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逢/別  作者: 蘭 葡
1/2

1―電車

 

寒くなってきた10月。


俺達は駅に来ていた。


交わす言葉なんて無いし、何て話し掛ければいいのか分からない。


ただ、下を向きながら駅のホームに向かった。



周りには誰も居ず、そこは俺達だけの駅に思えた。


冷たくなったベンチに腰掛け、黙って遠くを眺めていた。


『いつ、雪が降るのだろう』なんて、どうでもいいことを考えていると、電車の到着を知らせるベルがホームに鳴った。


けれど、君は立ち上がらず、黙ったまま下を向いてマフラーに顔をうずめている。


俺は何も言えなかった。


君が乗るはずだった電車は次の駅へと走っていった。



まだ、一言も話していない。


話しかけるのが怖かったんだ。


これが、君との最後の会話だと思うと、胸が締め付けられて声が出ない。



「電車…行っちゃったね…」



君から話をしてくるとは思ってなかった。



「そう…だな。乗らなくて…よかったのか?」


「乗ってほしかった?」



まさか。


そんなことは思ってない。


出来れば、このままずっと過ぎていく電車を見ながら『何のためにあそこにいたんだろうな』って笑いながら一緒に帰りたい。


けれど、それは無理な願いなんだよな。


『行くな』って言った時の君の悲しそうな顔が忘れられなくて…



また、電車の到着を合図するベルが鳴った。



「じゃあ…もう行くね」


「ああ…」


「楽しかった…今までありがとう」


「…」



言葉が、出てこなかった。



何故、恋人と別れるのにそんな真っすぐな目をしてるんだ。


もう逢えない。


手も繋げない。


笑いあったり、泣く君を慰めてやれない。



君はドアの側に立つと、笑顔で手を振っていた。



「ありがとう」



何か話さなきゃ。


そう思って、声を出そうとしたが、声が出なかった。


君が泣いている…


笑顔で手を振りながら、頬に流れる一筋の雫を俺は見てしまった。



本当は悲しいんだ。



ドアが閉まり、電車はゆっくりと動きだした。


何か言わないと…



徐々にスピードを上げていく電車と並んで走りながら、精一杯の言葉を大きな声で叫んだ。



「逢いに…逢いに行くから!きっと逢いに行くから!さよならじゃない!またな!」



君に聞こえただろうか。


何度も泣きながら首を振る君がいた。


そして、彼女の口が動いた。



「さよなら…」






君はあの時何て言ってたんだ?


逢いに行くって言ってたけど、君との距離が更に遠くなった。


俺は今、星になって君を探している。

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