スマホとラジコンヘリ。それより足首。
なななん さまの活動報告(2017/12/6)で出された「触覚(さわる感覚)を使って一場面作ってみましょう」というお題にお寄せしたショートストーリーです。
ギャグとして、地の文をあえて読みにくい仕様にしておりますが、ご容赦ください。
ま、そこまで長くないのでね。
「おい柳川、あんたを召喚だ」
立花さんはスマホの「ホ」、つまり、phone の機能を使って柳川くんを呼び出した。
「どうしたのさ、立花さん」
駆けつけて来た柳川くんは、なんだかヘンテコな洋服を着ている。おしゃれのつもりなのだろうか。
「なんだ、そのエプロン。へったくそなガトーショコラでも作ってたのか」
「エプロンじゃないよ、これ。ソトイキの服だよ」
へったくそなガトーショコラも作れないあんたに言われたくないね、とは柳川くんは言わない。言ったら作ってくれるだろうかと思いつつも、言わない。きっと美味しくない。
「で、なんなの?」
「ああ、そうだった。待たせたな、イケメン」
立花さんがあえて柳川くんの方を向いて言ったため、柳川くんはイケメンというのは自分のことだと勘違いしかけたのだけれど、すぐに後ろの小学校中学年くらいの少年 ―― 柳川くんをはるかに凌駕するイケメンくん ―― が、「待ったぜ、姉ちゃん」と応えたため、柳川くんは少しがっかりして肩を落とした。
立花さんはくっくっと笑うと、
「こいつが、ご自慢のラジコンヘリウムで遊んでいたところ、柳の木の枝に引っかかっちまった。そこで柳川、取るのを手伝ってくれ」
そう言って、出どころのよくわからないドヤ顔を柳川くんに向けるのだけれど、
「ヘリコプターね、ヘリウムじゃなくて」と柳川くんから、「引っかけたの、姉ちゃんな」とイケメンくんから、ダブルのツッコミを受けて、
「うるせえよ」と、理不尽なツッコミを柳川くんのみぞおちをちょっと外した辺りに打ちこむことになった。「ふっ、ミネウチだ」
やってしまってから、痛みにもだえる柳川くんの様子を見て不安に襲われて青ざめる立花さんを安心させようと、柳川くんがわざとらしくふくれてみせたところ、安心して調子にのった立花さんに今度は頭をはたかれた。
「……で、どうやって取るのさ」
「そんなの決まってるだろう、肩車だ」
「カタグルマ?」
柳川くんはラジコンヘリの高さを確認して、「あそこなら、立花さんとイケメンくんの身長を足せば届くんじゃない?」と言ったのだけれど、
「バカ。あんなちっこいのに乗れるわけないだろう」
「え?」
柳川くんはゆっくりと思考を巡らせた。
「立花さんが乗るの?」
「そりゃそうだろ、女なんだから」
これだけ訊くと正論に思われるかもしれないけれど、
「立花さん……、体重を訊くのは失礼だからやめとくけど……、身長で言ったら、僕より 5センチくらい高いよね」
「数学は苦手だ、ボケ」
「体格もあんまり変わらないし」
「あんたほど痩せてないわ、ボケ」
「姉ちゃんの体重は ――」
「イケメンは黙っとけっ」
「ちぇー」
まあとにかく、そういうわけで、柳川くんはやむなく立花さんをカタグルマすることになっのだけれど……
「おい、足首くすぐったい」
「僕だって必死なんだよ、ぴくぴく動くから」
「あんた、人の足首つかんだことないのか。あるだろう、体育で二人組で倒立やったときとか」
「あれはだって、その……、シチュエーションが ――」
「柳川、膝を伸ばせ。届かんじゃないか」
「んなこと言われたって」
「あー、もういい。スマホを貸せ」
「え?」
「スマホで押せば、たぶん動く。……早くっ。……おい柳川っ、どこ触ってんだよ」
「ポケット、どこ?」
「違うっ、あんたのスマホだよ」
「えっ?」
「いいから出せっ。……おい、膝を曲げるなっ……」
柳川くんはなんとか自分のスマホを取りだし、思ったよりも軽かったけれど動くから実際かなり苦労して支えている立花さんの手に渡し、そして立花さんはそれをうまく使ってラジコンヘリを枝の外へと押しだすことに成功した。
「ありがとう、姉ちゃん」
「待たせたな、イケメン」
と、そこでほっとした柳川くんがバランスを崩してしまい、慌てて立花さんの足首を強く握り直した。
「あっ」
驚いた立花さんは、スマホから手を離してしまい、宙を舞うスマホをイケメンくんの操縦が効くようになったラジコンヘリがパコーンと……
その日の夕方、柳川くんは壊れたスマホをショップへ持っていき、データの復元ができないと言われて落ち込んでいた。
「この機種なんか、どうです?」
気の早い店員が、にこやかに話しかけてくる。
そのとき、立花さんはというと……
「やっぱり自分のを使わなくて良かった」
そう呟きながら、柳川くんとのトーク履歴をさかのぼって眺めつつ、ベッドの上をコロコロと転がっていた。
お読みいただきありがとうございました。
で、実はこの作品に登場する 柳川くんと立花さん、以前 たこす さまのところへお寄せした拙作ショートストーリーにも登場していまして、今回のがそのお話の前日談になるのです。
そのお話は、私が たこす さま に差し上げたものとして、たこす さまが投稿しておられます。以下にその投稿作品へのリンクを貼りますので、ご興味あればどうぞお飛びください(サブタイトルに「檸檬 絵郎」と載っている回のみ、私の書いたものです)。