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帝魔の図書館

 今日は座学のない休校日。

 朝からダンジョンに潜り放題な日ではあるが、昨日ちょっと稼ぎが良かったので、寄り道をする事にした。

 帝魔の図書館へと赴く。昨日、カガミに出会って知識の大事さを説きながら、せっかく魔法の総本山である帝魔に来たのに、知の宝庫を訪れてないのに気づいたからだ。


 訪れた図書館は休日でも開いていた。ただ利用する人間は少ないようだ。この世界での魔術師は、知の探求者というよりは、実技重視の傾向が強い。

 貴族として領地を統治する為の手段であり、呪文を詠唱しさえすれば魔法が撃てるという事実が、技術の習得を優先させるようだ。

 ただ魔力が少なく、練習するほど魔法を撃てない俺は、知識でその数を補う他はない。



「身分証の提示と、記名をお願いします」


 いかにも司書という雰囲気を持った20歳過ぎの女性が、受付に座っていた。

 俺は言われるままに記名を行い、中へと入っていく。魔力の多寡や、庶民だからと差別されることはなかった。この辺りは帝魔という場所全てで感じることだ。貴族と庶民を明確に差別する事はない。

 それでいて収入や魔力による区別はあり、無理に平均化されることもなく過ごしやすかった。


 そして帝魔は魔法知識の総本山。図書館の蔵書は伯爵の館よりも遥かに多かった。

 もちろん魔法に関するものだけでなく、歴史や魔物、地理やその他の生産技術など、分野は多肢に渡っている。



「こりゃ司書の爺様もいない状況じゃ、必要な物を探すだけで大変だな」

「何かお求めの物でも?」


 俺の呟きにすぐさま応える声が掛かった。振り返るとそこには20歳くらいの青年が立っている。

 スマートな立ち振る舞いは気品を感じさせるイケメンだ。ただ貴族に見られる高慢さは感じられない。


「え、ええっと、まずは魔法の知識に関して」

「魔法と一口にいいましても、そのジャンルは豊富。具体的な要望はありますでしょうか?」

「初級魔法の呪文の書を。攻撃呪文から」

「……そうですか、ではこちらへ」


 俺の要望にどこか気落ちした様子を見せながら、俺を案内してくれた。本棚から俺が見覚えのない書物を幾つか選び出している間も、青年はつきっきりでサポートしてくれる。利用者が少ないから、暇を持て余しているのかも知れない。

 そんな青年を傍らに置いて、俺は呪文書を開いていく。

 そこに記された魔法は、大半が知っているものだった。しかし、それらを過去に書き写した呪文と照らし合わせながら、メモを取っていく。


「何をされているんです?」

「呪文の整理ですよ」

「整理?」

「同じ呪文でも、微妙に言い回しが変わっている物があるでしょう? それらの差異を書き留めていくんです」

「はぁ……何の為に?」

「呪文の言葉は結構難しいものが多いです。複雑になればなるほど、唱える時に注意が必要になります」

「それはそうですね」

「ただ同じ魔法で、違う言い回しでも同じ効果を発揮するなら、自分が読み上げやすいように呪文を組み替えるんですよ」

「はっ!?」

「例えばほのおほむらでさほど意味は変わりませんが、発音する際に炎だとややこしい場合があったりします。全ての母音が同じなので。その際に焔だと、明確に発音しやすかったりするんですよ」


 魔法の発動にはイメージも大事だが、呪文の発音の正確性も必要だ。その僅かな差異が魔力の少ない俺には致命傷となりうる。呪文を言いやすく、間違えにくい形に整える事が必要だった。

 この辺はもう一人の記憶にある『他人に読みやすいプログラム』に通じる所がある。

 同じ処理を行うにも整理する事で、他人が読みやすくなり、意見を聞きやすくなった。それで効率をあげることもできるのだ。



「なるほど……面白い考えをする人もいるものですね」

「これに気づいたのは魔法を習った館におられた、司書様のおかげですけどね」


 爺様も呪文の詠唱に複数のパターンがある事に気づいて、そこにある意味を考えていた。そこに俺の音読みによる詠唱短縮を加えて、読みやすい詠唱を作り上げてきたのだ。

 おかげで間違いが減り、イメージ補強による威力の向上も感じられ、実用性が増している。

 丸暗記のD級魔術師に比べたら、魔法の威力では、負けない自信もあった。



「でもやっぱり、攻撃魔法は使われるだけあって既に洗練されてる気がしますね。続いて補助魔法の書物の場所を教えてもらえますか?」

「はい、喜んで」


 最初の落胆の様子はなりを潜め、俺の知識を強化する手法に乗り気になって協力してくれた。

 新入生がまず求めるのは、呪文の書。自分の使える魔法を増やすのが目的だ。しかし、俺の場合はそこに効率を求めて比較、検討する目的だった。

 司書を務める青年にとって『またか』と思っていたところに、新たな考え方を持ち込んだ事で大いに好奇心を刺激されたらしい。


 そして青年の蔵書に関する知識はさすがで、欲しい書物の場所や関連する知識への誘導もスムーズで、思った以上に作業が捗った。

 また魔法に対する考え方も爺様とは少し違った面もあり、話もはずんだ。

 さらに館には少なかった補助魔法も、帝魔の図書館にはかなり豊富に残っていて、戦いの幅が広がったように感じる。



「すいません、そろそろ稼ぎに行かないと駄目なので」

「そうですか。学生さんでしたね。では今後の方針を決めてもらえれば、それに即した資料を集めておきますよ」

「いいんですか?」

「いや、こちらこそ礼を言いたいくらいで。私も行き詰まっていた魔法学のレポートが進められそうです」


 どうやらこの青年は魔法学の研究員でもあるようだ。確かに図書館の管理、説明に詳しいのも頷ける。


「なら、これこれこういうのがあれば……」

「なるほど、なるほど。系統立てで集めておきます」


 やる気を見せる青年に魔法陣の資料を集めて貰う約束をしつつ、俺は今日の分を稼ぎにダンジョンへ向かった。

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