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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
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1・旅立ちの日




 僕は今、スエート駅で列車を待っている。



 他国から鉄道技術がもたらされて、約30年、この国のあちこちへと線路が通っている。


 この国は大小様々な島から成る群島国家で、中でもミンド島・エート島・ユード島の3島が大きく、主要な島だ。


 これまで船で渡っていた川や海峡には橋を作り、険しい山の急勾配も上れる様な動力を開発し、トンネルを掘り、スイッチバック式を取り入れ……等々。


 もちろん今でも、列車が走っていない島はたくさんある。


 それでも始めは都市内や、近くの都市と都市を結ぶだけだった列車は、技術研究が進み、昔は宿泊を含めて、1ヵ月掛けて歩かなくてはならなかった距離を、丸1日の速さで着ける様にまでなっている。



 ただ列車に乗っているだけで、色々な土地をびゅんびゅんと通り過ぎてしまう旅を、情緒がないとぼやく人もいるけれど、僕はそんな列車での旅行が趣味。


 いつか国内中の路線を制覇するのが夢だ。


「今の時間になって、ようやく寒さが和らぎ始めたな」


 僕は並び立つタッゾに言った。

 ここ最近、朝晩かなり冷え込む様になった。


 僕が今いるスエート駅は、主要3島の中で1番北にあるミンド島の、南部の都市名をそのままの駅名にしている。


 スエートは国内で北に位置しているが、それでも比較的、冬でも暖かいとされている。

 それでも今年は、一気に冬が訪れた様な気がした。

 夏の暑さが長引いて、秋が短かったからだ。


「ですよね、リティさん。エートの方はどうでしょう。ちょっとは違うといいんですけど」


 もちろん今いるミンド島の北へも、鉄道は通っている。

 暑い時には熱い物、寒い時には冷たい物論法で、ミンド島内を一巡りする旅も考えたのだが、結局僕は南のエート島へ行く事に決めた。


 ちなみに今回の旅行計画は、全部僕が立てた。

 どこを何時に出発・到着して、乗り換え時間はどれくらいで……といった具合に。


 そんな時刻表を調べる事も僕は好きなので、計画を立てる事に不満はない。

 だが、タッゾの様に人……つまり今回の場合は僕になるが、任せっ切りなのも、正直どうかと思う。


「ま~リティさんが行くなら、どこでも俺はお供しますけどっ」


 僕が目的地に危険地域を選ぶ事は、絶対にないと分かっているからか?

 いや、それにしたって……と思うのだ。


「お前が誰かの下に付く、など何度聞いても信じられんな。いつでも野に帰っていいんだぞ」

「へ~、いいんですか? 今、ここで、野性化しちゃって」


 一語一語、区切って言われたその言葉に、大いに含まれたその色付けが、どういう意味でタッゾが野性化しようとしているのか、ありありと僕に突きつける。


「目覚めろとは言っていない」

 野性化してみろ……とは、絶対に言わない。


 タッゾは本当に僕が拒否しなければ、所構わずになり兼ねないからだ。

 タッゾとの会話は、方向性が違えど、いつもこんな風な言葉の応酬になってしまう。


 正直、外でしかも列車を待っている、駅のホームでする会話じゃない。


「この話は終いだ」

「は~い」


 残念、とタッゾが呟いたのは、完全に聞こえなかった振りをした。


 そろそろ列車が駅に着く頃のはずだがと、ホームの端へ視線を向けると、9時28分発の特急ストロミール行が入って来た。

 ミンド島とエート島の間に各駅停車はなく、急行か特急でしか行けない。


 ホームに着いた特急は車内点検もなく、すぐに扉を開いたので、タッゾと僕はいそいそと列車に乗り込んだ。





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