第二十五話 《燃える恋》11
銀さんの過去を知り、この組織についても、もっと知った気がした智也。計画実行日は確実に近づいてきている。
「そうだね、今日はちょっと違う練習をしよう」
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「って、いつもの道場じゃないですか」
「そこの扉を閉めてみなよ」
「? 特に何も変わったところは」
「君には感も少し足りないようやな、目を閉じて呼吸を少し我慢してみ」
言われるがままやってみる。そして気付く、この部屋では音が一切ない。まるで、真っ赤な異次元にいるようだ。そう思った時に、首元に冷たい感触が。ゆっくりと目を開けてみると、銀さんが背後からナイフで智也の首に当てていた。
「はい、これで君は一回死んだ」
「今のは一体、わずかに空気がスーッと少し通ったのを感じて、ほんの少し服が掠れたような小さな音しかさっきまで聞こえてなかったのに」
「まあ、音は練習すればここまでなら下げられる。もっと下げられるんやけどそれじゃ速さが足りずに気づかれてしまう。今日一日、君にはなるべく音をたてずに生活してもらうもしできてたら、明日からは次のメニューに入る。できひんかったら明日もこの訓練や、それじゃ右手にこれを付けてもらう、もし一定以上音が出たら、この腕輪から電流が流れる、しかもその電流は音がある限りずっと流れる。その電流に耐えて音を出さんように頑張れば止まるから。今日一日この部屋にいてもらう、ご飯を食べる時はその腕輪を止めるから安心しい。はい、これ」
そう言って渡されたのはまさかの筋トレメニュー
「それも全部今日中にすること、もちろん音をたてずに、フッ、なんて音立てても電流流れるから気をつきな」
そして、扉が閉まり、腕輪の電源が作動した。音を少ししか出さない? そんなの余裕じゃ、と思っていたが、歩き始めた最初の一歩で腕がビリっと、そして、びっくりして声を出してしまい二度目の電流。
(これは、思っていたよりも過酷だ)
「!? ふう」
少しだけ、つまづいてしまい、倒れそうになったところでまず手を地面につかせ、ゆっくりとひじを曲げたことで着地の際にあまり音を出さなかった。歩くときに膝をまっすぐ伸ばして歩くんじゃなくて少し曲げた状態で踵以外から着地させ地面から離れる時も曲げた状態でもう片方の足に重心をかければ音を抑え込むことができるようだ。筋トレしていると、腕輪の電源が急にオフになった。
「ご飯やで~、さすがに疲れたやろ」
「思ってたより、楽しい、なるべく音をたてないで動くのは難しいですね」
「そりゃーそうや、今までやったこともないやろ」
智也は立ち上がりご飯を受け取ろうとするが、半分立ち上がった途端にまるで釣り糸の切れた操り人形のように膝から倒れてしまった。
「あれ? 足が」
「まあ、みんな最初はそうなるから、ほなここに置いとくわ。食べ終わったら外の台の上に置いといて~」
そして、トレーニング再開し、途中で何度か休憩をはさみあっという間に夜になった。
「おっと、大丈夫かいな。しゃーないから部屋までお姫様抱っこで運んだろうか」
冗談だとわかっていて、楽しそうに話している銀さん。一瞬だけ絵面を想像してしまいなんとも嫌な絵だ。一部のクラスメートの女子が喜びそうだ。
「いえ、遠慮します。少しだけ、肩を貸していただければ」
その次の日は全身が筋肉痛でうまく動けない。それを見て、
「今日は休みやな、ってあれ? この部屋なんもないまんまやん、勝手に改造していいって言うたのに」
「なんか、やはりほかの人の家ですし」
「そんなん気にせんでええのに、あ! ちょいまっとき」
そう言って、出かけていった。
それから二時間後
「よし! 買ってきたで」
そう言って、袋からゲームのソフトを大量に取り出してきた。それを見て疲れ切っていたはずの智也の目はすっかり元気になっていた。
「おーーー!! これは最新の! おー!! あれ? でも、本体がないと」
すると、外からトラックの音が聞こえ
「お届け物でーす」
次々と部屋の中へと運ばれてくる最新のゲーム機の数々、中にはVRのヘッドディスプレイまで。
「これは! あ、あの、いくらかかったんでしょうか」
「あ~気にせんでええって、気が向いたら俺が遊ぶさかい。ほなさっそく」
そして、二人の戦いは白熱し
「うお~! 負けへんぞ!」
「ゲームでは負けません!!」
なぜだ、始めてゲームをするはずの銀さん
「61勝でワイの勝ちやな!」
「なぜだ……初めてゲームをする人に負けるなんて」
二人は互いに負けず嫌いで30種類のゲームで競い合い、間でしっかりご飯も食べ目も休め。そんな一日が過ぎていった。ちなみに、ガンゲーや鋼拳、シティファイターなどのゲームでは銀さんの圧勝。これは、経験の差なのか。
そして、午前午後は訓練し、夜は二人でゲームを遊ぶのが二人の短い家族を感じることのできた二週間だった。