第十一話 《最初で最後の……》4
海外に来て二日目、目を覚ますと頬に比較的小さな足が乗っかっていた。
「この子、寝ぐせ悪いな~」
少女が厨房から入ってきて、その状況を見て少し笑い、手に持っている朝食を机の上においた。
「おはよう」
少女は、笑顔で返事をした。なぜかというと、生まれつき、声が出ないらしい。もともと健康的に焼けた肌、そして見た目も美人の部類に入るであろう。そのせいでかつて誘拐されても声が出ず助けを呼べなかった。
運よく見張りがいなくなった隙に逃げ出した夜、あっちこっちで扉たたき助けを求めていたら、たまたまその町に出かけていたフンくんに会い一つ隣の町まで逃亡し、フン君の家でフン君の弟の面倒を見るようになったという。
料理はかなり得意で、未成年しかいないこの家でお母さんのように家事などをこなしている。
会話はすべて、手に持っている端末を通して成り立っている。
「お兄ちゃん! 今から一緒にサッカーをしに行こ!」
いわれるがまま小さい男の子二人の遊び相手をしに行き。子供は前から好きな智也は家の裏の広いところで子供二人と遊んでおり、その光景を見て、周りの家からもどんどんいろんな年の男の子たちが集まってきて、いつの間にかみんなで年齢層を分けて試合をできるほどの人数になっていた。そんな様子を少女は家の中で笑顔で見つめていた。
智也もこの時だけは、年齢にふさわしく数年ぶりと言っていいほどはしゃいでいた。言葉は通じなくとも、ともに遊んでいるうちに周りの同じような年齢層の人とも試合をするようになっていた。
日本にいたころ、好きでひとりでただ本を読んでいるのではなく、ただ日本の固い人間関係が嫌なだけだった。仕事関係の電話ではへらへらとしているのに、家族の前では冷たい態度をとるようになった父親を見て、そんな父親の姿がたまらなく嫌でいつしか人間関係自体に嫌悪感を抱くようになっていた。
そう遊んでいると、フンくんが家に帰ってきた。そして、なぜか脇腹を強打ししていた。
心配そうに少女が手当てをする。運動に慣れておらず疲れてフン君の家に戻ってきた
そしてすぐに智也もその異変に気づいた。
「どうしたんだ、そのケガはどうしたんだ」
「あっ、これか? ちょっと仕事でへましちゃってな、ハハ」
「そういえば、何の仕事をしてるんだよ、まだそんな年齢で」
「あ~、運び屋をしてるんだよ」
「運び屋? 郵便局みたいなことをしてるのかな?」
「……まあ、そんなところだよ。そんなことより、いいところがあるんだ、一緒に行こうぜ」
「どこだよ」
「いいからついてきなよ」
「……まあ、いっか」
二人は、少し歩き、荷台が後ろについているバイクが目の前に現れた。
「兄ちゃんにはすまないけど、後ろの荷台に座ってくれ」
いわれるがまま後ろの荷台に乗る。
二人はしばらく整備の良くない道路を走っていると森の中に入って行く。
「ここからは歩きだよ」
「ゲッ、森の中かよ」
「いいからいいから」
そしてしばらく、森の中を突き進む、
「まだか?」
「もうすぐだって」
あきらめて歩く、すると目の前に周りの木と比べるとより大きな木が現れた。
「到着だよ」
「? ここ?」
フンが木を登り始める、そして、智也もそれについていくが、木登りには慣れておらず、枝に引っ掛かりズボンが、少し破れてしまった。
それでも上へと昇っていき、ついに周りの木よりも高いところまで登り、フンが止まり、そして指をさす
「兄ちゃん、見てみなよ」
そして、智也も同じ高さまで登り指さす方向へとみる、夕日に赤く照らされた空、下のほうに見える街の風景、流れる川はキラキラと輝いている。そんな現代の日本では見ることの少なくなった。
「どうだ、いい景色だろ」
「……ああ」
「もし俺が……」
「? なんだ?」
「いや、何でもないよ。景色も見せたし! もう帰ろう! たぶんホアが家でご飯を作って待ってる」
「そうだな、帰ろう」
そして、二人で家に帰る……が、家の中は真っ暗だった。
だが、なぜかフンは落ち着いていた。
「なあ、兄ちゃん。頼みごとがある」
「なんでそんなに落ち着いてるんだよ、まず警察だろ」
「もちろん警察には僕からかけるよ! でも、一つ頼みたいことがあるんだ」
「なんだ、早く探しにいかないと」
智也の反応を見てフンはなぜか少し笑った
「三人を見つけたらすぐに逃げて、ちょっと迷惑かもしれないんだけど、兄ちゃんの住んでたあのお屋敷にしばらく三人をかくまってほしいんだ」
? 何か気になるワードがあったが、よく考えたらフンには自分の家がある上仕事もしていると思い、気にしないことにした。
だが、フンの言葉の意味をこのころの智也はまだわかっていなかった。
多分次で《最初で最後の……》終了です! ぜひ10月17日、お楽しみください!