第三話 初めて犯した罪
兄妹二人で仲良くファミレスでごはんを食べ、会計を済ませた時点で、財布の中から4210円が消えた。
「ハァ、どこ行く? 」
兄妹だからもちろん付き合いが長い、買い物と言って実質ほぼ付き合いたての恋人によくあるデートコース。
買い物は一番最後にするのがもはやお決まりだった。
「ご飯も食べたし、次は映画に行こ! ずっと見たかったのがあるの! 一緒に見に行こうよ~」
「もう高校生なんだし、兄妹で映画館は……」
そんな兄の話も聞かずに、妹がすでに映画館へ向かって歩き始めた。
駅近くのファミレスから歩いてわずか10分。
「とうちゃ~く! 」
「ハァ、まぁ、いっか」
そう言いながらも智也は映画館の現在上映中のリストに目を通す。
その間に妹のほうはすでにチケットカウンターへ、そして満面の笑みでこちらへと向かってくる、その手にはチケットが二枚。
一枚をこちらに渡してくる。
手に持ったチケットに目を通す。
“許されざる恋、湖で結ばれる二人の赤い糸”
「……これは、絶対まずい! おい! 兄弟でこの映画はないぞ! さすがにまずい!」
「え~、だめ? 」
首を少し左に傾げ、上目遣いで見てくる、妹じゃなかったら確実に惚れてた。
というより、妹に対してドキドキしてしまった。
チラッ、チラッ、妹の買った映画の上にアクション映画でタイトルが
“ミッション・アンネイブル”
アメリカの有名な俳優が主役のアクション映画らしい、原作が日本のゲーム。
そんな兄の行動を、妹は映画を楽しみにしながらも兄の様子を目に収めていた。
「……」
「……」
(鼻をすする音)
「お兄ちゃん、泣いたでしょ」
「泣いてねえよ」
そう言いながらも違う方向を向く、内容はかなり良かった。
恋に落ちてしまった兄妹が誰にも認められず、二人で駆け落ちをし、最後は湖の中で手をつなぎ幕を閉じた。
「泣いてない……でも、いい映画だった。それは認める」
「じゃ、次はこれを見よ 」
そう言って後ろに隠し持っていた“ミッション・アンネイブル”の鑑賞券を智也の目の前に、
「見たかったんでしょ」
「……」
何も言わずにそっとチケットを受け取る。
アクションはすごくカッコよかった。
特に右手に日本刀、を使い飛んでくる銃弾を切りつつ、走りながら接近し、もう片方に持っている拳銃を相手に向かって的確にうつ。
もうすでに午後の5時、買い物を済ませ家に向かう、五時と言ってもすでに少しおなかがすいてきてしまった。
妹とともにコンビニに寄る。
「じゃ、私は外で待っておくね。特に買いたいものないし」
「おう、すぐに出てくるよ」
そう言ってコンビニに入る
(コンビニの入店音)
「ありがとうございました~、またお越しください」
コンビニから出た。
「明美~! どこだ~! 」
コンビニと隣の建物の間から物音がした。
嫌な予感がする。すぐに駆け寄り、覗き込むと三人組の男が妹の口を手でふさぎながら服を脱がそうとしている。
「おい! 静かにしてろ! 暴れるな! 痛くしないからよ~」
すさまじくクズい顔でそう語りかけ。
「おいおい、速くしろよ、お前が終わった後俺だって味わいたいんだよ! 」
「おい、さすがにまずいんじゃないか? 」
すさまじく冷たく、そして怒りに満ちた声で
「おい、てめーら、うちの妹からその汚い手を放せ!」
怒りはピークに、顔に血が上る。
全力で三人に向けて走っていき、明美の口をふさいでいる奴の顔面に、爪が自分の掌に食い込むほど握ったこぶしを思いっきりぶつける。
そのままそいつは倒れこんだ、
「てめー何しやがる」
「……」
答えもせずに残りの二人にも殴り掛かる、
ひとりはおなかを殴り悶絶し横たわる、もう一人はずうたいがでかく、パンチ一発じゃびくともしなかった。
反撃をおなかにくらい、我慢し、おなかに抱き着き、走り始める。
その間ずっと背中をなぐり続けられた。だが、それでも走るのをやめず、後ろの配管に思い切りぶつけた。
配管から白いガスのようなものが漏れた、背中が痛く手まっすぐ立てない、
「お兄ちゃん、逃げよ」
そう言って妹が手を引っ張ってきて、二人で逃げだす。
「おい、待てやごら! 」
お腹を殴り、悶絶していた奴が起き上がり、ナイフを持ち出しこちらへと向ける。
そして走ってくる、智也はおびえながらも、ナイフで切られるより先に、本体か、ナイフをければいいと思い、立ち向かい、思いっきり蹴る。
クズ男のおなかにあたり、それと同時に自分の太ももにもナイフで浅く切られた。
クズ男は仲間たちが倒れているところまで倒れこみ、おなかを抑える。
それを見ていた智也たちはすぐに現場から逃げ去ろうとする。
二人が振り向いたとたんに、たばこのようなものがコンビニのほうから投げられてきた。
それは、智也の目の前を飛び、三人のいる方向へと着地した。
突如! 大きな爆発が二人の背後から起こった。まさしくあの三人のいた方向だ。
その中の一人が、火の中立ち上がり、全身を日がまとわりついている
「たすけ!!て!!! いや! あつい!! 死にたくない!! 」
そんな悲鳴を上げていたのに、すぐに声が聞こえなくなり、倒れこんだ。
命が一つ、目の前で消えた。
「俺じゃない、俺が殺したんじゃない! お前らだ! お前らが殺したんだ! さっきもめてたみたいだしな! 」
そう言って一人の男が逃げていく、おそらくはたばこを投げた張本人であろう。
たとえどうであれ、智也は初めて、人を殺した。
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