第二十二話 《燃える恋》8
顔に水をかけられ、鼻の中に水が入ったことでむせて、目を覚まし、意識が飛ぶ寸前の光景がフラッシュバックし、ぱっっと起き上がる。すぐ隣に闇が立っていた。
「もし私が殺し屋ならあなたはもう死んでる」
「そう……だな」
「立て、再開する」
闇との近接格闘の訓練で、智也よりも身長の少し小さい闇に智也は何度も倒され、わずかに三時間で、二度気絶をし、そのたびに水をかけられて目を覚ます。
「今日はここまで」
「……まだだ、まだ俺はお前に一発も当てていない」
「まだ一週間ある、最終日までに私が少し手こずるくらいになって」
そんな日が三日過ぎ
「今日は実戦訓練、夜の10時までは自由行動、ただしこの家から出ないこと」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この服を着て」
そう言って渡された服は真っ黒の映画のスパイが来ていそうな服だった。それは、あの夜Fが着ていた暗殺用の服の男バージョンのようなものだった。嫌な予感がする。
下に停めてあるバイクに闇が跨る。
「お、おい、お前未成年じゃ」
「バイクの免許なら16からとれる」
「免許、持ってるのか」
「そんなの当たり前」
ヘルメットを投げてきて、闇は自分の分のヘルメットをかぶる。そして、ハンドルに手を置き、そのまま静止……
「乗って」
「あっ、あぁ」
後ろに座る。
「しっかり私につかまって」
安全運転でほっとした。あの時のチョメチョメDのような運転じゃなくてよかった。しかし、あまり年の変わらない女性のバイクの後ろに座る、なんとも情けない光景が頭の中でイメージが浮かび上がる。
「……ハァ」
「見ろよあいつ女の後ろ乗ってやがるぜ、だっせー、ハハハハ!」
「大ちゃん~、言わないであげなよ~かわいそうじゃん」
信号が変わり、走りだす。あの二人の乗った車は右へと回り、こちらは直進していった。
「事故ればいいのに」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すぐに駅前についた。
「しばらくここで張り込みをする」
ここ数か月女子高生の誘拐事件が増えている、警察も失踪事件として調査を進めているが、犯人につながる証拠は唯一監視カメラにとられた一枚の黒い車に女性が引き込まれる写真のみ。
「こんな時間なのにまだ駅前にはこんなに人がいるんだな」
中には高校生の姿もちらほら、そんな中ひとり元気のなさそうな女子が駅の改札を通りバス停を通り越し、住宅街へと向かう。そんな姿を見ていたら。
「ついていくよ」
その後ろをこっそりと尾行していく、次第に人が見えなくなり、この道を歩いているのは前を歩いているあの女子高生と智也と闇、そしてもう一人いかにも仕事帰りのおっさんが。
しばらく後ろをついていくが、おっさんが鈴木と書かれた家の前で止まり、ため息一つしそして家にの中に入って行った。
「そろそろかな」
そう言って、暗い路地に入り込む。
「こんなところで何をすっ」
口を手でふさがれた。
「シー、黙って」
そのあと車が一台近づいてきた。路地のすぐ近くを通ろうとした時に、闇が車に向けて何かを投げつけた。しばらく車を目で追う、するとあの車がさっきの女子高生のそばで止まり、二人の男が急に降りてきて何か白い布のようなものを女子高生にかぶせと、その女子高生が急にまるで糸の切れた操り人形のように崩れた。そのまま二人の男はその女子を車に乗せどこかへと向かっていく。
「ビンゴ、さっ、駅に戻るよ」
「何言ってるんだよ! 早く助けないと」
「落ち着いて、バイクであとを追う、発信器を付けた」
そう言ってあの端末を取り出しこちらに見せてくる。
「あなたの端末にも情報が行ってる」
自分の端末を取り出し、開けてみると、地図に赤い点が点滅しながら移動している。どうやらこれがあの車のようだ。焦っている智也とは違い、何か考えながらバイクへと向かう闇。そして、出発し、あの車の後を追う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この倉庫か」
ついたのは海辺にある倉庫、そこは海辺にある倉庫だった。
「どうすればいい」
すると、闇が何も言わずに倉庫の中に入って行く。そのには、現在進行形で意識のない女子高生を、蹂躙している。
「智也、思うがまま動くといい」
それを聞いた瞬間、黒い影が、壁の影の中から飛び出し
「貴様ら~!! 今すぐその子から離れろ!!」
「? なんだ~? お前、あ、そうかお前も交じりたいのか! 順番待ってくれよその前にこいつらが相手してやるよ」
二人の男が、釘バットを持ったモヒカンとくぎの付いた手袋をつけた丸坊主がこっちに向かって歩いてくる。足が少し、震えてしまう。そして、ついに始まる実戦。
バットが思いっきり振り下ろされる。だが、見える、避けられる、そして、智也は気づく、自分がもうこいつらよりは強いという事に。バットをよけながら、連続で顔に向けてパンチを繰り出す。それを見ていたもうひとりが殴り掛かってくる。さすがに武器を持った二人を同時に相手するには少しきつい。手袋をつけた男のおなかに智也の全力の一撃が入り、そいつは地面にしゃがみ込み、そして横に倒れて、おなかを抱える。
それを見て油断した智也のおなかに、釘バットが当たった。それを見た闇は駆け出し、その男に向けて回し蹴りを繰り出し、お楽しみの男が立ち上がり、ナイフを取り出し、こちらに向けてくる。
「おっ、お前ら一体何者だ」
闇は何も言わずに、銃をそいつに向ける。最初は頭を狙っていたように見える。
「そっ、それ、おもちゃだよな? 本物じゃないよな」
銃口を少し下に向け、バンッっと打つ、その放たれた銃弾は男の右足のももを貫通した。血と涙を流しながら悶える男。命だけはと許しを請う男にもう一発容赦なく左膝に打ち込む。それを見ていた智也は目をそらしてしまう。
「しっかり見て」
あまりの痛みで失神した男と先ほどの二人を、三人とも背中合わせに座らせ、近くにあった船を縛るための太い縄で縛りつけた。闇に言われ、海辺にあったバケツに海水をくんで持ってくる。それを闇は三人に向けて思いっきりばらまく。そして三人とも意識が戻る。
銃で撃たれた男は泣き叫び、あとの二人に問いかける。
「お前たちのアジトはどこだ」
「そんなの言うわk」
バン、耳の軟骨部分を正確に貫いた、それを見て手袋がすべて吐いた。ほかの倉庫にここ数日間さらってきた女を閉じ込めていることも、そして、全員を解放した後。
「智也、君がやれ」
「やれって何を」
「そこに転がっている生ごみの処理」
その処理がどういう意味なのか、智也はすでに分かっていた。だが
「殺さなくてもいいだろ」
黙って銃を渡してきて、闇の両手だ銃を握っている智也の手を包み込み、モヒカンの骨盤を打ち抜く
「これでもう、助からない。打て、これ以上生きていてもつらいだけ」
ゆっくりと震えながら、銃を頭部へと向ける。
夏の夜、鳴り響く銃声、それとともに、何かが壊れた。
もし女性の読者様もいたら、夜中は絶対に外を出歩かないほうがいいですよ。世の中日本は世界で比較的に安全な国とはいえ、誘拐事件は毎年数百、数千で起こっているのです。