第七話 命の花火
Kに連絡を取り、帝国ホテルまで連れて行ってもらった。
「ほれ、これも持っていけ」
そう言って、黒いケースを渡してきた。中身を確認するとスーツ? のようなものが入っていた。
「さっさとそれに着替えな」
車内で着替え、メールに言われた通りに、従業員など疑われないように屋上についた。
「あれ……? 誰もいない」
そう思っていると、いつの間にか後ろのライトに照らされていた自分の影の隣にもう一つの影が、一瞬ゾクッとし、とっさに距離をとり振り向く。
だが、そこには誰もいなかった。
そう思うと、後ろからナイフを首元に回された。
「もし俺が本当にお前を殺そうとしていたら、お前はもう二回死んでいる。もうお前は元の生活には戻れない。しっかり覚えておくといい」
明らかに電子機器で加工されている声、ナイフが首元から離れた。
少し、ほっとした。
前方に約二メートルほど歩き、振り向く、そこには髑髏仮面をつけている人がいた。
何だか首元が少し小さいローソクで焼かれているように熱い、そっと右手で自分の首の正面から見て少し右側を触れる。
何だか水のような感触が、触った手を見てみると、指先に液体のような光が反射されている。暗くてよく見えない。少し、手をさっきのライトのところへと向ける。赤い液体、すぐにわかった。これは、血だ。
「その傷をずっと覚えていろ。いつか自分が殺される側に付くかもしれないと」
そう言って、振り向き、窓際に歩いていく。
窓の外を見下ろすと、すぐ近くに皇居が見える。
そして皇居を挟んですぐ向こうにある道が、今回のターゲットの乗った車が通る道だ。
「そろそろ時間だ」
そう言って髑髏が後ろの大き目なギターケースからスナイパーライフルを取り出し、目的の道に向けてうつぶせになり、ライフルを構え、スコープを覗き込む。上についているスコープを何回か調整し。
「三百メートルってところか」
今度は智也の持っている端末とそっくりな端末を持ち出し、何かを確認する。
すると今度は銃の角度を微調整し始めた。
「これでいいだろう、お前、こっちに来い」
手を引っ張られ、さっきのあいつと同じような姿勢をとれと指示を出してくる。
「俺を見ないで、スコープの中を覗き込め」
言われた通りにする。
「よし、トリガーの前に人差し指を、よし、少し下のほうを見てみろ」
ずっと待っていると
「黒い車が見えただろ、そいつをスコープで追え」
すると、黒い車が通った。それに合わせてライフルをずらしていく。
車が止まった。
中から二人の警察官とひとり黒に布をかぶせられた人が出てきた。
道の向かい側から、警官がもう二人ターゲットのいる方向に近づいていく
「その布をかぶったやつが今回のターゲットだ、右手は動かさず、左手でスナイパーライフルを二センチ持ち上げろ、そして、すぐ左にある建物の一番右のガラスを狙え」
突然、川のほうから小さい花火が上がり始めた。
「なあ、今俺って、何してるんだ? 」
「掃除……しているだけだ」
何を言っているのか、なんとなくわかってきた。
多分、今トリガーを引いたら、命が一つこの世から消える。
そう考えていると、コンビニでの出来事が脳内によみがえる。
火の中もがきながらも、息をしなくなったあの男の悲鳴が、なぜか聞こえてきた気がした。
怖い、このトリガーを引くのが、目に見えている中心のは窓だ。
だた、たぶん、スコープの右下に映っている人にあたる。
「さあ、トリガーを引け」
指が、うまく動かない、
「深呼吸をしろ、お前が今から撃つのは若い少女の人生を何人も狂わせ、まだ善悪の判断もろくにできていない学生に白い粉を渡してきた。クズだ。おまえが打たないせいで、さらにこの世は穢れていく」
目が少し潤んできた。決心をし、ついに智也はトリガーを引く
爆音を放ち、放たれた銃弾は空中で少しカーブを描き黒い布に見事に命中した。
一瞬何か赤いのが飛び散るのが見た。
何だか吐き気がする。
肩をつかみ、智也を無理やり立ち上がらせ、素早くライフルを入れて、非常階段へと向かう
「つかまりたくなければついてこい」
素早い速度で階段を駆け下りていく。
何も考えられない。
すぐに頭が空っぽのままひたすら階段を駆け下り、いつの間にか一階に、そしてホテルの裏口から出た途端に、黒い車が目の前に停まった。
することはなんとなくわかっていた。
あの黒い車はKのだ。
もう二度以上見てきた。
すぐにあの車の中にかけこんだ。
何も見え考えずに、車の中でボーとしてしまう。
振り向くと、髑髏はすでにどこにもいなかった。
「今日はもう帰って休め……」
Kがそう言って、車を走らせた。
頭の中を近頃の出来事で埋め尽くされ、ほかに何も考えられない
家の前につき、妹が出迎えた。
「お兄ちゃん! どうしたの!? 」
「ごめんね妹ちゃん、智也とスポーツしに行って、はしゃぎすぎて、急に具合が悪くなったんだよ。ゆっくりと今晩は寝かせてあげて」
「兄を送ってくれてありがとうございます~」
「もう~、お兄ちゃん大丈夫~? 普段運動しないのに激しく動くから~」
そう言って、二人が家に入るのを見届けると、Kは車に乗り、どこかへと走り去った。
その日の夜、右手がずっと、震えていた。
後日、テレビの報道では犯人は終身刑面会不可と言う判決が下ったという。
※この小説はフィクションです
帝国ホテル関係者の方々へ、もし権利を侵害するようなことがあれば内容を変えます
読者の方々へ、いつも読んでくださってありがとうございます!
次回の更新は10月05日になります