第1項
注意
1.一度触れれば戻ってくること能わず。
2.抜け出すこと能わず。
3.忘れること能わず
4.一日十時間以上のログイン能わず。
5.規約を破ること能わず。
以上の事を守り、楽しく快適なプレイをーー
*
[一日目]
【ようこそ、『ラビリンス』へ】
おー。
人類はとうとうこの域まで達したようで、不謹慎かもしれないが、俺はそろそろ死ねるかもしれない。
【引継ぎデータはございますか?】
脳内に直接話しかけてくるのがちとばかし怖い。
頭の中を覗かれてる気分だ。
あ、引き継ぎはございません。
【新規プレイのため、キャラクタークリエイトに移行します】
うぉっ、床からマネキンが生えてきた。
お腹が少したるんでるな。
顔も不貞腐れているような……って、よく見ると俺と同じ顔じゃないか!?
ということはこの体型も?
そういえば、これを起動する前に触診のようなことをした気が。
……そんなっ……じゃあ、この腹肉は考える間もなく、もれなく俺の一部だというのか!?
馬鹿なっ。
横腹をつまんでみる。
引っ張ってみる。
びよ〜ん
うわぁ。
うわぁぁ。
引き締めねば。
【キャラクタークリエイトを終了しますか?】
ちょっと待ってーい。
気が短すぎるぞ謎の声!
まだ俺何もしてませんて。
動揺して現実逃避をすこーし、していただけでして。
まだマネキンさんに一切手をつけておりません。
俺に時間の慈悲をお与え下さいませ。
サクサク終わらせますんで。
さて。
キャラクタークリエイトといいますと、『ラビリンス』で活動する時の自分の仮の姿になる訳なんだが、どういった感じにしようか。
ふむ、性別は男からは変えられないようだ。
縦ロールとか巻いてみたかったんだが、無理っぽいな。
いや、巻けるっちゃ巻けるんだけども、本気で巻くわけじゃない。
俺のハートはそんなに頑丈に作られてるわけないし。
まぁ、試してみる分なら、なんら問題はないか。
ウィンドウを弄って、巫山戯半分で縦ロールを付けてみる。
すると、不貞腐れているマネキンに、どこからか降ってきた縦ロールが被せられる。
…たはは。
乾いた笑いが出るほど似合わんな。
金髪縦ロールとか、まじシュールですわ。
冗談はさておき。
本気でキャラメイクどうしよ。
めっちゃ迷う。
事前に聞いていた以上に迷うな。
サクサク終わらせるって言ったが、下手すればこれで10時間使ってしまいログアウト、なんてことが有り得てしまうかも。
笑い飛ばせないのが嫌なところだ。
うーむ、ランダムなんて夢のない選択は出来ないっつうよりやりたくないし。
むむん。
迷う。
…こうなれば短髪で行くか?
この短さの方が慣れてるし。
なら、折角だから目は切れ長ってやつにしよう。
足は少し長くっと。
決して俺の下半身が短いってわけじゃないんだぞ?
ちょっと理想より足りないだけでさ。
あぁ、でも、ピエロも捨てがたい。
あの真っ赤な鼻がいいんだよな。
それに白塗りのメイクも。
奇抜さがいいんだよなぁー。
あ。
それならアフロもいいじゃないか。
ハゲの心配なんて皆無の皆無。
みんなの視線を独り占め。
虹色のアフロとか。
…あれもいいしこれもいいし。
うがー!
き、ま、ら、ん!!
【キャラクタークリエイトを終了しますか?】
なにか聞こえたけど気のせい。
補聴器必要だって?
うるせー。
こうなると、名前に関連するような容姿にするのが一番なってくるんだろうけど、俺の場合、アレ一択だからなぁ。
うぐぐ、一向に決まらぬ。
悩んでても仕方ない。
…ここはッ…ここはァッ!!
短髪のやつで行こう。
【キャラクタークリエイトを終了しますか?】
うむ、よいぞよいぞ。
俺は腹を括ったのだ。
後悔はしないさ。
【ステータスの設定をして下さい】
割り振りポイントは20ね。
攻撃は普通に攻撃力とみていいのか?
