戦勝の宴
祝勝会が始まり、オーク討伐戦から続いていた緊張感から解放された。
目の前ではゴブリンやオーク、オーガと言った様々な魔物が、互いの無事を喜ぶように肩を抱き合い、食事をしている。
そこには種族も身分も、古参、新参の区別もない。俺も新参者だったにもかかわらず、提示した案を受け入れられ、不平を言わずに従ってくれた。
その事実に感謝しつつ、俺もまた分け隔てなく仲間の為に全力を尽くそうと、自然に受け入れている。
そんな境地に陥りながら、ここはどこなのかとも考えてしまう。
オーク討伐戦でシャリルの魔法をあえて受けた。それは術者が解除すれば助かるという見込みがあったからだ。
しかし、タイミングを誤ればオークを逃がすのでギリギリまで解除てきなかったとか、シャリルに何かあれば解除できない状況もありえた。
その為に俺は死んだのか?
しかし、死んだとしても一定期間であれば、カガミのように蘇生も可能。シャリルが蘇生魔法を使えるかは不明だが、帝魔まで瞬間移動する事はできる。死んだから用済みと放置されたとは考えたくはない。
それに周囲の魔物達。とても死んでいるとは思えないし、逆に先程の人狼による襲撃で倒れた者は、蘇ってくる気配もなかった。
帝魔のダンジョンにいた魔物と違って、倒れたとしても魔素に分解されること無く、身体が残っている。これはメンドーサ子爵領に攻め込んでいたオークにも言える事だ。彼らは肉体を持った生き物だった。
そうなると帝魔のダンジョンというのは、やはり訓練の為に作られたシミュレーターだったのだろうか……。
そんな事を考えていると周囲が一気に歓声に包まれた。勝利の瞬間とはまた違った盛り上がりは、自分達で守りきった主の登場によるものだ。
自分よりも格上の人狼に対してボロボロになりながら、そして勝ち取った勝利。
「皆、ごくろうでした」
ゴシック調のフリルがふんだんに使われたドレス姿は、着の身着のままといった魔物達から見ると異質の存在かもしれない。
それでも部族から追い出された自分達を受け入れてくれた主に違いなかった。
その姿は眩く美しい。
月光を思わせる銀色の髪に、淡い紫の瞳。人間で言うなら10代前半の愛らしい容姿。透けるような白い肌に線の細い体つきは、守ってあげたくなる儚さを醸し出していた。
しかしその実は強力な魔力を持つ魔族。魔族とは異世界の記憶にあるような邪悪な存在というわけではなく、多量の魔力を持った種族だ。
外見は人間とさほど変わらないが人間に比べると長寿で、見た目は幼く見えるエトランゼ様だが、異世界の記憶を合わせても敵わないほどの時間を生きているそうだ。
それらの知識はどうやら最初に額に触れられた時に伝えられたらしい。
記憶に刷り込まれる感じで違和感無く馴染んでいて、異世界の記憶よりも鮮明に感じていた。
「さて人間はどこにいますか?」
エトランゼ様の声に、俺の周囲にいたゴブリン達が騒ぎ出した。この陣営にあって人間は俺しかいない。
今回の戦で策を弄したのが俺であることも周知されているので、呼び出されるのは不思議でもないか。
「こちらへ」
「は、はいっ」
緊張しながらエトランゼ様の前に出ると、柔らかな微笑みを浮かべてくれた。
「此度の策、見事でした。今後の事で相談があります。後で執務室に来るように」
「ははっ」
頭を垂れて指示を受けた。
あれから身を清めよとのシュバインの指示で、場内にある浴場に連れて行かれた。
流石にエトランゼ様が使う大浴場ではなく、従者用の場所だったが、それでも湯が張られた浴室は立派だ。人間の世界では見たことがない。
エトランゼ様付きの従者は、身奇麗にする事が義務付けられているとのことだ。
異世界ぶりの入浴に喜びながらも、エトランゼ様に失礼がないようにしっかりと身体を洗った。
それからシュバインの執事服と同じ衣服に身を包み、エトランゼ様の執務室へと足を踏み入れた。




