈夫だって! あたしら以外にも数人警護はいるし、何よりこの学院、警備が半端じゃないから」
そう確かに学院の警護は凄い
サーモセンサーにアイリス何十台もの監視カメラ。この学院へ外から入るのは相当難しい
そして中から入る事もまた難しい
親の祖父まで徹底的に素性を調べあげられ、有力な誰其の推薦が無ければ試験を受ける事すらままならない
そうこの聖ブッチャー女学院は、大財閥や政治家達の令嬢のみが通える学院であり、通う事は大変なステータスとなる
そして社交デビュー前の娘達を俗世から切り離し閉じ込める、檻のような性質も持つ
そんな排出的なこの学院へ僕達が侵入出来たのは、僕達が警護する三条院 千鶴さんのお陰だ
三条院家は誰もが驚く程のお金持ちで……いや本当に驚くよ? 驚き過ぎて思わず笑っちゃうよ?
……ま、とにかくそんな三条院家は凄いお金持ちで、その当主様が千鶴さんを警護する為、なんやかんやとヤバめな黒い力を使って僕達をこの学院へ入れたって訳
「さて着替えるか。美里、コーヒーでも容れて」
夕凪はバスタオルを取ってベットへ投げ捨てる
「ゆ、夕凪! もう!!」
僕は目を逸らし、小さいキッチンへと逃げ込んだ
この部屋は夕凪と千鶴さんの二人部屋。ドアを開けてすぐが夕凪の部屋
その右奥に千鶴さんの部屋がある。後は部屋と部屋の間に洗面所やシャワー室、トイレがある
僕はキッチンのコンロに火を点け、ヤカンを乗せた
「それで千鶴さんは何処へ行ったの?」
コーヒーのカップを用意しつつ聞いてみる
「屋上。気分転換だってさ」
「ふ〜ん」
「窮屈そうな三条院家のお嬢様だもの、たまには誰も居ない場所で風にでも当たりたいんでしょ」
ピーとヤカンが鳴り、僕はカップにお湯を注ぐ
「コーヒー出来たよ。夕凪はもう着替えた?」
「とっくよ」
その言葉を信じて夕凪の部屋へ行くと、夕凪は確かに学院の制服へ着替えていた
「しかしまさか高校生活をまた送る事になるとわね」
僕からコーヒーを受け取った夕凪は、砂糖も何も入っていないそれを一口飲む
「どうせなら男子校の方が楽しめたのにな」
「確かに君なら男子校へも生徒として侵入出来そうだもんね」
「……あのね。このデカチチをどうやって隠せってのさ」
夕凪はとても発達している胸を両手で掴む
「い、いつも僕の容姿の事でからかうからだよ!」
夕凪は短い髪を好み、ボーイッシュな顔立ちをしている為、非常に女らしいその体つきを見なければ男の子としても通じるかも知れない
逆に僕はこういう潜入捜査に使えると、髪を短くする事を上司から禁止されていて、今では腰まで届く長い髪が僕を男から遠ざける
その事を、僕はいっつも夕凪に馬鹿にされるのだ
「だってあんた完全に美少女じゃない。てゆーか、ずっと見てると思わず抱きしめたくなってくる」
コーヒーカップをテーブルへ置き、手をワキワキさせながら迫る夕凪
「ち、ちょっと、何する気さ? や、止めてよ」
「男の部屋に一人で来る方が悪いのよん」
「君は女でしょ!」
じりじりと夕凪に追い詰められ、もうダメかと思ったその時、天の助けがドアを開けて現れた
「おはよう、美里。来ていらっしゃったのですね」
僕を見て優しげに微笑むこの方が、三条院 千鶴さん
僕に負けない長くて美しい黒髪と、僕なんかよりも遥かに女性らしく綺麗な方だ
「おはよう千鶴さん。お邪魔してます」
「美里でしたらいつでも歓迎しますよ」
「ありがとう」
「お〜い千鶴、早く登校の準備した方が良いんでないかい」
「あら、私はもう準備は済ませてありますよ。夕凪、貴女の方こそ髪まだ濡れています」
「あちゃーやば」
慌てて洗面所へ行く夕凪を千鶴さんは、追い掛ける
「手伝います」
「あ〜サンキュー千鶴」
忙しそうな二人の邪魔になる訳にもいかないので、そろそろ退室しよう
「それでは僕は失礼しますね」
「あ、美里。もし良かったら一緒に登校しましょう」
「はい、分かりました。ホールのベンチで待っています」
そう言って僕は部屋を退室した