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虐待的訓練と魔法陣

 司書の爺様との魔法研究が進む中、騎士団隊長の訓練も次のステップへと進んでいた。

 魔法による実技訓練だ。

 まずは木にむしろを巻いたカカシを相手に魔法をぶつける練習。その後は模擬戦闘となっていた。

 そこで目を付けられるのは俺だ。周りからすれば確実に勝てるどころか、一方的に的にできる相手。

 特に領主の息子であり、生徒の中でも最も魔力の高いCランクを持つシェスターノは、いの一番に俺を指名してきた。

 流石に命の危険を感じて騎士団隊長に申し出てみる。


「魔法を受けていれば魔法への抵抗力が増す。魔力の少ないお前が生き残るにはいい訓練になるはずだ。安心しろ、館の治療師が控えてくれている」


 などと追い討ちを掛けてきた。治療師が控えているという言葉に、何度でも対戦できると踏んだ他の生徒たちも、俺を相手に模擬戦を行いたいと殺到する。俺は連戦とも呼べない一方的な攻撃に晒される羽目に陥った。

 生徒の魔法は確かに一撃で俺の命を脅かす程の威力も精度もなかった。身体能力だけで避けられる攻撃も多い。しかし、根本の魔力量が違うために、相手は連続的に魔法を使用してきた。

 俺に避けられるのを見越して着地点に魔法を置いたり、追尾性能に磨きをかけたり、爆発範囲を広くしたり……日に日に精度も上がっていく。


 それに対して俺の方も魔法への耐性が上がってきたのか、多少の直撃なら一発では倒れなくなってくる。

 それが相手にとっては許せないのか、より強い魔法、逃げ場のない魔法、連続しての魔法を狙うようになっていく。

 いくら治癒魔法で癒されるとはいえ、ダメージを受けると痛い。多種多様な魔法を受け続ける日々は、多大なストレスを溜め込む事になる。

 救いの手はほとんど無く、司書の爺様との一時が唯一の癒やしと言えた。




「これは……」

「ふむ、何やら図形を集めた資料なのだが、意味がわからんでのう」


 爺様でも分からない図案。しかし、俺のもう一人の記憶からその意味は推測できた。

 魔法陣だ。

 もう一人の記憶の世界には魔法が存在しなかったが、魔法に関する知識は様々に残っていた。『設定』と呼ばれるそれらの中に、魔法を使う際に魔法陣と呼ばれる図形を用いて行う方法もあった。

 呪文や儀式と魔法陣を組み合わせる事で、よりその効果を強くしたり、補ったりするのだ。


 それらの知識を用いて魔法陣を分析していく。俺には漢字で見える古代語で付記された説明は、爺様もすぐには解読できずに放置していたらしい。

 それらを読み解くうちに、魔法陣というのがある種の回路として働く事を知る事ができた。

 魔法陣に魔力を通すことで、呪文を詠唱するのに近い効果を発揮できるらしい。

 試しに羊皮紙へと魔法陣を書き写し、魔力を注ぎ込んでみると呪文を詠唱する時に感じる魔力を物理現象へと転換する気配を感じる。

 後は発動する為の英語ワードを唱えると、魔法が発動した。しかもその際に消費される魔力は呪文を詠唱する時より少ない。魔力がEランクの俺でも、複数回の魔法発動を可能にしていた。


 ただ魔法陣は魔力を通すと回路が切れるらしく、陣を描いた羊皮紙は焦げてしまって、2度目は上手く発動しない。

 事前に準備する手間と羊皮紙とはいえかさばる事、後は一定以上の威力が出ない事から廃れていった技術という説明にも納得する。

 しかし、魔力が低く自分では数発しか魔法を使えない俺にとっては、かなり選択の幅が広がる事になった。


 呪文の詠唱短縮と、魔法陣を使った詠唱代行と魔力節約。度重なる魔法による攻撃で身につけた耐性。

 後は爺様と書庫から得た魔法の知識。

 それらが地方領主の館で3年間で手に入れた俺の力だ。

 ちなみに魔力も3から4へと成長している。これを誤差とみるか、3割増しになったと見るかは気の持ちようだろうか……。





 3年ぶりに帰った実家は、思ったよりも発展を遂げていた。俺が伝えた農業の技術は、この世界では抜きん出ていて、村全体が潤っている。

 領地の税は人頭税がメインで、農村では老若男女を問わずに1人につきいくらと決まっていた。その為、他と比べて収穫高が増えた村は、蓄えが多くなり生活が豊かになっていて、家畜の数も増やして流通も盛んと隆盛を遂げている。


「レント、おかえりなさい」


 俺を迎えてくれた幼馴染のメリイは、この3年で一気に女の子らしさが増していた。

 農作業による日焼けはそのままだが、そばかすの数は減り、家が豊かになった事で痩せすぎていた身体も、女性らしい丸みを帯びている。

 何より女性の象徴とも言える膨らみが、かなり育っていた。

 そんなメリイが頬を染めながら会いたかったと言ってくれたら、思わず抱きしめてしまっても仕方ないじゃないか。


「俺も会いたかったよ」


 いかにも農家の娘で垢抜けない感じは拭えないが、見た目は綺麗に飾っても鼻持ちならない貴族の子女に、散々痛ぶられた俺には堪らない癒やしだった。


「料理の腕も上がったんだから、しっかり確認してよね」

「うん、楽しみにしてる」


 その夜は俺の帰還を祝って宴会が催され、充足した生活ぶりを実感できた。

 もちろん、メリイの手料理も堪能して、残飯をあてがわれるような領主の館での生活で、荒れた心を存分に癒やしてもらった。


 それから半月ほど、農業の次のステップへの知識を残し、俺は帝都にある魔法学園へと進級することになる。

 十分な英気を養い、意気揚々と帝都へと向かう。

 そこに悪魔のような飼い主が居るとは知らずに……。

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