第十六話 《燃える恋》2
朝、部屋から出ると家の中に組のトップであるお父さんの次に偉い人たちが一堂に会していた。
「また、始まるのね」
小さいころから何度も見てきた光景だった。ほかの組と争いそうになるといつもこう。ひどいときなんて、家の壁に銃弾が飛んでくることさえもある。
「近頃、組の若いもんが襲われとる。これは九条の連中がやったに違いねぇ。しかも奴らどうやったかはわからんが、若い衆が薬を隠している場所を察にチクりやがる。これは、ネズミ(裏切者)がいるに違いねぇ」
「いや、決めつけるのはまだ早い。聞いた話だが、今月に入って九条とは違う別の連中が暴れまわってるそうじゃね~か」
「おっ、その話、ワシのところの若いもんからも聞いたぞ。察も手こづってるようだ」
「そういや~、前に黒い車が察に追われていたのを見かけたが、察がついていけてなかったぜ。あいつらを雇えば薬運びももっと楽なんじゃねえのか?」
「冗談じゃない! あいつらにうちの息子の息子がなあ! 危うく使い物にならなくなるところだったんだぞ! 今すぐにでもあいつらの指の一本や二本へし折らねえと腹の虫がおさまらん!」
「おっ、お嬢おはようございやす!」
「? 愛、目を覚ましたか。さっさと準備して学校に行くといい。すまんが、今日からはまた手下に迎えに行かせる。また人気のないところで待っておれ」
「……はい……父さん」
「頭、やっぱお嬢を甘やかしせ過ぎやしないですか? 仮にも組の女……」
「黙れ!」
そう言いながら日本刀を鼻筋に突き立てる。
「俺に指図すんじゃねえ、それ以上ほざいてみやがれ! その舌を犬のえさにでもしてやろうか!」
「ヒィー! すっ、すんまへん! うちの若いのがご無礼を! 許してやってくだせぇ!」
「え~い! もう下がれ!」
「……父さん、あまり部下の人たちを……」
「愛、お前は速く学校に行きなさい。帰りは銀城が迎えに行く」
「はい、わかりました。それでは皆さん、お気をつけて」
「お嬢、いってらっしゃい」
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朝、いつもより少し早く校門につくと、すぐには入らずに友達を待っている。いえ、もしかしたら最近は待っているのは友達ではなく……
「明美ちゃん! おはよう!」
「ああちゃん! おはよう!」
少し、恥ずかしいですが、今日こそ……
小声:「お兄さん、おはようございます」
智也の耳には届かなかったようで、目の前を横切って行ってしまう、思わず少し手を伸ばしてしまう。
それを見ていた明美がお兄さんを呼び止めようとするのが見えて、そっと袖を引っ張る。
「? お兄ちゃんに何か話したいことがあったんじゃないの?」
「いっ、いえ、いいよ明美ちゃん」
「変なああちゃん」
朝は晴れていたのに、昼過ぎから天気が一変し雨が降り始めた。
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数週間前に、お昼休みにお兄さんが倒れたって聞いて、明美が教室を飛び出していった。しばらくしてから帰ってくると、明美は授業中もずっとお兄さんのことが心配そうだった。
その日から4日が経ったある日、お兄さんが学校で話題に、でも……何だか、違う、廊下ですれ違った時、あの優しいお兄さんじゃない気がして。目が、冷たい……
少し、気になってお兄さんのクラスを見てみると
「智也く~ん、ノート貸して~」
「ちっ、どこだわからないところは」
「えっ、答えを教えてくれたらいいよ」
「いちいち貸す気はないから、今お前の残念な脳に叩き込む」(智也のクラスメートに対する話し方が、間違った形で伝わってしまった)
お兄さんが席を立ち、先ほどの先輩に勉強を教える。なぜかひどいことを言われたはずなのに、先輩がお兄さんを顔を赤くして見上げてる。それを見ると何だか胸元がもやもやする。
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そして、本日
授業がおわり、家に帰る準備を済ませて、校門を出た愛は学校から遠く離れた路地裏に入って行く。その路地裏を抜けた先に銀城さんが車で待っているといわれた。
それと同時に、たまたまヒャッキンでガラス瓶を買うために愛と同じ方向を歩いていた智也……
「? あれは……確か……明美の友達の」
愛がいかつい人たちに黒い車に連れていかれそうになっているのが見えた。
「あれはまずい」
そう思い、智也はカバンの中から何かを取り出し、思いっきり愛のほうへと投げた。地面にあたると同時にうるさい音と、まぶしい光が……
その隙に、智也は走っていき、愛の腕をつかみ路地裏に走っていきながら、物を倒して進路を阻める。
「どこか隠れる場所は……あそこだ」
そう言ってすぐ近くにあった本屋の中へと愛を連こむ。
徐々に視力が回復した愛は、目を開けると
「えっ! お兄さん!?」
久々の投稿です!しばらく忙しくなり投稿頻度が下がってしまいますが読んでくださる皆さんありがとうございます!果たして勘違いの行方はどこへ、是非次回お楽しみに。