第三十二話 USB
「さすがに校門前で高級車で待たれると少し困るのだが」
「そうなのですか? では、どこで待ち合わせをした方がいいのですか?」
「……」(どのみち高級車は目立つし、かといって有名人? を一人で街中に立たせるのも危ないどうしたらいい)
「トムヤ、トムヤ……」
(どこか人目の付かないところ、どこだ、それとも……)
「ト~ム~ヤ~!」
!?「どうした?」
「トムヤは相変わらずです。何かを考えこむと周りが全然見えない、感じない、聞こえない」
「俺そうだったのか?」
「気付いていなかったんですね」
「そうだったか」(気を付けないと)
「それで、集合場所はどこにすればいいですか?」
(向こうからくるのが問題なら、そうか)「集合はなしだ、場所だけ教えてくれたら俺からそっちに行くよ」
「そう、ですね、わがままの相手してくれてありがとう」
「遠慮しなくていいよ」
「さっ、では行きましょ」
そう言ってローズが車の中に乗り込む、窓側の席に座ったと思ったら、もう少し奥のほうに座った。細くい手で自分の隣の座席をポンポンとたたく
「……」
それを無視して、智也が助手席へ向かおうとすると。
袖を引っ張られ、もう片方の手で自分の体重を支えながら、顔を空気で膨れさせている。
この光景はまずい、誤解どころが、恋愛小説で胸のときめくシチュエーションで確実に鼓動を早くする。これがSODEKUIというやつか。振り返ると大きくわないが、つい目がその動作によって作り出される谷間のほうへと視線を向けてしまう。
!? 殺気!? そう感じ振り向くと、その場にいる男子全員の目が殺気立っていた。
「「「なんであいつばっか、妹よこせ、どこのラノベ主人公だよ」」」
「あ、あはは、はぁ~」
黙って静かにローズの隣の座席に乗り込む。出発して、数分の出来事。
たまたま後ろの席からバックミラーを見ると、運転手がこちらを睨みつけていたように見えた。だが、瞬きをした次の瞬間、運転手がまっすぐと前を見て運転している。
信号で車が止まり、運転手がニコニコした顔でこちらを振り向き、
「ずいぶんと仲がいいんですね」
「え、まあ」
「いつ頃からのお知り合いなんでしょうか?」
「え~と、もう一年以上は知り合ってますね、トムヤ」
「だから、トムヤじゃなくて智也だって、と、も、や」
「はい! トムヤ」
「はぁ~」
「二人はどんな関係?」
「家族です!」
一切迷わずに、ローズは実に楽しそうにそう言いきった。そう、ローズとフンくんと智也、三人の家は今やだれも住んでいないが確実にあの国のあの場所にある。
そんな楽しそうなローズに反して、運転手、ではなくマネージャーは何だかやはり一瞬ものすごく不快な顔をしたように見えた。
「トムヤ?」
「? あ、いや、何でもない」
そして、車がついたのは大きなアリーナ。周りにはすでに人混みができていてキャーキャー叫んでいる音が車内にまで響いてくる。
車が止まり、アリーナの裏口から入ろうとする。先に車から降りるが、周りの声が大きくて耳が痛くなる。その声のボリュームはどこから出てくるんだよ
「? ローズさんじゃないの?」
「高校生?」
「マネージャー?」
「でも、あれ制服よね?」
「あ、ローズさんだ」
車の中から姿を見せたローズは嬉しそうに智也にしがみつき。
「行きましょ!」
そうして、二人で舞台裏へと入って行った。
その中はまさに大忙し
「ちょっと! そこの君! 立ってないでほらこれ!」
そう言って何やら照明器具のようなものを渡された。
「えっ、ちょっ、俺バイトじゃ」
「あれ? 智也?」
振り返るとそこには智也の姿がいなかった。
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「俺何やってんだろう」
この時智也は舞台の上の照明をつけていた。下のほうを見下ろすとかなり高いところにいる。
「どうだ、ここは特等席だぜ」
「え、あ、はい、そのようですね」
そこからは舞台も観客席もすべて見下ろすことができる。リハーサルをしているローズの姿も見える。何だかきょろきょろしてる。丁度ポケットの中に入っていた小さな単語帳を落とす。それに気づき上を見上げるローズに手を振る。
安心したようで、リハーサルに専念した。
やることが終わり、お疲れと言ってコーヒーと給料? を渡され自由行動となった。舞台の裏に行き、やっとローズと合流した。
「舞台まで手伝ってくれてありがとう、トマヤ」
「? マヤになってるぞ? わざとなのか? まあいいや、ライブ、頑張れ。後ろで見てるぞ」
そう言いながら何かをこっそりと渡された。それはUSBだった。それが何なのかはわからなかったが、ライトが点灯すると同時にキラキラとしたものが頭上から舞い降り、音楽と同時にローズが舞台へと上がった。
その姿はまぶしいほどにキラキラしていた。
そんな中智也は渡されたUSBの中身を確認するとそこには……
24日にやっとテスト終わります!