第十話 《最初で最後の……》3
人は死んだらどこに行くのだろう、よく聞くのはいい人が天国に行き、悪い人が地獄に落ちる。目の前のこいつはどこに行ったんだろう。
呆然と智也は目の前のすでに冷たくなってしまっている遺体を見ていた。そっと、バルタザールがすぐ隣に歩み寄り。
「この国では、よくあることだ。もう屋敷の中に入れ」
隣にいる大男を見上げて、再び目の前の遺体を見て、自分のしたことを思い返す。そして、立ち上がり、屋敷のほうへと歩いていく。敷地内に入り、鉄格子のすぐ近くにある鉄の扉が少しずつ閉まっていく。扉が閉じる前に、智也は暗闇の向こうに振り向く。
「二回の階段に一番近いのがお前の部屋だ」
そう言って、鍵を投げてきた。それを智也は両手でキャッチし、バルタザールを見る。無言で、バルタザールが地図を開ける。どうやら勝手にしろっという意味のようだ。智也は二階へと行き、一番近くの部屋の鍵穴に渡されたカギを差し込む、
「固いな」
今度はもっと力を込める。ゆっくりだが回った。扉を開くと、真っ暗な部屋、だが妙に片付いている。手に持つ荷物をベットの下に置き、横たわる。暗い部屋で、月の光で薄く青白く照らされる自分の右手を見て、一瞬ぞっとした。あの冷たく、少し硬いような感触がまだ手に残っいる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日、日の光が窓から差し込み屋敷の外がずいぶんと騒がしくなっている。窓から外を見下ろしてみると、昨日の夜中の風景がまるで嘘のように、外は市場でにぎわっていた。階段を下りるとそこには誰もいなく、机の上にはグネグネと曲がったひらがなで
“食事は冷蔵庫の中に入っている、今日はこの町中を見回るといい、用があるときは端末で知らせる。この家は自由に使うといい”
と書かれた紙と、見たことがない紙幣が置いてあった。端末を開く、どうやらこの端末、ただネットを経由しているだけでなく、衛星を利用しているみたいだ。電波が全く途切れていない。日本円にして、約二万円。
「これも、勝手に使えって意味かな」
一応取っておく、冷蔵庫の中に入っている皿を取り出しお粥が入っていた。それを電子レンジの中に入れて温め、朝食を済ませた。敷地から出ると、賑わう人たち。端末を見てみるとまるで川のようにその土地の言語の日本語訳が流れてきていた。
少し、日本語としておかしい部分もあるが意味はまぁ少し考えれば通じなくもない。
周りの人ごみの中を進み、見たことのない果物がいっぱいあり、一つ赤黒い?果物をかった、日本と比べ物価は多分十分の一くらいだろう。つまり、日本で五百円で売っている同じ果物は、こっちで買うとたったの50円。
果物をかったのはいいのだが、食べ方がわからない。そうしているとお店の人が何か話しかけてきた。何を言っているのかわからなく困っていると。
「この辺じゃ見ない人だね、どこから来たんだい兄ちゃん」
急に使っていた言葉が英語に変わった。
「あ~、はるか遠くにある島国から来たよ」
※ここで豆知識、海外旅行の際あまり日本人だとバレないほうがいい。日本人は平和ボケしているうえに金持ちというのは一部の国ではもはや常識。
「まあ、この近くはあまりよそ者は好まれないから、路地裏とかはいかないほうがいいぜ。あと、ちょっと貸しな」
そう言って、さっき買った果物を持っていき、手に持っていたナイフで一回り回しながら切った。すると中から白いミカン? のような果肉が出てきた。
「これはGarcinia mangostanaっていう食べ物さ、中の白いのを一つつまんで食べてみな」
言われた通りに食べてみる、真ん中に種があったりなかったり、大きい粒にはほぼ確実に種が入っていると考えていいみたいだ。
端末を使って調べてみるとどうやら日本ではマンゴスチンと呼ばれている食べ物のようだ。
