第十二話 《最初で最後の……》終
二人は手分けして、二時間ほど近くの町を探し回り、ついにフンくんが居場所を突き止めた。
なぜ二人がこの大きな屋敷を突き止めたかというと、誘拐現場に出くわし、誘拐犯たちの車をずっと追いかけこの屋敷にたどり着いた。
「あそこが、アジトか」
「シー、智也もっと小さい声で、気づかれてしまう」
「どうやってみんなを探し出す? ずいぶんと広い敷地だが……おっ、また車が入って行くぞ。一日にどれだけ女と子供を誘拐しているんだよ。」
こういう時は、端末を取り出し、助けを呼ぼうとする。
「なんでだ、どこでもいつでも使えるんじゃないのか? クソっ、こんな時に」
電源は入っている。翻訳も使えている。なのに、なぜか通信ができない
「おっ、見張りが中に入って行ったぞ! いまだ! 」
決断のいいフンとは違い、智也は入ることに恐怖を感じている。
「何もたもたしてるんだよ、気づかれてしまうぞ!」
「うっ、えええい! わかった!」
二人は屋敷内の草むらをたどりながら屋敷内をこそこそとみんなの居場所を嗅ぎまわる。
途中で何回かバレそうにもなりながら三つの建物をひとつづつ見ていく。
外から中が見えないコンクリートの壁で作られた三階建ての建物と。ガラス張りの豪華な建物、そして、もう一つ倉庫のようなところが。
「状況から見ると、たぶんあっちの三階建てがみんなのいるところだ、問題はどうやって救い出すかだ」
「何もたもた考えてるんだよ兄ちゃん、わかってるなら早く助けに行かないと!」
「いや、まずは鍵だ。どこに、そして誰が持っているかもわからない」
「それは俺に任せろ、必ず持ってくるから、兄ちゃんは何とかあの建物の中に侵入してみんなの居場所を確認してくれ!」
「……つかまるなよ」
「兄ちゃんこそ」
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フンと再び二手になり、フンは鍵を、智也は誘拐された人たちの居場所を
「しかし、どうやって侵入するか」
「? おう、交代の時間か」
「ボスもそろそろ休むみたいだお前も部屋に帰って休みな」
どうやら交代の時間らしい、少し様子を見ておこう
「……アイツ、看守する気あるのか?」
あの看守来て早々椅子に座り、うたたねを始める、おまけに手に持っていたマシンガンを後方に置きっぱなし。
「フッ、好都合だ」
智也はバレないように近づく、
「あの銃をまず手に入れよう」
もうすでに夜だ、物音をあまり立てなければ気づかれることはない、さらに都合のいいことに、ガラス張りの建物の電気が消えた。そのおかげか、看守はうたたねから完全にいびきをたてて寝ている。
こっそりと後ろから近づき、銃を手に入れた。すぐに扉に近づくが、
「鍵がかかってる」
“チャリン”
「今の音は……鍵みたいだが、どこだ」
あっちこっち見回し、アイツのポケットから鍵が一つ落ちていた。
こっそりと後ろから近づく、聞こえてくるのは周囲の虫の音と、ますます大きくなっていく自分の心臓の鼓動。
「う~ん」
寝ているこいつが寝言をするだけで、智也の顔の血管が破裂しそうだ。
「ちっ、寝言かよ。びっくりさせるなよ」
なんだかんだで鍵を手に入れた。そして、鉄の扉の鍵穴に差し込む
「おっ、ラッキー、ちゃんと開いた」
薄暗い部屋の数々、ほぼすべてが鉄格子で囲まれている。暗くてよく見えないが、時間が経つにつれ、暗さに目が慣れてきて、少し人影のようなものが見えてきた。
女の子だ。しかも、何かにすごくおびえている。
「なあ」
声を発すると少女はすぐに距離をとり、まるで小動物のようにびくびくとおびえている。
「仕方ない、今はまずホアたちだ」
部屋を一つ一つ探し回り、それぞれの部屋でひどいありさまだった。
全身まるで拷問を受けたように傷だらけの人と、自分の体を抱きかかえおびえ続けている女の人、服がボロボロな状況から察するに……そして、ついに一番奥から二つ目の部屋にホアたちがいた。
「ホア、助けに来たぞ」
少し、笑顔を見せてくれた、ほかの二人も一緒にいた。
ちょうどいいタイミングに、下の草むらで物音がすると思うと。フンくんがカギをもっていた。
「でかした」
二人で、すべての部屋の鍵を次々と開いていく
「出れるわ!」
「自由だ!」
「やった!」
「おい! やめろ、大声を出すな!」
智也の声に、誰も耳を貸さず、案の定
「「「脱走だ~!」」」
大勢の男どもが銃を持ってこちらに走ってくる。
「逃げろ~!」
つかまっていた約二十数名が一斉にゲートに向かって逃げ出す。
すると、後方からなぜか容赦なく銃弾が襲い掛かる。すると、智也が持っていた銃をフンが奪い、違う方向に逃げていく。
「おい、フン! どこに行くんだよ!」
智也の問いに対する返事はなかった。
「外で待ってるぞ!」
つかまったみんなと一緒に外へと逃げ出す最中に、5人が銃弾にあたり、2人が即死。
「おい、大丈夫か」
「私にかまわずに逃げて」
おぶろうとすると、思いっきり背中を手でたたいてきて。
「速く逃げなさい! 私も、もう持たない」
後ろからの銃弾が目の前を通り、
ついに逃げることを決断する。
いつの間にか、フンの姿が見当たらなくなった。
何とか外に逃げ出すとそこにはバルタザールがいた。
「なんでここにいるんだよ、この端末さっき全然通信できなかったぞ!」
「依頼人の仕事が、このつかまった人たちの運送だ」
「? 依頼人?」
「これが依頼人からお前への手紙だ。今はまだ開かずに帰りの飛行機で開けてくれとの要望だ」
「そうか、そうじゃなくて! まだ一人、あのなかに」
「もうタイムリミットだ」
逃げたした人たちを乗せた車の運転席にバルタザールがのり、さっさと乗れと言ってくる。
だが
「もうちょっと待ってくれ!」
次の瞬間、車に銃弾が一発当たった。
「死にたいのか!」
無理やり肩をつかまれ後ろに放り込まれる。
そして、無情にも発進される。
さらに、アジトのほうから爆音が鳴り響き。黒い煙と火が……
「!? フンくん~!」
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目を覚ますと、日本に帰る飛行機に乗っていた。
「よう坊主! 目が覚めたか」
「……Kさんか、バルタザールさんフンは、フンくんはどうなりましたか?」
「その手紙を開けてみるといい」
ポケットに入っていた手紙を開ける
“智也へ、ホアたちは元気にしています。実は、ホアを誘拐した犯人グループは、僕の仲間で、あなたに合う数日前に仲間を道連れにこの世を去ることを決心した。僕は、悪いことをしすぎた。ホアたちはそちらの組織の関係者の人が引き取ってくれることが決まった矢先に誘拐事件が起こってしまった。たぶん今頃この手紙を読んでいるときには、僕はもう死んでいるだろう。君と遊んだこの数日は僕にとって本当に幸せだったよ。姉がいて、弟がいて、妹も兄もいないけど。人生の最後に、ずっとほしかった最初で最後の兄ができたよ……もし来世があるなら、今度は本当の弟として智也のそばにいたい”
智也はその手紙を握りしめ、涙を一粒流し。
「お前も、最初で最後の弟だ……」
感動できたら幸いです!
次回は20日に更新する予定です!