第三十話 波乱の予感
あの赤い夜から数か月がたった。そんな日曜日。数か月にわたってしばらくはmoonlightの話題が絶えなかったが時の流れの中でますます話題性として薄くなっていった。その代わりにもう一人の存在がSNSで話題となっていた。
渋谷を妹の付き添いで歩いているとやはり周りの人の目を少し引いてしまう。そんなことを少しだけ気にしながら歩いていると、とても澄んでいて、それでいてなぜか悲しそうな歌声が電気屋のテレビから流れ出てくる。どこか見覚えのある顔をしていた。
「いいな~ローズ・スミスさんなんだか聞いているだけで泣けてくる歌声してて」
「そう、だな。こういう歌は嫌いじゃない」
「珍しいね、お兄ちゃんがアニソンとかゲームの音楽以外に気に入るなんて」
「俺だってその二つしか聞かないわけじゃないよ」
そんな会話をしながらも曲は耳の中へと流れ込んでくる。二人の少年と一人の少女のひと夏の思い出が美しく、そして悲しく歌詞につづられている。そんな歌を歌っている少女はほんの数か月前に突如アメリカの音楽業界にその姿を現し、その弱々しい体つきとは裏腹に時に力強く、時に悲しく歌を歌いあげる。映像の下のほうに何か文字が流れ始めた。
《ローズ・スミス一か月後に日本ライブ決定!》
っというメッセージが三回ほど繰り返して流れてきた。
「おー! お兄ちゃん! 日本ライブ! 日本ライブだって!」
「行きたいのか?」
「うん! すごくいきたい! でも、倍率絶対高いよ、ううう。せめてどこかでバッタリ会わないかな~」
「そうだな~会えるといいな」(チケット、買えたら買ってやるか)
その次の日の月曜日、いつものように妹と一緒に登校していくが二人の密着度は数年前よりは密着度が上がっている気がする。もちろんそんなのはもはやこの学校の生徒にとっては既に日常風景の一部となっている。だがいつもとは違う光景が校門の前に黒い高級車が止まっていてその前にはつい昨日テレビで見た人がたっていた。それを見た明美はすぐに智也の腕を放し徐々にでき始めている人混みの中へと突入していった。
そんな有名人は自分とは縁のないと智也は思い、自分の“日常”に戻ることにし、いつものように校門を通っていく。だが、現実は智也の予想とは少し違った。
「トムヤ!」
自分が呼ばれたとは思わず建物の方向へとひたすら歩いていく。そのすぐ後ろを走ってくる足音が聞こえやがて自分に向かってくるとわかり、後ろを振り向くと。
ほのかにかおる香水の香りと同時に今話題の歌姫が自分に抱き着いてきていた。
「「「ええええええええええええ!!!」」」
「!? え~と、どっ、どなたでしょうか?」
英語:「忘れたのですか? 私です!」
「……」
ま近で目を見つめられ若い人の中で人気な歌姫じゃないとしても女の子にこんなことをされると心拍数が上がって目をそらしたくなるものだ。だが、その智也の顔に手をやさしく添えて。見つめなおさせる。そしてやっと智也は気づく。
「ホア…?」
それを聞いたホアは思わず涙を流し、思いっきり智也に抱き着いた。
女子たちの悲鳴と男どもの声が聞こえてくる。
目の前にいるホアは前に見た時とはかなり変わっていて、やはり女の子は化粧と衣装で人がだいぶ変わるのだとわかった。あとは多分元がよかったんだろう。見違えるほど美人だ。
英語:「トムヤまだいっぱい話したいことがあるから、あさって迎えに来る」
そう言い残し高級車に乗り込んでいった。こっちを睨んできているのはマネージャーだろうか、いや、ほかの男子たちの睨み方とは明らかに違う睨み方をしている男が。車のすぐそばに立っていた。
次回は多分6日に投稿します。