耐久は防御力だな。
ガッチガチに防御を固めても面白そうだ。
敏捷は素早さ?
これは振れば振るほど動きが早くなるよう。
残像を残して攻撃っ、ていうのもかっこいいなぁ!
筋力は……攻撃とどう違うのだろう。
魔力は、魔法を使うためのリソース!
ふぅぅぅ!! テンションあがるぅ!
魔法は神。至高である。
神秘は……ん?
神秘?
何それ!
【神秘は、通常では起こりえない奇跡に遭遇する確率です】
面白そう。
かくして俺のステータスはこうなった。
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名前
称号
SP : 20 → 0
《職業》
《能力》
攻撃 ○○○○○○○○○○ 0
耐久 ○○○○○○○○○○ 0
敏捷 ○○○○○○○○○○ 0
筋力 ○○○○○○○○○○ 0
魔力 ○○○○○○○○○○ 0
神秘 ◆◆○○○○○○○○ 0 → 20
《技能》
《魔法》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんら問題ナッシング。
【職業を設定して下さい】
初期で選べるのは、『剣士』『魔術師』『司祭』『拳闘士』『狩人』の5つの中から。
ならば、俺は『司祭』で。
回復系の魔法をバンバン覚えられるみたいだし、神秘に多少のステータス補正がかかるみたいだし。
それにほら、回復魔法さえあれば怪我してもポーションとか使わなくて済みそうじゃん?
あと、『司祭』って、響きが強そうじゃん?
いかにもラスボスって感じがしてさ。
え?
そんなこと思うの俺だけ?
ははは、辛辣ですな。
【初期スキルを3つ選択してください】
『鑑定』を取るのは王道中の王道として。
他はどれにしようか。
いっぱいありすぎて目移りしてしまう。
全く、いかんな。
『鑑定 lv1』『罠 lv1』『器用 lv1』『交渉 lv1』『挑発 lv1』『速読 lv1』『剣術 lv1』『槍術 lv1』『刀術 lv1』『杖術 lv1』『拳闘術 lv1』『索敵 lv1』『麻痺耐性 lv1』『毒耐性 lv1』……etc
耐性つきのスキルは魅力的だなぁ。
武器スキルをコンプしても面白そうだ。
索敵も欲しいところだし、対人系のスキルも興味がある。
【チュートリアル終了後、今表示されているスキル一覧は一度、リセットされます。しかし、今後の自身の行動により、取得可能なスキルはゼロから増えていきます。選ぶ際は慎重に】
リセットとは勿体無い。
残しておいてくれても良かったのに。
これは謎の声さんの言うとおり、慎重に決めないといけないな。
選択すべきは行動を起こしても取得可能にならなさそうなスキルだ。
どれがいいかなぁ。
下に下にスクロールする。
珍しいスキルとかないかねぇ。
スィスィッと目を通していくと、ある項目で指が止まった。
『錬金術 lv1』
れんきんじゅつ、だと?
それを目にした俺の行動は迅速だった。
【『鑑定 lv1』『錬金術 lv1』『罠 lv1』】
おや、いつの間にかスキルが三つ選択されてるね。
不思議なこともあるもんだ。
小首を傾げて画面を見つめていると、
ぽふん
可愛らしい音を立てて、天井から茶色の小袋が落ちてきた。
これは?
【巾着です】
ん?
巾着?
それだけの説明じゃわからな…あ、例のアイテムボックスの代わりというわけね。
了解了解。
朱色の紐を解いて、中身を確認。
うん、思った通りすっからかん。
つまりは空っぽである。
これから中身が増えていくんだろうけど、すっからかんはなんか寂しい。
【最後に、プレイヤーネームを記入してください】
ほいほいっと。
長年愛用のプレイヤーネームだから、光の速さで記入できますよ。
【……承認。これをもって、チュートリアルが終了させていただきます】
【ようこそ、『ラビリンス』へ。我々は貴方を歓迎します。そしてーー】
【ーーいってらっしゃいませ】