第二十九話 《燃える恋》 終
次回は1月2日に投稿する予定です。
「愛? なんで、こんなところに」
「父さん! 父さん!」
このまま愛をここに置いておくのは危ない、そう思い愛の手首をつかむ、だが
「いや! 放して!」
後ろの階段の壁から火が燃え広がってきて、たびたび爆風が二階の部屋に火とともに伝わってくる。少し、強引だと思ったが無理やりにでも安全なところへと連れていこうとした智也、だが
「放して! この人殺し!」
この一言が、まるで杭のように心臓にずしっと撃ち込まれる。智也の動きは止まりゆっくりと振り向き、愛のほうを見る。その恨みに満ちた目に智也のすでに凍り付いていたはずの心が痛いほどに鼓動を繰り返す。顔にある血管が鼓動と同じタイミングで脈打つ。
周囲は火が燃えていて、床に広がる真っ赤な血に火が映し出される。涙を流し、すでに助からない状態の父を抱きかかえながら、愛はその手で胸から止まらず流れ出てくる血をふさごうとしている。
「確かに! 私のお父さんは、悪い人かもしれない。だけど! たとえ悪い人でも私にとってはただ一人の父親! 残された唯一の家族なの!」
「そいつを殺したのは俺だ、憎むのなら、俺を憎め」
「何を」
ゆっくりと暗視ゴーグルを外す、愛のほうからはまぶしくて顔がよく見えない。だが、
「もし、最後を迎える時はお前が俺のとどめを刺してほしい。そのためにも、生き続けろ」
そう言って、銃を愛の肩と胸の間に向ける。
「ごめん、愛」
「その声は、もしかして、おにいさっ」
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再び暗視ゴーグルをつける、意識を失っている愛を両手で抱きかかえ、料亭の正面玄関へと向かう。そこには見覚えのある刑事がいた。
「止まれ! さもないと!」
周りの警察の忠告を無視しその刑事に向かって歩いていき
「おっ、おい」
愛を託す。
再び燃え盛る料亭の中に向かう。
「おい、待て!」
追って来ようとする刑事さんを消防員の人が引き留める
「危ないですので下がっていてください! ここからは我々の仕事です」
「お前らそれを言うならあいつも止めろ! おいそこの警察! 銃刀法違反だろ! 現行犯逮捕しろ!」
そう指さすが、もうそこに智也の姿はいなかった。
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火は一晩中燃え、日が上るころには鎮火完了していた。すっかりと全焼してしまっている料亭だったが、従業員と店の関係者の一部は消防員に助けられていたり、何者かによって火の燃え広がっていない庭に運び出されていた。焼けた跡からは十数人規模の焼死体と料亭とヤクザの取引が書かれた書類が発見されたという。
いつものように登校するが、朝校門前で、愛の姿はいなかった。
「お兄ちゃん、愛ちゃんの両親が事故で無くなっちゃって、親せきの家に引き取られたんだって」
「そうか、連絡先は持っているだろ」
「それが、電話もSNSも全然つながらなくて」
「そっか、せっかく仲良くなったのにね」(ごめん)
あの日以来、明美と智也の生活から愛という存在が消えた。
それから数か月たったある日、ついに夜を照らす月が白夜月となる日が来た。
新宿の電気屋や街中の巨大スクリーンが一気に電波ジャックにかかり、そこには暗い部屋に三人の姿が映った。背後からライトを照らしていることから顔はほぼ見えない。
「皆さんの時間を少しお借りして、発表いたします。先日ヤクザどもの会合場所をつぶしたのは我々moonlightである。これよりわれら世界中の反社会的勢力、ヤクザ、ギャング、黒社会に対して宣戦布告する。見ている諸君、勘違いしないでほしい。我々はみすみす君たちを見逃す警察程やさしくはない」
画面は切り替わり、そこはどこかのビルの屋上だろうか。大きな十字架がありそこに向けてライトが照らされる。そこに縛られているだれか。よく見るとあの日ブラックリストに乗っていたヤクザのボス。そして、衝撃的な映像が巨大スクリーンになられた。まるでかつてのジャンヌダルクのように縛られたまま火刑に処される姿が無規制ノンストップで火の中無力に暴れる男の姿を全く動かなくなるまで流れた。そして、再び、あの三人の画面に変わり、
「この日本、東京の新宿から、世界の改革を始める!」
そう言い、モニターはいつものくだらない昼の番組に変わった。
いまだに謎だった。あの日の地域的停電、料亭の爆破事故の原因、そのすべてを明かされ警察所内では大忙し、テレビでもすぐに速報として入った。ネット上では
“リアルデスノート?”
“moonlightとか中二くせ”
“やれやれ! ゴミ掃除の始まりだ!”
“今のCGでしょ!”
“なんかの番宣?”
ほんの一時間もたたない間に噂はたちまち全国までに広がった。