絶妙な甘みと酸味が口の中で一気に広がる。智也はそれを気に入り、あと二つ買って食べ歩く。しばらく歩くと……昨日の壁、あのすでに何グラムか軽くなってしまっていたからだがあった場所。すっかりまるで何事もなかったようにきれいになっていた。周りの人たちもいつものように日常を送っている。
「あのメールが言っていたのは、こういう事か」
自分の家族や友人が死んだら、もちろん悲しむ。だが、赤の他人が死んだところでたいして心は揺れない、数日、長くて数か月でテレビもいずれ報道しなくなり、知人以外の人たちからは忘れ去られるだろう。
端末を見ながら考えていたら急に小さな手が端末を横取りしていった。
「おい! まて!」(日本語)
「まて!」(英語)
呼んでも待つわけないか、あきらめてあとを追う。少し肌の黒い少年は二つ目の曲がり角で見失った。あきらめずにあっちごっち探し回ったが全く見当たらない。
「ハァ、あんな危険な端末を失ってしまった」
あきらめずにあっちこっち探し回っているうちにいつの間にか夕方になってしまっていた。だが、おかしいことに気付く、まだ夕方、なのに、どこを見ても誰もいない。すっかりどこにいたかも、もう忘れてしまった。
「……迷った」
ひとりで帰り道を探していると、
「おいおい、こんなところに金持ってそうな外国人がいるぜ」
「おっ、服もなかなかいい服を着てるじゃね~か」
智也には意味が分かっていないが、このまま接近されたらまずいことはわかった。
とっさに反対方向へと逃げ出す。だが、運動不足の智也と違い、あの五人組はかなり走るのが速く、すぐに追いつかれそうになる。その時急に曲がり角で引っ張られ、少しぼろい家の中に入った。
「あ、お前、あの時のガキ」
「シー!大声出すな」
「さっきのガキどこに行った! まだ遠くには行ってないはずだぞ」
「チッ、見失ったか」
足音がどんどん遠くなっていく。
「今日はごめんな、兄ちゃん、この黒い板どこでも売れなくってな、返すよ」
そう言って、端末を返してきた。
「兄ちゃん、今日はもう出歩かないほうがいいぜ、ここからは黒の時間だ」
「黒の時間?」
「まあ簡単に言うと、ごろつきや悪い人しか出歩かない時間だよ。今日はもううちに泊まってきな」
家の中に入ると、そこには保育園児くらいの小さな子供が2人、そして、もう一人中学生くらいの女の子がいた。
「俺の姉ちゃんと弟と妹だ! こんばんはここでみんなと一緒に寝てくれ」
「いいのか? 親は?」
「おや? そんなのはもういない」
智也が聞こうとすると、後ろから服の袖を少女が無言で引っ張り、頭を振る。
それ以上聞かないでと言っているようだ。それを察し智也は聞くのをやめた。
「じゃな! 俺はもう一稼ぎしてくるよ」
「おい! この時間は危ないんだろ!」
そう言って引き留めようとしたが、扉を開けると、もういなかった。
ほんと足が速いな。
家の中に戻ると、少女は少し悲しそうな顔をしていた。そんな智也の視線時気付くと、涙を拭いて、奥の部屋に行った。
小さい子供は嫌いじゃない、ポケットに入っていた若干溶けかけているチョコをあげると、警戒心が解け、すっかり打ち解けた。少し経つと少女が奥のほうから戻ってきて、若干驚いた顔をし、手に持った料理を机に置いた。
話しかけて、少年のことを聞こうとすると、少女はそっと、自分ののどを触った。
申し訳ない、また日をまたいでしまいました。
次回は14日に更新予定です。たぶんですが12時から17時の間になると思います。
気に入っていただけたらブックマークもしてくれると嬉しいです。
ちなみにマンゴスチンですが、日本ではめったに見ないですが、食べてみたい!っという場合、ネット注文で冷凍状態で注文できます。値段も普通のフルーツと同じような感じです。