第五十話 日常を捨て、日常を守る
智也はもう、死んだ。そして、いま、ここにいるのは……
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“あなたに、お願いがあります”
クイーンから渡された手紙の冒頭にはそう書かれていた。すべての監視カメラやセンサー、およびシステムの全責任を担当をしていたのがアリスだった。
白衣を着ていたし、主任研究員の助手をしているとも言っていたから研究員だと思っていたが、実際はその周辺機器を扱う人だった。
もちろん、監視カメラも見ることができたから実験の映像にはすべて見ていた。もちろん、普通なら目をそらしたくなるような映像も、目に入ってしまう。そして、ある日
「怖い、やめて! いや!」
そう叫んでいる少女は両手両足そして首に腹部を金属で固定されていた。高い音をたてながら、高速回転をしている刃物がその細い腕に斬りつき、少女から左手を奪った。
「痛い! 痛い! 痛い痛い痛い! やめて! お願い! もうやめて!」
「おかしいですね~、LKに侵されたからだの神経はもうこの子の脳にはつながっていないはずなんだがね~」
「それは、視覚情報が痛みっという錯覚を脳に起こさせているのだよ。一種の生理現象と思えばいいさ。それよりクイーン、手を、握ってみろ」
「すごいですね!」
「おお~! やはり私の推測は正しかった! どうだ、これぞ人体のリモート操作! こいつらはたとえ体を切り離しても、その切り離した部分は依然何らかの形で脳と繋がっている! これはもはやテレパシーとしか思えない!」
動物を使った実験でかつてウマや犬やウサギにテレパシーと似た何らかの現象が起こっていたという事例があった。
「このLKは今までのどの生き物よりもテレパシーの存在を証明している!」
「しかもそれだけではない! こいつに寄生された生物は取り込んだほかの生物の遺伝子情報から攻撃に特化したものを抽出し、急激に進化させる! こいつを利用すれば退化を始めてしまった人類の肉体を再び進化へと誘うことができる!」
小声:「こんなの、ひどい」
「? 今何か言ったかね? 研究に関係ある意見であれば君にもぜひ意見を伺いたい」
「いえ、私は生物学者ではないので」(こんな実験、早く辞めさせないと)
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それか、今回の所以そして
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「俺が近くにいるだけで明美、いえ、妹にも危険が及ぶ、それならいっそう。三人一緒に死んだことにしましょう」
「いいの? 今までの生活をすべて捨てるって言っているのよ!?」
「いいや、捨てるんじゃない、守るんだよ(俺のいない)日常を」
次回からは少し視点を変えて書いていきます!お楽しみに!
ちなみに14日の予定です