新たな装備と戦闘
授業では魔法の種類について語られている。この世界の魔法も大きく分けると、攻撃、回復、補助、移動といった分類になっていた。
攻撃や回復は文字通りの意味。補助は防御や身体能力の強化、移動は転移や飛行などである。
ただこの世界では、補助魔法は発達していない。もしくは廃れたのかもしれないが。
魔法を使う多くの魔術師はC級と呼ばれる貴族達だ。基本的に攻撃魔法で攻撃するので、遠距離からの攻撃になる。
前衛を務める騎士達もまた、魔力を持ち自身の能力を強化しているため、魔法として他人を強化したり、補助したりする必要がなかった。
帝魔を卒業後に、貴族達が相手にするのは野生の魔物だが、そのほとんどは帝魔のダンジョンよりも弱い。
ミノタウロスなど外の世界では見ることがないのだ。
ある程度、ダンジョンでの戦闘を経験していたら、外の魔物に苦戦する事もないので、防御魔法も発展する余地がなかった。
模擬戦で魔法の的にされ続けた俺にとって、補助魔法の習熟はまさに死活問題だった訳だが。
授業の後は例によってアイラに連行されることになる。ただそのまま厨房まで連れて行かれて、魔法で水を生成するようになったが。
そのお陰で、水の代金代わりにリオの昼食にありつけるようになっていた。
「これは……と、豚汁!?」
「オーク肉じゃなくて、本当の豚だよ」
「これはまた変わった匂いですわね」
俺が生成する軟水のおかげで、リオの料理は幅を広げることができたらしい。
豚の旨味が、味噌と絶妙に合わさった豚汁。もう一人の記憶では、ほとんどインスタントと呼ばれる即席料理ばかり。
きっちりと作られたリオの豚汁とは、全く別物だった。
更には白米だ。
この世界では麦が主食。米もあるにはあるが長粒米しか見たことが無かった。
「メンドーサ子爵領は、帝都の南側でかなり温暖なんだ。その為、米の栽培も行われているんだ」
「なるほど……しかし、豚汁と白米の組み合わせは凄いな。いくらでも食べれそうだ」
「お代わりからは有料だからね」
「ぐっ……」
贅沢は言えない。昨日の半チャンセットで銀貨7枚というぼったくり。豚汁定食で幾らになるのかは、想像しないほうが吉だ。
「やはりリオに毎朝味噌汁を作ってもらう方向か」
「そんな打算に満ちた告白はいらないよ」
「何やら妙に仲が良いわね、貴方達」
シャリルの視線は怪訝そうに細められている。
「リオは大事な友達なんだから、ペットの身で変な事を考えたらお仕置きだからね」
窒息させられては堪らない。食事を終えた俺は、ささっと距離をとった。
「そ、それじゃ、早いところ借金返済のためにダンジョンへ行ってきます」
しかし、入口にはアイラが立っていた。
「今日はお散歩日和よね、レント」
「は!?」
貴重な午後の時間を、シャリルに付き合って散歩に費やされる羽目になってしまった。流石に四つん這いでリードを付けてという訳じゃないが、シャリルの少し前を露払い的に歩かされている。
「その校舎の角を曲がって」
「……」
周囲ではチラホラと帝魔の生徒が通り過ぎていく。シャリルの所有物感を見せつつ練り歩くのはかなりの羞恥プレイだ。
「ど、どこに行くんだよ」
「食後の散歩なんだから、歩くのが目的よ」
結局、シャリルの真意がわからないまま、30分ほど学園内を連れ回されて解放された。
一体何だったのか。
何にせよ思ったより早く解放されたので、ダンジョンへと向かった。
「いらっしゃい……お、魔力が上がってるね」
「え、あ、本当だ」
「ダンジョン内は成長が早いからね、思わぬ成長は感覚の狂いも生じるから油断しないようにね」
「はい、ありがとうございます」
ダンジョン入口のレンタルショップの店員から温かい言葉を貰えて、俺は購入した武具を装備してダンジョンへと潜っていく。
昨日レプラコーンと遭遇した辺りを目指し、今日は周囲の気配を意識しながら進んだ。
「まだ気配はないか」
魔物の気配が無いのを確認して、俺はつるはしを手に取る。魔力探査の魔法を発動しながら、魔石を目指して掘っていくと、程なく魔石へと行き当たる。
周囲を掘り砕くと、コロンと転がり出た石は、昨日のレプラコーンから得た石と同じ小サイズだった。
「やっぱり人の来ないエリアは魔石が育ってるな」
仮説が実証された俺は気を良くして、周囲を掘り始める。大きめの魔石は、換金効率が良いのでかなりの稼ぎになるはずだ。
しかし、つるはしを振るう音は周囲に響き渡る。それを聞きつけた魔物が近づいてきていた。
「気配が大きいな。レプラコーンじゃない」
俺はつるはしを置いて、腰に下げていたナタを手に取る。
現れたのはコボルトだった。3匹が勢い良く走ってくる。
「炎弾よ、敵を焼け。炎の弾丸」
短縮詠唱で魔法を放つと、先頭の1匹に命中。バランスを崩して転倒するが、続く2匹は器用に壁を蹴りながら勢いを殺さずに迫ってきた。
「石の礫」
詠唱なしの魔法陣を利用した魔法で、左上から躍りかかってきたコボルトを撃ち落とし、右から来るのにはナタをぶつける。
「くっ」
コボルトが勢いのままに突っ込んできたのをナタで叩くと、ナタが持って行かれそうになる。しっかりとグリップを握りしめ堪えると、腕を振り切る。
左腕を失ったコボルトがバランスを失って壁にぶつかった。そこへ追い打ちをかけようとすると、背後からの気配。振り向きざまにナタを振るうと、最初に炎弾をぶつけたコボルトが襲いかかって来るところだった。
ガゴッ!
気配だけで振ったナタはミートポイントがズレていて、柄に近い刃の付け根でコボルトの鼻面を打つことになった。
鈍い音と共にコボルトの身体が流れるが、その爪が俺の肩口をかすめていく。丈夫な体操着が裂かれて血が舞う。
「炎の弾丸」
魔法陣を消費してコボルトを焼き払うと、黒い霧となって霧散する。
その後、ナタで左腕を切り飛ばしたコボルトに駆け寄り、左腕を失いバランスがおかしく、立ち上がるのに苦労しているコボルトの首を跳ねた。
重さで断ち切るナタは、駆け寄る勢いをプラスして振るうと、かなりの威力を発揮して、その一撃でコボルトは倒れた。
石の礫を食らったコボルトもその一撃で倒せていた。魔法陣を使った魔法は、短縮詠唱の魔法より威力が高いのを実感する。
「全部魔法陣で済ませられたらいいんだけどな」
前もっての準備と、帝魔で作られる紙もそれなりにする。あまり頼る戦い方は避けたいところだ。
3匹のコボルトの魔石も小サイズあり、入口付近のコボルトに比べて石が大きかった。
「もう少し安定して戦えたらいいんだけど」
クラスで孤立してパーティが組めないのが悔やまれる。ホント、あのお嬢様は何を考えて俺に構ってくるんだか。
愚痴を言っていても仕方ない。その鎖を断ち切るには稼いで借金を返すしかなかった。俺は再びつるはしを手に、壁へと振り下ろす作業を再開した。




